猫に避妊手術を行う必要性とそのリスクについて

猫に避妊手術を行う必要性とそのリスクについて

完全室内飼いであっても、避妊手術は必要なものです。もちろん、飼い猫に妊娠出産させること自体が、悪いというわけではありません。飼い猫の出産で生まれてくる子猫たちは、特別に可愛いでしょうし、まるで孫を見られるかのような幸せな気分になりますよね。ただ、それは飼い猫の出産で生まれてくるすべての命に責任をもてる場合だけに限ります。また、猫にも妊娠出産のリスクがあります。避妊手術をうける必要性や、妊娠出産のリスクについてまとめました。

SupervisorImage

記事の監修

山口大学農学部獣医学科卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、ふくふく動物病院開業。得意分野は皮膚病です。飼い主さまとペットの笑顔につながる診療を心がけています。

猫に避妊手術をしない場合

授乳する猫

高い繁殖力

猫は人間と同じ胎生動物で、一度の出産で2~6匹の子猫を産みます。猫は生後半年頃に成熟を迎え、閉経がないため、高齢になっても妊娠出産を繰り返します。

また、猫は繫殖力に長けた動物であり、交尾をすることで排卵するので、交尾をすれば、ほぼ確実に妊娠することが分かっています。出産後、2か月ほどで妊娠可能になるため、多ければ1年に4回の妊娠出産を繰り返すことがあります。

避妊手術をせず、外への出入りが自由な場合、単純計算で年間20匹近い子猫が増えていくと考えれば、すべての子猫たちの面倒をみていくことはほぼ不可能といえるのではないでしょうか。

完全室内飼いであっても、年に2~3度迎える発情期に、性的欲求へのストレスを感じ、子宮や卵巣の疾患のリスクなどもあります。猫の避妊手術は完全室内飼いで、オス猫との交尾が絶対に行われないからといって、不必要であるとはいえません。

妊娠、出産のリスク

猫の妊娠期間は、65日前後です。破水や陣痛を経て、命がけで出産をします。もちろん、流産や早産などのトラブルや、出産時も難産や死産、大量出血などを起こすこともあり、人間と同じように多大なリスクを背負って、新しい命を産み落とすのです。

出産後も胎盤が体内に残留してしまう胎盤停滞や子宮感染症、乳腺炎や食欲不振などの体調不良が起こる場合もあります。このようなリスクを背負い、生涯妊娠出産を繰り返し続けることは、猫にとって幸せなことだといえるでしょうか。

室内飼いの猫に避妊手術をするメリット

リラックスした猫

完全室内飼いで、多頭飼いでもなく、絶対に妊娠しないのに避妊手術をすることにメリットはあるのでしょうか。望まない妊娠を避けることはもちろん、以下のようなメリットがあることから、完全室内飼いであっても避妊手術が推奨されています。

  • 発情による性的欲求のストレスや、問題行動を抑える
  • メス特有の乳がん、子宮や卵巣などの疾患を防ぐことができる
  • 繁殖行為による感染症を防ぐ
  • 避妊手術後、性格が穏やかになる場合がある

猫は生後半年頃に成熟すると、年に3~4回、4~10日間ほどの周期で、発情期を迎えるようになります。発情期を迎えると、特有の大きな鳴き声で鳴き続けたり、おしりを上げて体をくねらせ、頻繁に人や物にからだを擦りつけるラビング行為が増えたりします。

ただそれだけ?と思いがちですが、発情期を迎えたメス猫は、性的欲求へのストレスで、とても辛そうに上記の行動を繰り返します。避妊手術を受けることによって、上記のような状態を抑制することができます。避妊手術を行うことで性格が穏やかになったり、精神面が子猫のままのようになったりする場合もあるといわれています。

猫の避妊手術の注意点

診察を受ける猫
  • 全身麻酔によるリスク
  • 避妊手術後、太りやすくなる
  • 下部尿路症候群のリスクを高める可能性がある
  • 糖尿病の発症率が高まる可能性がある

避妊手術は、全身麻酔を用いた開腹手術が主流です。人間が受ける手術と同じで、全身麻酔にはアレルギー反応などのリスクが伴います。手術後は摂食量が増えるのに対し、空腹時の代謝率が減少するため、太りやすくなることや、原因は解明されていませんが、下部尿路症候群や糖尿病のリスクが高まる可能性があることなどが、避妊手術を行った際の注意点といえます。

猫の避妊手術の適齢期

猫の看護師さん

一般的に、猫の成熟は生後6ヵ月頃からです。避妊手術をうけるタイミングとしては、初めての発情期を迎える前が望ましいとされています。

猫の種類によって成熟の月齢に差があり、生まれた時期によって発情期を迎えるタイミングにズレが生じる場合もありますので、生後4~5ヵ月頃にはかかりつけ獣医に避妊手術の時期を相談しましょう。

我が家の猫は、生後6ヵ月過ぎに避妊手術を受けることになり、一度は手術の準備をしてもらったものの、血液検査で肝臓の数値に異常が見られ、手術は中断、2週間の服薬のため、手術は延期になってしまいました。そのため、初めての発情期を先に迎えてしまい、とても辛い思いをさせてしまいました。

猫を病院に連れて行くのは、猫にとっても飼い主さんにとっても大仕事ですが、猫に何度もこわい思いをさせないために、必要以上に麻酔を使用せずに済むよう、事前の血液検査をおすすめします。

猫の避妊手術の費用

万札と電卓

猫の避妊手術の費用は、2万円~4万円です。現在では、殺処分ゼロを目指す活動や、募金によって野良猫を保護して避妊手術をうける場合に限り、一律料金10000~15000円程で施術してくれる動物病院もあります。

金額的には決して安いものではありませんが、手術前や手術後は不安なことがたくさんあるので、第一に何でも相談できる、安心して猫を任せられる病院を選ぶようにしましょう。

我が家の猫の場合、一度は麻酔をかけてもらったものの、肝臓の数値の異常がみられたため、すぐに中断してもらいました。2週間の服薬後、血液検査、避妊手術という流れでしたので、最終的にかかった費用の合計額は、予定の倍近い金額でした。手術後も、服薬や通院でお金がかかる場合があります。病院から説明を受けた金額をもとに、余裕をもって準備をしておけば安心ですね。

猫の避妊手術後

靴下に入る猫

これは体験談になりますが、我が家は共働きで、日中は基本的に猫ひとり(一匹)でお留守番してもらっていました。病院ではそう過保護にならなくても大丈夫ですよと先生に苦笑いされましたが、避妊手術後は体調不良を起こす可能性もあるため、3日間休みをとりました。

日帰り手術だったのですが、不安でこわくて仕方なかった様子で、私の腕の中でぐったりしている愛猫を見て、休みをとって正解だったと心から思いました。

傷口を舐めて傷が開いたり、細菌感染を起こすことを防ぐため、エリザベスカラーをレンタルして帰っていたのですが、私の腕のなかでしか眠らないことや、エリザベスカラーをつけると後退し、続けてまともに歩けなかったことから、タイツに穴をあけた即席の術後服で過ごさせました。

しばらくは痛みからか、普段どおり高いところに勢いよく登ることができないなど、危なっかしい状態が続いたので、ずっとそばで見守りながら過ごしました。必ず休みをとってずっとそばにいる必要はありませんが、体調が万全ではないことは確かなので、手術当日、翌日は、可能な限り猫がひとりで過ごす時間を減らすほうがいいかもしれません。

猫自身もそうですが、飼い主さんも心配ですよね。いつもより低い場所に寝床を設置してあげ、エリザベスカラーが合わなかった場合の術後服を準備しておくと安心です。私の場合、前もって準備していた術後服が、小さすぎて入らないというトラブルもあったので、サイズ確認もしっかり行ってください。

まとめ

鳴く猫

妊娠を望まないのであれば、避妊手術は飼い猫がストレスなく健康に過ごすために必要な手術です。デメリットとしてあげられている太りやすいという点については、避妊手術後用のフードもたくさんあります。

まだ避妊手術をうけていない、うけるべきかどうか悩んでいるという方は、避妊手術を受ける場合と受けない場合の猫にかかる負担を比較し、どちらが愛猫が幸せに暮らしていくための助けになるかどうかを考えてみてください。1匹でも多くの猫ちゃんが、健康で幸せに暮らしていけることを願っています。

スポンサーリンク