猫は鹿肉を食べても大丈夫?

鹿肉は猫に与えても問題ない食材です。ヨーロッパなどではペットフードの原材料としても一般的に使われており、適切に処理されたものであれば、猫の健康維持に役立つ栄養素を摂取できます。
ただし、与え方にはいくつかの重要な注意点が存在します。特に生で与えることのリスクや、持病との関連については、飼い主さんが正しく理解しておく必要があります。安全に与えるための知識を身につけましょう。
鹿肉の栄養素と猫への健康効果

鹿肉は、猫にとって多くの健康上の利点をもたらす栄養素を豊富に含んでいます。牛肉や豚肉と比較して、特有の優れた栄養バランスを持っています。
高タンパク質・低脂質
鹿肉の最大の特徴は、高タンパク質でありながら脂質が非常に少ないことです。タンパク質は、猫の筋肉や皮膚、被毛など、体を作るための基本となる最も重要な栄養素です。
低脂質であるため、体重管理が必要な猫や、運動量が落ちてきたシニア猫にも適した食材と言えます。脂質の摂取を抑えながら、良質なタンパク質を効率よく摂取させることができます。
豊富な鉄分
鹿肉には鉄分が豊富に含まれています。鉄分は、血液中のヘモグロビンを構成する主要な成分であり、体中に酸素を運ぶ重要な役割を担っています。
猫が鉄分不足になると貧血を起こす可能性があります。鉄分をしっかり摂取することは、活発な毎日を支える血液の健康を維持するために不可欠です。
ビタミンB群
鹿肉には、ビタミンB群(特にB2、B12など)が多く含まれています。ビタミンB群は、食事から摂取したタンパク質や脂質、炭水化物をエネルギーに変える「代謝」を助ける補酵素として働きます。
皮膚や粘膜の健康維持にも関わるため、健康な被毛を保つためにも役立ちます。
猫に鹿肉を与える際の注意点

鹿肉は栄養価が高い一方で、猫に与える際にはいくつかの重大なリスクも伴います。以下の注意点を必ず守り、安全性を最優先してください。
生肉は与えない
鹿肉を生で与えることは絶対に避けてください。生の鹿肉には、寄生虫や「E型肝炎ウイルス」などの病原体が付着している可能性があります。
猫は肉食動物ですが、野生で狩りをする場合と異なり、管理されていない生のジビエ(野生鳥獣の肉)を与えることは、深刻な感染症のリスクを伴います。
アレルギーに注意
鹿肉は、牛肉や鶏肉などに比べてアレルギーを起こしにくい「低アレルゲン食材」とされることもありますが、食物アレルギーの可能性はゼロではありません。
初めて与える場合は、ごく少量(ティースプーン半分程度)から始めましょう。与えた後は、嘔吐、下痢、皮膚のかゆみ(特に耳や口の周り)などの症状が出ないか、数日間は注意深く観察してください。
E型肝炎ウイルスに注意
特に注意が必要なのがE型肝炎ウイルスです。これは主に豚やイノシシ、鹿などの肉に存在し、人間にも感染する「人獣共通感染症」の一つです。
猫への感染事例は稀ですが、加熱が不十分な肉を与えた場合、猫が感染するリスク、さらには猫を介して飼い主さんに感染するリスクも否定できません。
腎臓に疾患がある場合は与えない
鹿肉はリンを比較的多く含む食材です。健康な猫であれば問題ありませんが、腎臓の機能が低下している猫にとっては注意が必要です。
すでに慢性腎臓病などの診断を受けている猫は、リンの摂取量を厳しく制限する必要があります。腎臓に疾患がある場合は、鹿肉を与える前に必ずかかりつけの獣医師に相談してください。
人間用に調理された鹿肉は与えない
人間用に味付けされた鹿肉のローストや煮込み、燻製(くんせい)などは与えないでください。これらには玉ねぎやニンニク、香辛料など、猫にとって有毒な成分が含まれている可能性が非常に高いです。
また、過剰な塩分や油分は、猫の内臓に大きな負担をかけ、急性膵炎などを引き起こす原因にもなります。
猫に鹿肉を食べさせる際の与え方

猫に鹿肉を与える際は、安全性を確保するために調理方法が限定されます。必ず以下の方法を守ってください。
十分に加熱して与える
鹿肉を与える際は、必ず中心部まで火を通してください。E型肝炎ウイルスや寄生虫は、加熱によって死滅させることができます。
肉の内部温度が75℃以上で1分間以上(またはそれに準ずる条件)加熱することが推奨されます。茹でる、または焼く方法が一般的ですが、油を使わずに調理し、味付けは一切しないでください。
市販の鹿肉ジャーキーを与える
飼い主さん自身がジビエを調理することに不安がある場合は、ペット用に加工された市販の鹿肉ジャーキーを利用するのが最も安全な方法です。
ペットフード安全法に基づき製造された製品は、安全基準を満たした加熱処理が施されています。選ぶ際は、添加物や塩分が使用されていない、猫用または犬猫兼用の製品を選びましょう。
猫に鹿肉を食べさせる際の適量

鹿肉は非常に栄養価が高いため、主食としてではなく、おやつやトッピングとして少量与える程度に留めてください。
おやつやトッピングとして与える場合の適量は、猫が1日に必要とする総カロリーの10%以内が目安です。
例えば、体重4kgの成猫(避妊・去勢済み)の1日の必要カロリーが約200〜240kcalとすると、その10%は20〜24kcalとなります。
鹿肉(赤身・生)のカロリーは100gあたり約120kcal程度です。加熱調理した鹿肉を20kcal分与えるとすると、約15g〜20g程度が上限の目安となります。
ただし、これはあくまで計算上の目安です。与えすぎは栄養バランスの偏りや肥満の原因となるため、普段の食事へのトッピングとして小さじ1杯程度にするなど、ごく少量に留めましょう。
まとめ

鹿肉は、正しく処理し、十分に加熱すれば、猫にとって優れたタンパク源となります。高タンパク・低脂質で、鉄分やビタミンB群も豊富なため、健康維持に役立ちます。
しかし、生で与えることはE型肝炎ウイルスなどの深刻なリスクがあるため絶対に避け、必ず中心部まで加熱してください。また、アレルギーや腎臓疾患の有無にも注意が必要です。
安全なペット用のジャーキーを利用するか、調理法と適量を守り、愛猫の食生活に安全に取り入れましょう。