猫の精巣で気をつけたい病気
オス猫の去勢手術を受けるメリットとして望まない繁殖や尿スプレーによるマーキング行為の防止などが挙げられますが“生殖器系の病気の予防”も大きなメリットの1つです。未去勢オスの場合は精巣が腫瘍化する「精巣腫瘍」と精巣が腹腔内に留まる「停留精巣」という病気があり、注意する必要があります。
精巣腫瘍
精巣が腫瘍化する“精巣腫瘍”は猫の腫瘍の中でも極めて珍しい病気です。精巣には精子をつくる精細胞や、その精細胞に栄養を与えサポートするセルトリ細胞、ホルモンを分泌するライディッヒ細胞があります。精巣腫瘍はこれらの細胞が腫瘍化することで発生します。
6才以上のオス猫に発症しやすい傾向があり、全体の5〜20%程の割合で悪性といわれています。
停留精巣
猫の精巣は生まれたときに腹腔内の奥にありますが、生後1〜2ヶ月頃あたりに陰嚢内に降りてきます。ちなみにこのことを“精巣下降”と呼びます。 通常であれば成長とともに両側2つの精巣とも降りてくるのですが、中には片方だけや両方の精巣が降りてこないまま腹腔内か鼠径部(内股のところ)に留まることがあり、これを停留精巣(潜在精巣)といいます。
猫の精巣腫瘍の原因と症状
原因
猫の精巣(睾丸)が腫瘍化する精巣腫瘍の主な原因は、精巣が陰嚢内に降りないまま腹腔内に留まってしまう停留精巣と言われています。精巣が腹腔内に残ると陰嚢内にある場合よりも高い体温に晒されるので変化を受けやすく正常な精巣の働きができません。このことから停留精巣は腫瘍化しやすい傾向にあると考えられています。
猫の精巣腫瘍は「セルトリ細胞腫」「セミノーマ」「間質細胞腫瘍」の3種類がありますが、どれも犬と比べて発生確率は極めて低いです。
症状
精巣腫瘍はオス猫に見られる病気ですが、腫瘍細胞が女性ホルモンを分泌すると “雌性化傾向“の特有の症状が現れることがあります。 反対側の精巣の萎縮、乳腺の張り、脱毛(対称性の脱毛)や鼠径部の色素沈着がも見られたり、前立腺の腫れにより便が出にくくなることもあります。
治療法
猫の精巣腫瘍の場合、一般的には腫瘍化した精巣(睾丸)を摘出する手術となります。陰嚢内に降りた状態で腫瘍化していれば通常の去勢手術と同じ方法でおこなうことができますが、腹腔内や鼠径部にある場合はお腹を開けて摘出する開腹手術となります。 麻酔をかけて摘出することが困難な場合は、その腫瘍が悪性だと検査で確認した上で抗がん剤などの化学療法をおこなうこともあります。
猫の停留精巣の原因と症状
原因
一般的にオス猫の精巣はおよそ生後2ヶ月頃までに降りてきますが、遅くても生後8ヶ月たっても下降していない場合は停留精巣と診断されます。停留精巣は別名、停留睾丸と呼ばれており、遺伝が原因の先天的なものと考えられています。
そのため猫の停留精巣の発症率はおよそ1.7%程で、シャム猫が起こしやすいともいわれています。
症状
陰嚢内に降りてこなかった精巣は腫瘍化しやすいといわれています。通常陰嚢内に降りてきた精巣は腹腔内よりも低い温度に保たれていますが、停留精巣の場合は腹腔内にあるため高い温度で保たれているので腫瘍化する確率が上がると言われています。
中でもセルトリ細胞腫とセミノーマは悪性であることが多く放っておいてしまうと他の臓器などに転移してしまうこともあります。
また腫瘍化により女性ホルモンのエストロゲンが過剰に分泌された場合は骨髄造血機能が障害され、貧血になってしまう恐れがあります。
治療法
上述したように停留精巣の場合は腫瘍化しやすいため、その前に手術で切除する必要があります。 その際に片側停留精巣だけ取り除いても、もう1つ残った精巣により妊娠させてしまう可能性があります。停留精巣は遺伝すると言われているため、基本的に精巣2つとも摘出することになります。
その際に片側停留睾丸だけ取り除いても、もう1つ残った睾丸により妊娠させてしまう可能性があります。停留精巣は遺伝するため、生まれてくる子猫にとって好ましくないので睾丸2つとも摘出することになります。
一般的な猫の去勢手術は陰嚢をほんの数cm切開し、精巣を摘出する方法ですが、停留精巣の場合はお腹の中に精巣があるため開腹手術となります。そのため猫に与える侵襲性も手術費用も通常の去勢手術より高くなります。
動物病院によってそれぞれ手術費用が異なるので詳しい知りたい場合は、一度かかりつけの動物病院へ問い合わせてください。
猫の精巣の病気と去勢は関係がある?
早めに去勢手術を受けることで精巣腫瘍の発生防止
精巣腫瘍の主な原因は停留精巣ですが、正常に陰嚢内に降りてきている精巣でも加高齢により腫瘍化する恐れがあります。そのため腫瘍化する前に早めに去勢手術を受け、精巣を摘出することで発生を防ぐことができます。
先程お話しした通り、特に停留精巣の場合は腫瘍化しやすいため早めに去勢手術を受けることを勧めます。 また猫で精巣腫瘍が極めて珍しいのは多くの猫で早期に去勢手術を行うからであるとも言われています。
繁殖防止に正常な精巣も摘出します
猫の精巣の病気である“精巣腫瘍”と“停留精巣”は一般的な治療としては手術をおこない精巣を摘出します。しかし手術の際に異常な精巣のみ摘出し正常な精巣を残してしまった場合、生殖能力が残ってしまう状態になってしまいます。 停留精巣は遺伝すると言われており、生まれてくるオスの子猫も停留睾丸になる可能性があるため正常な精巣も一緒に摘出することが多いです。
マーキング防止や性格が温厚になる
正常な精巣とともに腫瘍化した精巣を摘出することにより去勢手術と同様にホルモンの関係で、尿スプレーによるマーキング行為の防止や性格も穏やかになる可能性があります。 ですがその分代謝が落ちてしまうため体重が増えやすく肥満になりやすいため注意が必要です。肥満になると糖尿病や尿路結石症といった泌尿器系疾患のリスクが上昇し、特にオス猫はメス猫と比べて尿道が細長いため尿道閉塞を起こしやすいため日頃から排尿できているかよく観察してあげましょう。 術後は太らせないように食事管理に気をつけることが大切です。
まとめ
猫も生殖器系の病気にかかることがあり、オス猫の場合は“精巣腫瘍”と“停留精巣”が挙げられます。
精巣腫瘍は猫では極めて珍しく、稀に去勢手術を受けていない猫でも見られることがありますが、ほとんどの場合精巣が陰嚢内に降りてこなかった停留精巣が原因といわれています。
腫瘍の種類にもよりますが悪性腫瘍だった場合、他の臓器などに転移している可能性があり場合によっては命に関わります。 特に停留精巣では腫瘍化しやすいといわれており、猫の成長スピードにもよりますが遅くても生後半年〜8ヶ月頃になっても精巣が陰嚢内に降りてきていない場合は停留精巣と診断とされるため、その時点で手術をおこなうことを勧めます。
停留精巣は遺伝によるものと考えられており、生まれてくるオスの子猫も停留睾丸になる可能性があるため遺伝防止や望まない妊娠を防ぐために去勢手術と同様に正常な精巣も一緒に摘出します。
去勢手術と同様に正常な精巣も一緒にとるので、手術をすることで性ホルモンの関係により尿スプレーの防止や性格が穏やかになる可能性があります。ですが代謝が落ち、太りやすくなってしまうため太らせないように食事管理やオモチャで遊ばせて運動させるなどの工夫をしてあげましょう。