猫の肝性脳症、原因と症状から予防法までを解説

猫の肝性脳症、原因と症状から予防法までを解説

猫の肝性脳症という病気をご存知ですか?「沈黙の臓器」といわれている肝臓はいくつかある重要な機能の中に、猫の体内にある毒素を解毒する働きを持っています。しかし肝臓は非常に再生能力が高いため、気づいた時には状態が進行し解毒できなかった毒素が脳に影響を及ぼし、猫に神経症状が現れる肝性脳症を引き起こす恐れがあります。今回は猫の肝性脳症とはどんな病気なのか、原因や症状など詳しくお話ししたいと思います。

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記事の監修

山口大学農学部獣医学科卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、ふくふく動物病院開業。得意分野は皮膚病です。飼い主さまとペットの笑顔につながる診療を心がけています。

猫の肝性脳症とは

ブランケットに潜っている猫

肝臓は栄養素の分解や合成・貯蔵などたくさん働きがある臓器で、その中に猫の体内にある毒素を分解し解毒する働きをもっています。

しかし何らかの原因によって肝臓が正常に機能しなくなると、毒素であるアンモニアが解毒されず猫の血液中に溜まり、やがて脳の機能に影響を及ぼしてしまうことで肝性脳症を引き起こし、脳障害をあたえてしまう病気です。

猫が肝性脳症になると食欲不振や嘔吐、ふらつき、黄疸のほか、口からヨダレを垂らすようになったり、ケイレン、てんかん発作などの神経症状がみられるようになります。

また肝性脳症の症状が進行し重度になると腹水が溜まり猫のお腹がパンパンに膨れあがることもあります。

肝性脳症は一般的に肝臓疾患の病気に対して治療をおこなうとともに、有害なアンモニアに対して内科治療をおこないますが、肝性脳症の原因によっては外科的手術をおこなう場合もあります。

肝性脳症はどの猫にも起こりうる病気で明確な予防法はなく、猫の命を落とすこともある危険な病気でもあります。

猫の肝性脳症の原因

ミルクと寝転がる肥満猫

肝機能障害により肝臓で解毒されなかったアンモニアの毒素が脳に到達し脳障害を起こす肝性脳症ですが、肝臓の機能不全になる原因として猫の場合は「肝炎」や「門脈体循環シャント」、「肝リピドーシス」の病気があげられます。

肝炎

何らかの原因によって炎症を起こし、肝臓の細胞が損傷や破壊されてしまう病気です。

ウイルスや細菌、真菌、寄生虫などによる感染や薬剤や肝臓に害を及ぼす毒物による中毒などが原因と考えられています。

肝臓は毒素を解毒する働きのほかにホルモンの生成や脂質・タンパク質の合成および分解などをおこなってくれますが、機能低下により食欲不振や下痢・嘔吐などの症状がみられ、状態が悪くなると猫の皮膚や粘膜などが黄色くなる黄疸が現れるようになります。

門脈体循環シャント

通常であれば食事から得たタンパク質は猫の体内で代謝される際に、毒素であるアンモニアが発生します。腸管からの吸収後、腸と肝臓を繋ぐ門脈という血管を通り最終的に肝臓により無毒化されます。

しかし、何らかの要因によって門脈から枝分かれし、全身循環に繋がる血管(門脈シャント)が存在するため、肝臓で無毒化されるはずの毒素が解毒されないまま全身に流れていってしまいます。

猫の門脈体循環シャントのほとんどが生まれつきによる先天的なものが多く、猫の場合は1才未満の発症率が高い傾向があります。

門脈シャントによりアンモニアが血液中に存在し全身に行き渡ってしまうため高アンモニア血症となります。

猫の発育不全や低血糖など様々な病気や障害を引き起こすようになり、血液中のアンモニア濃度が高くなるため発作を誘発し、肝性脳症や肝硬変になる場合があります。

肝リピドーシス

肝リピドーシスは肥満体型の猫に発症しやすく、肝臓に過剰な脂肪がたまることにより肝臓の機能が正常に働くことができなくなる病気です。

脂質の代謝異常やホルモン異常、ストレスなどが関係しているといわれており、余分な脂肪が肝臓に溜まり、肝臓組織が脂肪に変わることで発症してしまいます。

そのため肥満体型の猫が数日間食欲不振により、食事から得るタンパク質が足りない状態に陥ると、猫の体内にある脂肪代謝が妨げられてしまうことで脂肪肝を発症します。

猫が肝リピドーシスになると食欲不振や嘔吐などの症状が起こり、やがて眼の結膜や口腔内粘膜が黄色くなる黄疸がみられるようになります。ヨダレを垂らしたり意識障害を起こし肝性脳症を引き起こす恐れがあります。

肝性脳症は肝臓の機能不全により、肝臓で解毒されなかったアンモニアが脳障害を起こす2次的な病気です。猫の場合、遺伝的素因も考えられるため肝性脳症を防ぐ確実な予防法は難しいですが、肝臓に負担をかけないように体重や食事管理に注意することが大切です。

猫が肝臓機能不全により肝性脳症を発症した場合、失った肝臓の機能は元に戻ることはできないため、更に肝臓機能を悪くしないように治療をおこなう必要があります。しかし肝性脳症の症状が重度になった際は入院治療となる場合が多いです。

猫の肝性脳症の症状

ベッドで布団をかけて寝る猫

肝臓機能障害により無毒化されなかったアンモニアが原因で脳に障害をあたえてしまうため、血液検査にて猫の肝臓機能の度合いやアンモニアの数値を調べる必要があります。肝臓機能を示す項目は「ALT(GPT)」、「AST(GOT)」、「ALP」、「NH3(アンモニア)」です。

猫の正常な基準値(肝機能)

  • ALT(GPT)」…18〜108IU/l
  • AST(GOT)…8〜52IU/l
  • ALP…30〜190IU/l
  • アンモニア…20〜100μg/gl

猫が肝性脳症を発症するとアンモニアの数値が上昇し300μg/gl以上まで高くなることがあります。そのためアンモニアの数値が高い場合は肝機能障害を起こしていると考えられ、肝性脳症や黄疸、腹水の貯溜などが起こるようになります。

またALTとASTは肝臓に多く存在するアミノ酸を代謝する酵素であり、何かしらによって肝臓にダメージを受けてしまうことで数値が高くなります。肝臓機能低下によりビリルビンという物質が代謝できなくなり、血液中に増加し数値が上昇します。

そのため肝臓機能低下やそれに伴う肝性脳症を引き起こすとビリルビンの数値も高くなり、猫の白目や口腔内粘膜、皮膚の色が黄色くなる黄疸がみられます。

ほかにも肝臓機能の低下により全身の血流が悪くなります。その影響で腎臓に入る血流も悪くなるため尿量が減少し、腎臓に大きな負担がかかってしまいます。そのため腎臓の働きも悪くなり、腎不全も引き起こす恐れがあります。

一般的な猫の腎機能は「BUN」と「CREA」の2つの項目で評価しますが腎機能が悪くなるとこの数値が上昇し、特に猫は腎不全になりやすい動物でもあるため注意です。

アンモニアの数値が高いと肝性脳症に陥りやすく、初期段階では元気喪失や食欲不振、嘔吐などですが状態が進行しアンモニアの数値が更に高くなるとヨダレを垂らしたり、ふらつき、徘徊行動や旋回行動、ケイレンなどの神経症状が現れます。

意識を失い昏睡状態に陥ってしまい寝たきりになることもあります。

猫の肝性脳症の治療

獣医師に注射を打たれる猫

肝臓の治療

猫の肝性脳症を引き起こす原因が門脈体循環シャントだった場合は全身循環に繋がる血管(シャント)を遮断する外科手術をおこなう必要があります。

猫の年齢が若い時期に手術をおこなえば肝性脳症による症状が改善し寿命が伸びる可能性があります。

しかし状態によっては手術をしても命を落とす危険性は高く、シャントがある部位や猫の年齢、体力によっては手術をするかどうか慎重に考える必要があります。

薬での治療

猫の肝機能が低下すると高アンモニア血症となり肝性脳症を引き起こしてしまうため内科療法で改善させる必要があります。基本的に猫の体内でアンモニアの合成・吸収の阻害作用もつ薬を服用します。

また肝性脳症の原因であるアンモニアの生成する腸内細菌の活動を抑制するために有効な抗生剤や抗菌薬、また腸内環境を整えてくれる薬を使用することでアンモニアを少なくすることができます。

食事での治療

健康な猫であれば食事から得た栄養素は最終的に肝臓により代謝されてエネルギーへと変換されます。

しかし猫が何らかの原因により肝機能低下になるとタンパク質を代謝したアンモニアが解毒することができなくなってしまうため高アンモニア血症へとなり、肝性脳症を引き起こす恐れがあります。

そのため少しでも猫の体内にアンモニアをつくらせないようにするため、タンパク質を制限した食事療法をおこなう必要があります。また肝性脳症の原因が肝リピドーシスの場合は食事に含まれている脂肪分を制限しなければいけません。

猫の肝性脳症の予防

座る猫とフードの計測をする飼い主

定期的な健康診断を受ける

肝機能の低下により肝性脳症を引き起こしますが肝臓は沈黙の臓器と呼ばれるほど非常に再生能力が高いため、なかなか目立った症状が現れにくい臓器です。

そのため定期的な健康診断を受けることで早期発見につながり、その分早く治療することができるため猫の寿命も長くなります。

私たちの1年は猫にとっては4〜5年と早いスピードで年をとるため、成猫は年に1回、高齢猫は半年に1回の目安で受けることが好ましいです。

太らせないよう体重管理をする

猫の肝性脳症の原因の1つでもある肝リピドーシスは肥満体型の猫に非常にかかりやすい病気です。

そのため太らせないように1日のフードの給与量をしっかり守り、あたえすぎないように日々の食事管理に注意することです。

また運動不足も肥満になりやすいためキャットタワーを置いて上下運動させたり、オモチャを使って遊ばせるなど工夫をしましょう。

ベジタブルサポート ドクタープラス ホエイ(肝臓用)

出典:https://item.rakuten.co.jp

BCAA(分岐鎖アミノ酸)が配合されており、肝臓機能の補助や回復をサポートしてくれます。

また、このサプリメントに入っている水溶性食物繊維が猫の消化管でつくられる有害物資であるアンモニアを吸着し、糞便へと一緒に排泄するように働いてくれます。

また抗酸化作用をもち血液循環を改善する効果があるカボチャをはじめ、ビタミンKが豊富なブロッコリーやβカロテンが多いにんじん、しいたけなど多くの野菜類を使っており不足がちになりやすい栄養素を補ってくれます。

まとめ

女性獣医師に抱っこされている猫

肝臓は栄養素の分解や合成・貯蔵のほか、猫の体内にある毒素を解毒するなど猫が健康で生きていくために様々な役割を持っています。

また肝臓は非常に再生能力が優れている臓器であるため、肝機能低下が起こってもなかなか症状として現れにくいです。

そのため症状が出た時には肝臓で解毒できなかったアンモニアの毒素が猫の体内に溜まり、やがて脳障害を起こし肝性脳症を引き起こしてしまいます。

猫が肝性脳症になると食欲低下や吐くなどの症状からはじまり、進行すると猫の白目や口腔内粘膜などが黄色く変色する黄疸がみられるようになります。

またアンモニアによる脳のダメージで肝性脳症を引き起こすのでヨダレが口から垂れたり、ふらつき、ケイレンなどの神経症状が起こるようになります。

肝機能の働きが悪くなることで全身の血流が悪くなるので腎臓に入る血流も悪くなり、その結果、腎臓に負担がかかり腎不全も引き起こす恐れがあります。

肝機能不全による肝性脳症の原因としてはウイルスや細菌などによる感染や毒物による中毒のほか、生まれつきに多い先天性の門脈体循環シャントや肥満猫にかかりやすい肝リピドーシスなどの病気があげられます。

原因である病気に対して治療をおこなうとともに、肝性脳症を引き起こすアンモニアに対して内科療法や食事療法などをおこなう必要があります。

特に肝リピドーシスの場合は2〜3日ご飯を食べないことで起きやすいため自己判断で断食させたり、治療をやめてしまうと命を落とす恐れがあるため必ず獣医師の相談しながら、その猫にあった治療をおこなうことが大事です。

また日頃から少しでも肝性脳症になるリスクを減らすために、猫の体重を太らせないよう食事管理をしたり、猫の年齢によっては年に1回・半年に1回程度の健康診断を受けることで早期発見に大きく繋がることができます。

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