猫の脳炎の原因から症状、検査や治療法まで

猫の脳炎の原因から症状、検査や治療法まで

猫の脳に炎症が起こり、体の麻痺や意識障害、ケイレンなどの神経症状が現れてくる脳炎。場合によっては発見が遅れてしまい脳炎の進行が進み、後遺症を残してしまうこともあります。猫の脳炎は発症しやすい病気ではありませんが、発症すると非常に恐い病気でもあります。そこで今回は猫の脳炎とはどんな病気なのか、原因や症状、治療法などそれぞれ詳しくまとめてみました。

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記事の監修

山口大学農学部獣医学科卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、ふくふく動物病院開業。得意分野は皮膚病です。飼い主さまとペットの笑顔につながる診療を心がけています。

猫の脳炎とは

猫の頭

猫の脳炎は細菌や真菌、ウイルス、寄生虫などの感染が原因で脳に炎症を起こす病気です。場合によっては脳を包む髄膜や、中枢神経である脊髄にまで炎症が広がると髄膜炎や脊髄炎を発症してしまいます。

脳炎や髄膜炎は原因不明の非感染性(突発性)と感染性の大きく2つに分類され、それぞれ様々な原因が考えられますが猫の場合は猫伝染性腹膜炎(FIP)により脳炎を起こすことが考えられています。

炎症により脳や神経系がダメージをうけてしまうため症状が進行していくと体の麻痺やケイレン、意識障害などの神経症状が現れます。

脳炎を引き起こす原因によっては治ることが難しく、脳炎の初期症状は発熱などで発見が遅れてしまいやすくその間にどんどん炎症が広がり重症になる恐れがあります。

そのため猫の脳炎は治療して治ったとしても後遺症が残ってしまうことが多く、完治することが難しい病気でもあるのです。

猫の脳炎の症状

横になっている猫
  • 意識障害
  • 歩行障害
  • 前庭障害
  • 視力障害
  • けいれん

何らかの要因により猫が脳炎を引き起こした場合、初期症状として発熱と発疹が見られたり元気喪失や食欲不振など、ちょっとした体の不調からはじまります。

その後体の麻痺やケイレン、歩行障害などの神経症状を起こるようになり、脳炎を発症する原因によって現れてくる症状が変わってきます。猫風邪との症状が類似しているため間違いやすく、発見が遅れてしまうことがあります。

意識障害

何らかの原因によって猫が脳炎を起こすと、脳の炎症により意識がハッキリせず体がフラついたり、グルグルと周る徘徊行動や旋回行動、ケイレン発作や昏睡状態に陥るなどの意識障害を起こす場合があります。

歩行障害

脳に炎症が冒されている部位によって猫に現れてくる症状や度合いが変わり、特に運動機能を司る小脳に炎症が及ぶと、足を真っ直ぐに立つことができなくなり開脚の体勢が見られます。

また異常な足の上げ下げでぎこちない木馬のような歩き方をすることもあったり、体の動きをコントロールできなくなるため食器に頭を突っ込んだり壁や物によくぶつかってしまうこともあります。

前庭障害

脳炎でも脳神経の1つで平衡バランスを司る前庭器官に炎症が障害を受けると自分の頭や体の位置を正確にコントロールすることができなくなります。

猫の場合に見られる前庭障害は内耳による末梢性と脳炎などの脳の異常による中枢性の2つに分けられるが、どちらかというと末梢性による傾向があります。

脳炎により前庭器官に障害が生じるため斜頸(頭を傾ける)や眼振(眼球が小刻みに揺れる)、転倒する、嘔吐などが見られます。

視力障害

脳炎を引き起こす原因にもよりますが、ウイルスや細菌、真菌、腫瘍や脊髄炎などにより脳や、目の網膜と強膜との間にあるき脈絡膜に炎症が生じると猫の視力が低下してしまうことがあります。

脈絡膜炎を引き起こすと比較的軽度だと、ほとんど症状が現れないため気づきにくい場合が多いようです。

しかし脈絡膜は網膜に栄養や酸素を運搬する役割をもっているため、進行し重度になってしまうと網膜剥離や眼底出血を起こす恐れがあり、場合によっては失明することもあります。

けいれん

ケイレンとは自分の意思に関係なく筋肉が急激に収縮し、体を硬直したり四肢をバタバタさせるなどの症状を引き起こします。猫のケイレンは脳の異常や病気が原因で発作が起きることがあり、てんかんにより起こることがあります。

犬と比べて猫のてんかんは稀ですが、遺伝による「突発性てんかん」と脳の障害による「症候性てんかん」の2つがあります。

原因不明である突発性てんかんは3歳以下の猫に発症するといわれており、逆に症候性てんかんの場合は7歳以上の高齢猫に多い傾向があり、脳炎以外に脳腫瘍や脳梗塞、また腎不全や肝不全など内臓による障害が脳に悪影響を及ぼすことでも発症する可能性があります。

そのため脳炎を発症してもケイレンのみ症状が現れた場合は、てんかんと間違いやすく判別するのが非常に難しいです。

猫の脳炎の原因と診断

診断の説明をする医師

猫が脳炎になる原因

猫の脳炎は猫エイズや猫伝染性腹膜炎、トキソプラズマやクリプトコッカスなどのウイルスや細菌、真菌、寄生虫による感染が原因で猫の脳に炎症が生じ発症します。

猫の脳炎の診断方法

猫の脳炎および髄膜炎は非感染性と感染性に分けられることができ、様々な要因が考えられます。そのため猫が脳炎の疑いがある場合は脳のCT・MRI検査や脳脊髄液検査、血液による抗原・抗体検査、神経学的検査などをおこない診断をします。

猫の脳炎を引き起こす原因が複数考えらえるため、原因によっては特殊検査が必要な場合があったり、MRI検査をおこなったとしてもハッキリ診断することが難しいこともあり、猫の状態や症状も含めて診断する場合もあります。

しかし、脳の検査は特殊な検査でもあるため検査機械がある大きな動物病院や大学病院ぐらいしかないため、紹介状を書いてもらい受診・検査するケースもあれば、費用面なども含めて対症療法でおこなうことも少なくありません。

感染性脳炎

感染性脳炎はウイルスや細菌、真菌、寄生虫による感染が原因で発症します。ウイルス性の場合は主に考えられるのが猫伝染性腹膜炎で、特にドライタイプだと脳に炎症が生じてしまうため脳炎を引き起こすことがあります。

他にも猫エイズ(猫免疫不全ウイルス)による感染で免疫力の低下により炎症が広がり脳にまで達すると、神経症状を起こす猫免疫不全ウイルス脳症が発症することがあります。

細菌により猫が脳症を引き起こすことは稀ですが、内耳炎などの耳の中の炎症や角膜炎など目からの感染で、脳と隣接しているため細菌感染が脳まで及ぶことで脳炎を発症することが考えられます。

また敗血症などの細菌感染も脳に達し、脳炎を引き起こすこともあります。

真菌ではクリプトコッカスや寄生虫の場合はトキソプラズマやフィラリアなどの感染が原因で、それらの寄生虫が脳へ移動したことで脳炎を発症することがあります。

非感染性(突発性)脳炎

一方で非感染性(突発性)脳炎では確実な原因が不明ですが自己の免疫異常や遺伝的素因が原因と考えられており、脳腫瘍や灰白脳脊髄炎があげられます。

脳腫瘍の多くが高齢猫で見られますが、比較的年齢が若い猫でも発症する可能性がないとは言えません。

灰白脳脊髄炎も主に2歳以下の年齢が若い猫で見られ、後肢の麻痺や体の震えなどの神経症状が起こり徐々に悪化していく病気です。

猫の脳炎の治療法

注射を打たれる猫

感染性脳炎の場合

  • 抗生物質などの薬の投与
  • インターフェロンの投与
  • ステロイドの投与

感染性脳炎の治療法は原因によって異なりますが、寄生虫の場合は駆虫薬を投与させたり細菌や真菌は抗生物質や抗真菌薬、抗炎症剤などを使い、それぞれ原因の疾患やそれに伴う炎症を抑制させます。

猫伝染性腹膜炎や猫エイズが原因の場合も、他の病気を発症していることもあるため抗生物質や抗炎症剤、インターフェロンなどを使用し、現れている症状の緩和や、炎症を抑える対症療法が中心となります。

また感染症と脳炎との関係がない場合はステロイドなどを投与して炎症を抑える治療をおこなうことがあります。

現段階では猫伝染性腹膜炎や猫エイズは完治する治療法はなく、特に猫伝染性腹膜炎が原因だった場合は多くが数日〜数ヶ月で亡くなるため非常に難しいです。

非感染性(突発性)脳炎の場合

  • 免疫抑制剤やステロイドの投与
  • 抗てんかん薬の投与
  • 外科手術
  • 放射線治療

非感染性(突発性)の場合は免疫抑制剤やステロイド剤を使用したり、ケイレンが起きている場合は抗てんかん薬も併用に使います。

脳腫瘍がある場合は外科手術にて腫瘍を切除することが最もな治療法ですが、腫瘍がある場所が脳の奥など手術のリスクが高い場合は、放射線治療をおこなうこともあります。

猫の腫瘍は悪性度が高いことが多いため、その場合は放射線治療とともに抗ガン剤による化学療法をおこないます。しかし、非感染性は原因が不明であり、確実な予防法や治療法が難しく症状や状態に応じた対症療法となります。

猫に多い脳の病気

怖がっている猫

猫に発症する脳の病気は脳炎以外にもあり、今回は脳腫瘍、脳血管障害、脳震盪の3つを紹介します。

脳腫瘍

名前の通り脳やその周辺に腫瘍ができる病気で、脳に腫瘍ができる「原発性脳腫瘍」と他の臓器にあった腫瘍が脳に転移する「転移性脳腫瘍」の2つがあります。他にも猫の脳腫瘍では鼻腔内の腫瘍が脳にまで広がるケースもあります。

主に高齢猫で多いですが、中には年齢若い猫にかかりやすい腫瘍もあります。

初期症状では元気喪失や食欲不振などしか現れないため気づくのが非常に難しく、腫瘍が大きくなり神経が圧迫されてしまうことで四肢の麻痺やケイレン、視力障害などの神経症状がでてきます。

脳腫瘍でも脳にできた腫瘍の場所によって現れてくる症状が変わってきます。

脳血管障害(脳梗塞・脳出血)

猫も人と同様に脳梗塞や脳出血を起こることがあり、「脳血管障害」と呼んでいます。

脳血管障害は、脳にある血管が梗塞や出血が起こり神経症状が突然発症し、急な進行を生じます。一般的に24時間以降になると進行は止まるといわれており、猫の場合は人よりも発症する頻度は少ないです。

原因としては敗血症や腎不全、糖尿病などによる脳の血流低下や、血管炎や中毒、重度の肝不全などによる脳血管からの出血と考えられています。

高齢猫にかかりやすい腎不全や甲状腺機能亢進症は高血圧になりやすいため脳梗塞や脳出血を引き起こします。

脳の血管が梗塞・出血することにより体の麻痺や運動失調、ケイレン、旋回運動、意識障害、性格の変化などの神経症状が起こります。

脳震盪

脳震盪とは猫の頭部に激しい外力を受けたことで生じる一過性の意識障害や神経症状などの脳の障害です。

人の場合ではよくスポーツなどでよく起こるものですが、一方猫の場合は遊びに夢中になり過ぎて壁に強く激突してしまうことが考えられます。

人と比べて発生率は低いですが、体がフラついて転倒したり、目の焦点が合っておらず眼球振盪や嘔吐などの症状が起こりますが、数分〜数時間で治るケースがほとんどで後遺症もないといわれています。

まとめ

子猫を聴診している女性獣医師

体の麻痺や意識障害、ケイレンなど様々な神経症状が起こり、脳炎を引き起こす原因は細菌や真菌、ウイルス、寄生虫と非常に多くの要因が関与しています。原因によっては現れてくる症状や度合いが異なり、場合によっては後遺症として残ってしまうこともあります。

また中には猫伝染性腹膜炎や猫エイズのように完治する治療法がなく命に関わってしまう恐れもある、非常に恐ろしい脳の病気ですが、猫の脳炎はよく起こる病気ではありません。

飼い主さんの意識向上により猫の室内飼いやワクチン接種により、これらの感染するリスクを防ぎ、唯一私たち飼い主が猫を感染症から守る予防方法なのです。

ですが感染以外に、病気の二次的なものが引き金となって脳に障害が起きることもあるため定期的な健康診断を受けるとともに、猫がいつもと違う行動や様子が見られた場合は、動物病院へ受診することを勧めます。

また、地域によりますが獣医療の発達により動物の脳神経専門で診てもらえる病院もありますので一度調べてみるのもいいかもしれません。

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