助けようとして保護したのに、実は殺処分される運命に追い込んでしまった?!
道路で保護した子猫
山口県のある道路で、子猫がうずくまっていました。
通りがかった人がその存在に気が付いて「このままにしていたら、車に轢かれてしまう…」と保護しました。
でも、その人は子猫をどうしていいかわからなかったので、交番までわざわざ行き、警官にきいてみました。
「子猫を保護したのですが、どうしたらいいですか?」
その時対応した警官はこう答えたそうです。
「動物愛護管理センターに連れて行ったらいいですよ。」
助けようとしていたのに
その人は、警官に言われるがまま、わざわざそこから車で30分くらいかかる動物愛護管理センターまで子猫を連れて行ったのです。
もちろん、なんとか子猫を助けようとして連れて行きました。
でも、センターの窓口で職員さんにこう言われました。
「もしも飼い主さんが期限までに現れなかった場合は、この子は殺処分になりますがいいですか?」
殺処分!…その言葉を聞いてその人は焦りました…
だって、その人は子猫を助けようとして、自分の時間を使ってセンターまでわざわざ行ったのですから。
「助けようとして、自分が保護してセンターに連れて行ったことでその子猫は殺処分される運命を背負わせてしまった…どうしたらいいの?」
その人は猫と一緒に暮らしたことはありませんでした。
猫の事を何も知りませんでした。
でも、助けたかった…だから動物愛護管理センターに連れて行ってしまった…
その人は、目の前に助けが必要な子猫がいたから、当然のごとく手を差し伸べたのです。
それが、逆に殺してしまうかもしれない運命に子猫を追い込んでしまったことに、初めて気が付いてパニックになってしまいました。
動物愛護愛護管理センター
動物愛護管理センターというのは、つまりは『保健所』です。
そこは基本的には持ち込みされた動物達を処分する所なのです。
今では『愛護』という名前をつけて里親探しも行っていますが、『管理』という言葉がついている所には管理棟という建物があり、そこには殺処分機があります。
動物達を管理する場所というわけです。
『愛護』が譲渡などをする”愛護棟”で、『管理』が引き取ったり捕獲したりした動物達を一旦収容してその後、殺処分も行う管理棟の二種類の施設がある場所を『動物愛護管理センター』と一般的には名付けれらています。(地区によっては別の名称もついています)
ボランティア団体
そのセンターの窓口には、ボランティア団体の連絡先などが書かれたチラシが置いてありました。
センターの職員さんからも、そこに相談してみるように助言されたそうです。
それで、電話がかかってきました。
私が所属するボランティア団体『ディ・アンク』の代表の携帯電話にその人が泣きながら電話してきたのです。
「助けたつもりだったのに、7月11日までに子猫の飼い主さんが現れなければ殺処分されてしまうんです…お願いです!助けて下さい!このままでは殺されてしまいます…」
右回りの子猫
その相談を受け、代表はすぐにセンターに子猫を見に行きました。
センターの獣医さんの話では、ケージの中でずっと右回りにグルグルと回っているので、片目が見えていないのかもしれないとのことでした。
残念ながら、すぐに子猫を引き出して助けることはできませんでした。
私達のボランティア団体は、今年6月に活動を始めたばかりで、まだシェルターなどを持っていません。メンバーは個人で既に複数の犬猫達を抱えていました。そのため、これ以上の保護はできなかったのです。
どうすればいいのかを、メンバーで話し合いました。
その結果、子猫の譲渡会をしようということになりました。
場所探し
でも、譲渡会の場所が中々見つかりませんでした。
ディ・アンクは寄付はまだ集めていません。
そのため、資金がありませんでした。
無料あるいは安価に借りれて、猫達を連れて行けるところで、室内の空調設備が整っている場所。
夏の日差しは厳しいです。外で長時間の譲渡会などしてしまえば、体力のない子猫達は脱水症状を起こしてしまいかねません。子猫の譲渡会を真夏に開催するには、室内が最低条件でした。
助けの手
なかなか会場が見つからない中、ある女性が私たちのボランティア活動を手伝いたいと言ってきました。
その女性といろいろ話している時、この子猫の話になったのです。そして助けるためには、譲渡会を開かなければならないこと、室内でそれができる場所を探していることを話したのです。
すると、その女性が思わぬ言葉をかけてくれました。
「昼間なら、私のお店を使って下さい!」
なんとその女性が経営しているお店を譲渡会の会場として無料で提供していただけることになったのです!
その女性は、市内でクラブを経営していました。
だから、昼間は店は閉店しています。
猫もOKということで、エアコンもついています!
とうとう譲渡会場が見つかったのです!
期限延期
譲渡会を開催する目安がついたため、代表はすぐにセンターと交渉しました。
「今月29日に譲渡会をするので、それまであの子猫の期限を延長して下さい!」
センターも、それを承知してくれました。
子猫は、譲渡会前に代表が引き出して、猫エイズ、白血病などの検査をすることになりました。
でも、もし、譲渡会で里親が決まらなかったら?
子猫の行き場はありませんでした…
「その時は、なんとかする!センターに戻すわけにはいかない!」という代表はきっぱりと言い切ったのです。
チラシ
譲渡会のチラシを作り、メンバーで市内各所にポスティングをしました。
市内の様々なお店がポスティングに協力してくれました。
更に、地元のケーブルテレビ局にも市内のイベント情報として譲渡会のお知らせを何度も無料で放送していただけました。
私達の団体は寄付を集めていないため、活動資金がありません。
すべてメンバーの個人負担なので、みんなでできる範囲でできる限りの事をして譲渡会のことを宣伝し続けました。
センターに収容された右回りの子猫だけでなく、地元で個人で猫の保護活動をされている方たちにも声をかけて譲渡会に参加していただきました。もちろん、すべて無料です。参加費用などは一切ありません。
会場は、クラブのオーナーが無料で提供してくださり、エアコンもフル稼働させてくださいました。前宣伝と会場準備はディ・アンクでやりました。
当団体主催の初めての譲渡会に、市内で保護された子猫が約15匹集まりました。
検査
譲渡会の数日前に、代表がセンターから右回りの子猫を引き出して、獣医さんに連れて行き、猫エイズ、白血病などの検査を行いました。
譲渡会参加の条件は、参加する子猫は必ずその検査を受けることでした。
たとえ陽性であろうとも、譲渡会参加はさせますが、陰性の子と陽性の子は部屋を別にしなければなりません。そして陽性の子は、それを説明してからの譲渡となります。そのため、事前に検査していただいた次第でした。
センターの右回りの子はどちらも陰性でした。みんなが胸をなでおろした瞬間です。
代表が事前に引き出して検査に連れて行き、譲渡会までまたセンターに戻す事になっていました。
でも、獣医さんが「センターには野良猫とか複数が収容されてくるのでせっかく検査して今陰性なのに、センター戻すと譲渡会までに病気をうつされるかもしれない。それは避けた方がいいので、譲渡会まで僕の病院で預かりましょう!」と言って下さったのです。
獣医さんの好意でした。
台風
譲渡会当日は、台風が接近しているという最悪の天候でした。
それまでずっとお天気だったのに…よりにもよって…何故、この日に台風が来るのだろう?
そんな恨めしい気持ちに正直なったものです。
実は、この日、大分県から右回りの子猫を見に来るという女性がいたのです。
でも、台風が近づいているから、きっと無理だろうな…そう思っていました。
朝から雨が降って、風も強くなっていました。
避難勧告が発令されたら、譲渡会は中止しなければなりません。
メンバーは皆、祈るような気持ちでした。
何日も前から、この日のためにみんなでポスティングして宣伝してきたのです。
センター収容で殺処分が決まっていた子猫をなんとか助けようと、みんなで力を合わせたディ・アンク初の子猫の譲渡会なのです。それがよりにもよって、台風が来るなんて…
悪天候の中、来訪者は、やはり振るいませんでした。こんな天候では仕方ないです。
あんなに宣伝したのに、あんなに頑張って準備したのに…
それでも、何匹かに里親が決まればいい!
センターの右回りの子猫に里親が決まればいい!
そういう気持ちで午前10時から午後3時までの5時間の譲渡会を開催しました。
遠方から来た女性
なんと、右回りの子猫に会いに、大分県からわざわざこの悪天候の中、車で2時間もかけて、その女性は私たちの譲渡会に来てくださったのです!
「台風が来る前にと思って、朝一番できました!」
その女性は、センターで殺処分が決まってしまった右回りの子猫を、助けるために、遠方から駆けつけてくれたのです!息子さんと一緒でした。息子さんも猫が大好きで、もし、母親に何かあった場合は、自分が子猫の世話を最後までするからとおっしゃってくださいました。
それで、その母子に右回りの子猫を託すことになりました。
「他に誰か市内の方で希望者がいれば、私たちのことはいいですからね。子猫にとっても遠くまで連れて行かれるよりは近くの方にもらってもらった方がいいし…」と言われてしばらく譲渡会を見物して下さいました。
でも、誰も右回りの子猫に興味を示さなかったため、この母子が里親さん候補となりました。
里親決定
その後、2週間のトライアル期間を経て、里親決定となりました。
先住猫ともすぐに仲良くなったそうです。
まるで姉妹のよう…
最後に
動物愛護管理センターは、里親探しも一部の収容動物達にしていますが、そのすべてを譲渡対象にすることはできません。威嚇や病気など問題がある動物たちは間違いなく殺処分されてしまいます。
今回の右回りの子猫も、問題ありと判断されての殺処分決定でした。
でも、私達団体が引き出して検査した結果、何も問題はありませんでした。
里親さんの家でも、やはり右回りの癖は時々出ているそうですが、生活に特に支障はないとのことです。
助けようと保護しても、最終的にセンターに連れて行かれれば、殺されるかもしれないという事をどうか知ってください。(殺処分ゼロを宣言している地区もありますが、やはり問題を抱えて入る動物は処分されているのが現実です。)
”助ける”というのは、必要な医療などを受けさせた上で、最後までその子と一緒に暮らしてちゃんとお世話することです。
保護だけして、後は誰かになんとかしてもらおうというのは、助けた事にはならないと思います。
センターに連れて行けばなんとかしてくれるだろう?ボランティア団体に頼めば助けてくれるだろう?それは根本的に間違っているということに、どうか気が付いて下さい!命を助けるという事は、そもそも誰かに託すというような半端な気持ちではできない事なんです…
今回の譲渡会では、悪天候の中、訪れた人は子供を含めてわずか15人程度でした。
参加した子猫は、市内の個人保護主さんたちの子猫が約15匹。そして、ディ・アンクがセンターから引き出した子猫が1匹。
結果、6匹の里親さんが決まりました。
僅かな来訪者で、まずまずの成果をあげることができました!
何よりも、センターで殺処分が決まっていた右回りの子猫に里親さんが現れたのですから、この譲渡会は、結果、大成功だったと思います。
1匹の子猫を助けるために、たくさんの人達が動きました。たくさんの人達の善意が集結しました。命を助けるということは、生半可なことではないという事です。みんながこの子を助けようとしてくれたおかげで、この子の命は最終的につなげることができました。
どうかお願いです。子猫を拾ってセンターに連れて行くのは避けて下さい…
それは結果、その子の命を奪う事と同じです。
※尚、この記事や写真に登場する関係者には承諾を得ております。