写本に残る猫の足跡

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米国ボルチモアにあるWalters美術館で、2026年2月末まで「羊皮紙の上の足跡展」が開催され、猫好きの人々の間で話題です。
というのも、ここでは15世紀の猫の足跡が残る欧州の文献などが展示され、当時の人々がいかに猫を愛し、生活を共にしていたかを垣間見ることができたからです。
500年以上前、あるフランドルの学生が重要な文献を何時間もかけて丹念に書き写して、その羊皮紙を乾かすために外に置きました。ところがしばらくあとに戻ってみると、そのページには「猫の足跡」のインク汚れが残っていたのです。近くにいた猫が紙の上を歩いたに違いありません。
同美術館はこうした文献を集めて展示し、中世の猫がいかに人々に愛されて暮らしていたかを現在のわたしたちに見せてくれました。
「この写本をはじめとする品々は、時代を超えて人々の心に届きます。猫を飼ったことがある人なら、だれでも共感できるからです。中世の人々は、わたしたちと同様に猫を愛していました」と話すのは、同美術館の貴重書・写本担当学芸員Lynley Anne Herbertさんです。
猫が人と暮らした「証拠」の数々

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このフランドル語の写本を発見した後、彼女はさらに調査を進めて「中世の猫が人間たちと生活していた証拠」をいろいろと集めました。
たとえば13世紀のイスラム宇宙論「天地創造の驚異」のトルコ語版には、植物の間に座る黒猫の挿絵が載っています。預言者ムハンマドは、イスラムの重要なシンボルである猫をかわいがったからです。
同じ13世紀には、スルタンのAl-Zahir Baybarsが野良猫に住まいと餌を提供するために、エジプトのカイロに「猫園」を創設しました。
今回展示されている17世紀の「アルメニア福音書」には、家庭生活において重要だったと思われる「猫の挿絵」が無数に掲載されています。
さらに 15世紀の絵画「聖母子と猫」には、生まれたばかりのイエスの横に小さな子猫が描かれています。聖母マリアがイエスを出産したときに「飼い葉桶の中で猫が子猫を産んだ」という、あまり語られていないキリスト教の伝説を示唆している可能性が高いと思われます。
ネズミ退治も重要な役割

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同時に、中世の人々は現代よりもはるかに「猫の狩猟本能」を活用し、自分たちの生活防衛に役立てていました。
「ネズミを捕まえて殺すという猫の能力は、人間たちの健康的な生活維持に不可欠なものでした。害獣が食料庫に入り込んで食い荒らしたり、人間に感染させたりすることが多かったからです。ネズミは布や本といった貴重なものも、平気でかじってしまうのです」とLynleyさんは話します。
「ごく初期の段階から、人々は猫がすぐれたネズミ捕りであることに気づいていました。当時の百科事典には、猫はネズミを捕まえる能力だけで定義されているほどだったのです」という彼女。
「羊皮紙の上の足跡」展は、今後2年にわたって開かれる予定の「芸術における動物をテーマにした3つの企画」の最初の展覧会です。開催を記念し、同美術館はボルチモア動物保護シェルター(Baltimore Animal Rescue and Care Shelter)の協力により、生後6週間の子猫4匹を招いて展示作品を鑑賞してもらいました。そして思いがけないことに、このうちの2匹をその後Lynleyさんが自宅に引き取ったといいます。
「これは本当に予想外で特別な結果でした。2匹を見た瞬間、忘れられなくなったのです。今回は写本ではなく、わたしの心に足跡を残したのでしょうね」と笑う彼女です。
出典:A Cat Left Paw Prints on the Pages of This Medieval Manuscript When the Ink Was Drying 500 Years Ago