猫にペースメーカーを

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Chulalongkorn大学獣医学部の獣医師たちが、タイで初めて猫へのペースメーカー植え込み手術に成功しました。生理学科のAnusak Kijtawornrat准教授が中心になったこの手術は、高度な動物の心臓病治療として画期的なものになりました。
患者は8歳の雌猫Pepsiです。この猫は1日に3、4回ほど失神する「発作」に悩まされていました。でも手術のあとは完全に回復し、体力もついて遊び始めるようになり、今では普通の質の高い生活を楽しんでいます。
Anusak医師によると、Pepsiは無気力になり、衰弱して虚脱状態になったり、筋肉が硬直したり、突然鳴き声を上げたりといった症状のため、同大学付属の小動物病院に連れてこられました。初期の検査では神経か心臓の疾患ではないかと疑われましたが、薬物療法では改善しませんでした。
さらに検査を続けたところ、「重度の不整脈」があることがわかったのです。心房と心室の間の電気信号が遮断されてしまい、心臓の下部にある心室から脳へ十分な血液が送られなくなって、失神発作を起こしていたのでした。
「ふつう猫の心臓は1分間に約140~220回鼓動しています。しかし電気刺激が遮断されて心臓が効果的に収縮しなくなると、失神を引き起こします。こうした症例はめずらしく、猫の心臓疾患のうち約10%に過ぎませんが、高齢の猫ではより多く見られる傾向があります」と話すAnusak医師。そこで正確な診断のため、24時間の心電図を記録する「ホルター心電図検査」が行われました。
犬と違って難しい手術

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心臓をきちんと収縮させるためには、ペースメーカーを埋め込むことが必要です。でも首の静脈から導線を挿入できる犬の場合と違って、猫は細い静脈をもつうえ心筋の厚さも薄いのです。菅が心臓を刺してしまう危険もあり、非常に難しい手術になることが心配されました。
そこで手術チームは肋骨の間の胸腔を切開し、心臓に直接アクセスすることにしました。心臓表面に導線を装着し、腹筋の下に埋め込まれた小型の発電機に接続しました。
「この方法はより複雑ですが、小動物にとっては安全なのです。以前は横隔膜から導線を装着していましたが、胸腔のほうが埋め込むのが簡単で正確にできるのです」というAnusak医師。
手術は約1時間かかり、心臓専門医や外科医、麻酔科医、血管の専門医を含むチームが連携しながら作業を行いました。
Pepsiのペースメーカーは、人間用のものと同型ですが、猫の体にあった短い導線が取り付けられています。ペースメーカー本体は約45000バーツ(約22万円)、リードは10000バーツ(約4万9千円)かかります。幸いなことに、今回のペースメーカーは寄付されていたものを滅菌して再利用したため、飼い主が負担する費用はさほど高額ではありませんでした。
今後の高度医療へ期待が高まる

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手術後、Pepsiは急速に回復し、失神することもなくなりました。餌も普通にとれるし、飼い主や他の同居猫たちとも元気に交流しています。ただしペースメーカーが正常に機能していることを確認するため、3ヵ月ごとに検査を受けることになっています。
これまで猫へのペースメーカー植え込みは、診断の難しさや専門的な研修の不足、機器のコストなどから、タイ国内ではあまり進んでいませんでした。
「今回の成功は、タイの動物医療が高度な手術を実施できる段階にあることを示しています」と話すAnusak医師。
「飼い主のみなさんには、愛猫が衰弱したり失神したりする場合、すぐに獣医師の診察を受けていただきたいですね。また、獣医学を専攻する学生の方々は、常に進歩する技術を学び続けて適応していってほしいと願っています。確固たる基礎を築いたうえで継続的に自己研鑽を続けることで、タイ国内では不可能だと思われていたような高度な医療も、現実のものになるのです」(Anusak医師)
出典:Chula Veterinarians Achieve National First with Pacemaker Implant in a Cat