お気に入りの別荘で猫たちと同居生活

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1921年、大作曲家モーリス・ラヴェルはパリ郊外の小さな別荘に移り住みました。彼はその別荘を「Belvedere」と名づけました。それは彼にとって最初で最後の持ち家であり、夢の住まいでもありました。
ラヴェルに配偶者はいませんでしたが、この偉大な作曲家はシャム猫たちと同居していました。1920年代にはヨーロッパでシャム猫を見ることはあまりなく、19世紀後半にこの地域に紹介された比較的新しい猫種だったのです。
シャム猫はその夢見るような青い目、なめらかでエキゾチックな外見、独特の鳴き声で有名です。ボール遊びも大好きで、お気に入りの人間ができると、膝の上で眠るのを好みます。ラベルはきっとそんなシャム猫の性格が気に入ったのでしょう。
オペラ作曲にも猫の視点が

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ラヴェルは猫を熱心に観察しました。「猫の知性と献身的な性格は、まるでバスク人のようだ」と話したこともあります。実は彼自身、スペインとフランスの国境に近いフランス・バスク地方の小さな町で生まれているのです。自分と猫たちの類似性を感じ取っていたに違いありません。
その猫たちは、彼の仕事机の上を自由に動き回ることが許されていました。
そうした猫の行動は、彼のオペラ楽曲「子供と魔法」(L’enfant et les sortilèges)にもインスピレーションを与えたようです。
このオペラの台本を担当したフランス人作家コレットは、身近な植物や動物などを虐待する行儀の悪い少年を描きました。物語では猫たちが話し始め、協力して少年を驚かせるというストーリー展開になっています。
「鳴き声」歌に、飼い猫たちもびっくり

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ある日、ラヴェルと友人で著名なバイオリニスト、エレーヌ・ジュールダン=モランジュがこの別荘で自作の「ニャードゥ・デュエット」(Duo miaulé)を歌っていました。この曲は猫の鳴き声を模した歌詞とメロディーが特徴で、「子供と魔法」の作品の一部になっています。
彼らのパフォーマンスがあまりに見事だったせいなのか、すぐに2人の前には心配そうな顔をしたシャム猫たちが集まってきたといいます。
あるときこの別荘で子猫が生まれたため、たいへんな騒ぎになりました。ラヴェルが子猫を抱いている写真が撮られ、上記のエレーヌは名づけ親に指名されました。
ラヴェルは「あなたが名づけた子猫は元気だけど、その弟は食べ過ぎて胃炎を患っているんだ。それでも芝生でのジャングル遊びはやめられないようだね。ではまたね。あなたの鼻の先を舐めてあげるよ」とエレーヌに書き送っています。猫のような彼の態度がよく表れていますね。
生涯独身を通し猫たちを愛したラヴェル。その作品はいまでも人々を魅了し続けます。