初の培養肉キャットフード
英国に拠点を置く食肉生産加工会社「Meatly」が、人工的に培養した鶏肉を使って、世界初の「環境にやさしいキャットフード」を製造したと発表しました。
この製品は、Guy Sandelowsky獣医師が英国で創立した、「Omni」社との協働により実現したものです。同社はこれまで、豆などの「新たんぱく質」を原料としてペットフードを作ってきました。
「Meatly」の声明には「画期的なできごとです。当局の承認が得られれば、わが社は人工培養した肉を使った製品を、欧州で販売する世界初の企業になるでしょう」とあります。
同社のウェブサイトによると、鶏卵の細胞を少量利用することで、3段階の工程を経て培養肉が完成するということです。
培養方法は、細胞の成長に必要なすべてのビタミン、ミネラル、アミノ酸を添加したうえで、温度と酸性度が管理された容器の中で育てるというもの。
「今回の実用化により、今後当社は動物肉を原材料にする必要がなくなります」と説明されています。
初めて培養肉を利用してフードを作ったOmni社は、これまで「倫理的で環境にやさしい製品」をモットーに、豆類や藻、酵母タンパク質の飼料から作られたドッグフードを販売してきました。
その売り上げは200万ポンド(約3億8千万円)以上になります。今回は、生活の質を優先して快適な環境で育てられた鶏の卵をもとに、Meatly社が栽培した肉を使って、猫用の缶入りウエットフードを製造したものです。
「栽培肉は無制限に手に入るし、よりよい環境で育てられた鶏をもとにしているので、きっとペットの健康にもよいはずです。より多くの必須ビタミン、ミネラル、オメガを摂取できるし、従来の肉に残留していた抗生物質などを排除できるのです。これまでキャットフードの分野では適切な代替たんぱく質がなかったので、今回製造された培養肉はおおいに役立ちます」というSandelowsky医師です。
拡大を続けるペットフード市場
Omni社によれば、今回の製品化はペットフード業界全体にとって大きな転換点になります。
というのも、年間7%の成長を続けるこの市場は、2026年には1,200億ポンド(約23兆円)の規模に拡大すると予想されています。
一方で環境問題は深刻化していきます。現在英国で消費されている肉の22%はペット用で、これを生産するための温室効果ガスの排出量もばかになりません。
「農畜産業への依存を減らしながら、持続可能で味もよく栄養価の高い肉を生産することが求められているのです。培養肉の製造により、飼い主は良質でおいしく、栄養豊かで環境にもやさしいフードを選ぶことができるようになります。Omni社のような革新的な企業と協力しながら、この事業を進めていけることをとても喜んでいます」というのは、Meatly社の代表取締役Owen Ensorさんです。
Meatly社は現在、「英国食品基準庁」と「環境・食料・農村地域省」に密接に連絡をとりながら、認可の手続きを進めています。もし認可されれば、英国全域で培養肉によるキャットフードの販売が始まります。
持続可能な製品を求めて
認可が降り、無事製品化された場合は、小売販売業「Pets at Home」が最初に製品を扱う小売店になるだろうということです。
「世界で初めて環境にやさしい培養肉によるペットフード缶が製造され、ベルトコンベアに運ばれていくのを見るのはとても興奮します。画期的なことです。われわれも販売開始の準備は整っていますよ」
小売販売業「Pets at Home」の商業担当取締役David Wainwrightさんは、「新しい製品を売る日が待ちきれない」といいます。
「まだスタートしたばかりの培養肉ですが、世界中でペットフードに使われている通常のたんぱく質の代わりに、持続可能な代替品ができたことは大きな前進です」とDavidさん。
実は今回の商品化に先立ち、2023年6月には「BioCraft Pet Nutrition」社がすでに鶏の細胞から培養した肉を実用化しています。
これは犬や猫のフードに利用されていて、「通常の鶏肉より栄養価にすぐれ、安価に増産できるうえ、動物細胞を精製して抽出する必要もないので、ペットフードメーカーにとっては原料として使う利点が大きいのです」(同社代表取締役Shannon Falconer博士)といいます。
ただしこの肉は、二酸化炭素排出量は通常の畜産業によるものと変わらないようです。
技術革新により、どんどん変化するペットフード。愛猫にどれを与えるのか、飼い主も真剣に情報収集していく必要がありそうです。