1.舌のザラザラは肉を食べるときに役立つ
野生の猫はキバを使って獲物を仕留めますが、前歯は極端に小さく皮や肉は噛み切れません。前足の爪で獲物をおさえ、奥歯を使って引き裂きます。
基本的にあまり咀嚼(そしゃく)をせず、肉を丸呑みしますが、そのときに舌が役立ちます。ザラザラした部分を使い、口の中の肉を引っ掛けて、喉の奥へ送りこみやすくなっているのです。
また、舌のザラザラはやすりのように硬いため、残った骨の部分についている肉を舐めることでこそぎ取れます。お皿に残ったウエットフードを舐めるときと同じ行動です。
これは、野生下の狩りは必ずしも成功するとは限らないため、獲得した獲物をできるだけ食べつくせるように舌が発達したものと考えられています。
2.猫は猫舌で味覚には鈍感
熱いものが食べられない人のことを「猫舌」といいます。猫が熱い食べ物を食べられない様子が言葉の由来となっています。
実際のところ、自然界では捕食動物の体温を超えるような熱い食べものは口にすることがないため、猫だけでなく他の動物も「猫舌」だったりします。
ところで、私たちは熱すぎる食べものでは、あまり味を感じないことがありますね。
食の好みにうるさいといわれる猫ですが、味を感じるセンサーの味蕾(みらい)は、わずか750個しかなく、人間の1万個に比べてとても少ないことがわかります。
毒物や腐敗物を避けるため苦味や酸味には敏感ですが、塩味や甘味もあまり感じないようです。
猫は熱い食べものでなくても、味には少々鈍感なようです。
3.生まれたばかりの幼猫の舌はザラザラしていない
実は、生まれて間もない幼猫の舌は、あまりザラザラしていません。子猫が母乳を飲むときには、まだ舌のトゲは必要ないためです。
生後3週以降に離乳して、子猫が自分で舐めたり食べたりできるようになってくると、舌のトゲトゲも成長し、食べるときや毛づくろいに役立つようになってくるのです。
成長とともに出てくる猫の舌のトゲは約300本。1本ずつがストローを縦に割ったように、中が空洞になっています。
空洞には適量の唾液がためられ、まるで髪の毛をスプレーで湿らせながらブラッシングするように毛づくろいができるのです。
この唾液を使った毛づくろいは、暑いときは被毛についた唾液の蒸発を利用して体温があがるのを防ぎ、寒いときは毛並みを整え、毛の間に空気を含ませて保温効果を高めるなど、体温調節にも役立ちます。
自分でグルーミングする動物はたくさんいますが、「独自のブラシ」を使って毛づくろいをするのは猫ならではの行動なのですね。
まとめ
猫の舌は、味覚を感じ、食べたものを食道に送るなど、舌の機能はヒトとあまり変わりませんが、その性能は猫ならではの進化をしています。
食べるときには肉をこそげ取るために舌のザラザラが発達し、毛づくろいをするときにもブラッシングの効果を生み出しています。まだ自分で毛づくろいをしたり、固形物を食べたりできない幼猫には、このザラザラは存在せず、大きくなる過程で発達していくのです。
実は、舌のザラザラはイエネコだけでなく、ネコ科動物であるライオンやトラ、チーターの舌にも見られます。
この舌の特徴がどの段階で進化したのかは解明されていませんが、ふだん目にする愛猫の毛づくろい姿も、動物園にいるあの大型ネコ科動物と同じだと考えると、より一層興味深く感じられますね。