猫にもある「骨粗鬆症」
骨は全身を支え、内蔵を守り、関節を支点として体を動かせるようにしている、とても大切な器官です。また骨の中心部の骨髄にある造血幹細胞は血球を作り、体内のカルシウムの99%を骨に貯蔵していて、血中のカルシウム濃度が低くなると補給します。
動物には寿命がありますが、動物自身の寿命とは別に、個々の細胞にも寿命があります。古い細胞は壊れ、新しい細胞が生まれるという新陳代謝を繰り返しながら、動物はその寿命を全うします。新陳代謝をするのは、骨も同じです。
古くなり脆くなった骨は、しなやかで強い骨に生まれ変わることで、骨全体の強さを維持しています。この骨の新陳代謝を担っているのが、古い骨を壊す破骨細胞と新しい骨を作る骨芽細胞です。
ところが、新陳代謝のバランスが崩れ、強いはずの骨が脆くなってしまった状態を「骨粗鬆症」といいます。人の場合は高齢者に多く見られ、骨粗鬆症による骨折は、寝たきりになってしまう原因として、脳卒中についで2番目に多いほどです。
そしてこの「骨粗鬆症」は、シニア期に入った7歳以降の猫にも多く見られます。
今回は、猫の骨粗鬆症について、原因や症状、治療法などを解説します。
猫が「骨粗鬆症」になる原因
では、猫が「骨粗鬆症」になってしまう原因には、どのようなことがあるのでしょうか。
1.栄養不良
骨は、主にリン酸カルシウムとコラーゲンというタンパク質でできています。このうちの無機質、つまりカルシウムやリンの量を「骨量」といい、単位体積内の骨量を「骨密度」といいます。新陳代謝の過程で、骨内のカルシウムが血液中に溶け出したり骨に沈着したりすることで、骨密度が保たれています。
また、骨の土台となる「骨梁」を作っているのがタンパク質で、カルシウムを骨に沈着するのを助けているのがリンです。さらにビタミンDが肝臓や腎臓で活性型ビタミンDになり、腸からのカルシウムの吸収を活性化します。
最近は良質なキャットフードが普及しているため、基本的には栄養不良で骨粗鬆症になるケースは少ないかもしれません。しかし、高齢猫に多い「慢性腎臓病」になると、腎臓での活性型ビタミンDの合成力が低下し、骨密度が低下して骨粗鬆症になることもあります。
2.運動不足
どんなに栄養素をしっかり摂取しても、それだけでは不十分です。骨梁にカルシウムを呼び寄せる電気を発生させるために、負荷を与える運動が必要なのです。人の場合では、骨を丈夫に保つために、1日に8,000歩の歩行運動が必要だといわれています。
猫も同様で、シニア期に入って筋力が低下してきたなどの理由でだんだん動かなくなってくると、骨梁に沈着するカルシウム量が低下し、壊される骨と作られる骨の量のバランスが崩れて骨粗鬆症になりやすくなります。
3.副甲状腺機能亢進症
副甲状腺とは、甲状腺の裏側の四隅に1個ずつある器官で、副甲状腺ホルモンを分泌する器官です。副甲状腺ホルモンは、血液中のカルシウム濃度に応じて破骨細胞や骨芽細胞を活性化させ、骨中のカルシウムを溶かしたり、骨にカルシウムを沈着させたりしています。
しかし、副甲状腺機能亢進症になると、常に血液中のカルシウムを増やそうと、骨中のカルシウムを溶かし続けてしまいます。そのため骨密度が低下して脆い状態になってしまい、骨粗鬆症になるのです。
副甲状腺機能亢進症の初期症状としては、多飲多尿、食欲不振、嘔吐などが見られ、骨密度が低下していきます。
猫の「骨粗鬆症」の症状
骨粗鬆症になり骨が脆くなると、慢性的な痛みが生じたり、骨折が起こりやすくなります。ちょっと転んだりぶつけたりしただけで、足首の骨や大腿骨の付け根の部分などを骨折してしまいます。
シニア期に入った猫が下記のような症状を見せた場合、骨粗鬆症を疑えますので動物病院で診てもらいましょう。
- 元気がなくなる
- 動きが遅くなったり固くなったりする
- 関節をさわると痛がる
猫の「骨粗鬆症」の治療法
ここからは、猫の骨粗鬆症の治療法について解説いたします。
基礎疾患の治療
まず骨粗鬆症の原因となる病気がある場合は、その治療を行います。
慢性腎臓病の場合は治癒できないため、病気の進行を遅らせるための治療を行います。副甲状腺機能亢進症の場合は輸液療法で症状の改善を図り、改善が見られない場合は手術で副甲状腺を切除します。
ただし、すべての副甲状腺を切除してしまうと、血液中のカルシウム濃度が継続的に低い状態になり、生涯投薬と検査を続けなければなりません。そのため、可能であれば1個は残すようにすることが多いです。
運動療法
骨にカルシウムを沈着させるために、適度な運動をさせます。もちろんシニア期に入った猫に無理は禁物ですが、無理のない範囲でできるだけ運動をさせるようにしましょう。まだ足腰に力がある場合は、積極的に猫じゃらし等で遊ばせましょう。
足腰が弱くなり、トイレが間に合わなくなってしまったような場合でも、まだ歩けるのであれば、寝床とトイレの距離を近付けたり、トイレ周囲にトイレシートを敷いたりして、できるだけ自力でトイレに行かせるようにすることも大切です。
食事療法
現在愛猫に食べさせているフードの栄養バランスが適性ではない場合、かかりつけの獣医師に推薦された適切なフードに切り替えましょう。
手作り食の場合も、適切なバランスになるレシピを教わりましょう。
まとめ
最近は猫の平均寿命が長くなり、シニア期以降の生活が長くなってきました。
そのため、ただ長生きを目指すのではなく、健康寿命を伸ばすための工夫も必要になってきています。
適切な食事や適度な運動で骨粗鬆症を予防することも、猫の長寿化に備える大切なことのうちのひとつといえるでしょう。