猫に洋服を着せる意味
初めて洋服を着ている猫を目にしたのは、1980年に流行った『なめ猫』だったように思います。当時は、TVCMや関連グッズなどでなめ猫のキャラクターが街中に溢れており、大いに人気を博していました。
その流れを受けているのか、最近SNSなどに投稿されている猫の服装も、コスプレのようなものが多いように感じます。こうした写真を楽しんでおられるご家族のお気持ちは、我が子に思いっきりおしゃれを楽しませたいという親心と同じなのかもしれません。
しかし洋服は人にとっては当たり前なものですが、猫にとっては必ずしも必要なものではありません。とはいえ、場合によっては猫にも洋服が必要になることがあります。
今回は、猫に洋服を着せることのメリットやデメリット、そして着せる場合に注意したいポイントなどをご紹介します。
猫に洋服を着せるメリット
まずは猫に洋服をあえて着せるメリットについてご紹介しましょう。
1.防寒・皮膚の乾燥対策
スフィンクスのようにごく薄い産毛しか生えていない猫種もいますが、基本的には猫の全身は被毛に覆われています。また、猫は自分で最も居心地の良い場所を見つけて過ごす能力にも長けています。
しかし暖房等に問題がある場合、若齢や加齢で体温調整が難しい、暑い地域発祥の猫種で寒がりであるといった場合などには、洋服を着せることで、防寒や皮膚の乾燥対策になります。
2.術後管理
去勢・避妊や怪我、病気などで手術を行った場合、ご家族が苦労されるのは「傷跡を舐めさせない」「包帯を外させない」といった術後の傷口管理ではないでしょうか。一般的には、エリザベスカラーの装着で傷や包帯などを舐めさせないようにします。
しかし最近は、エリザベスカラーよりも猫に与えるストレスが軽いという理由で、術後服の着用をすすめる獣医師も増えてきました。傷口などをすっぽりと覆うようなデザインの洋服を着せることで、猫へのストレスを軽くしながらも、傷口を保護できます。
3.外出時の抜け毛対策
短毛種であっても、猫には春と秋に換毛期という短期間で大量に毛が抜け替わる時期が来ます。換毛期は抜け毛の量が非常に多く、どんなに念入りにコロコロをかけても、スーツなどに猫の毛がついていると指摘されるご家族も多いのではないでしょうか。
そのような時期に愛猫を連れて外出しなければならない、または来客を迎えなければならない場合、抜け毛対策として愛猫に洋服を着せることが、周囲の方、特に猫アレルギーのある方などへの配慮になります。
猫に洋服を着せるデメリット
一方、猫に洋服を着せるデメリットも考えられます。医療目的などの必要性ではなく、可愛さが理由で着せたい場合にはデメリットもしっかり考慮した上で検討されることをおすすめします。
1.不快感
猫の皮膚は人間の5分の1程度の薄さであり、非常に敏感です。そのため猫に洋服を着せると、人間が洋服を着ている感覚以上の不快感を与えている可能性があります。
また、猫は自分の体の衛生状態を保ち、ストレスを解消して気持ちを落ち着かせるために、セルフグルーミングを行います。洋服を着せることでセルフグルーミングができなくなり、人間が考える以上にストレスを募らせる可能性があります。
2.拘束感
猫は拘束されることを嫌います。洋服を着せることで行動が制約される場合があり、猫にとっての強いストレスになり得ます。
特にサイズの合わない洋服、肌触りが悪かったり体を締め付けるような素材やデザインの服は、猫に強いストレスを与えるでしょう。
3.異物誤飲
洋服にボタン、リボン、レースなどの装飾品が付いている場合は、それらを噛んでとってしまい誤飲してしまう危険があります。
また洋服を着ることで動きにくくなることを嫌い、洋服を脱ごうと噛んで引っ張り破ってしまうことも考えられます。
4.事故
愛猫に洋服を長時間着せることで、熱中症や皮膚炎などの体調不良や、高い場所から飛び降りる際に洋服の端を引っ掛けて宙吊りになる、食いちぎったレースや布地が体に絡まって身動きが取れなくなるといった、思いもよらぬ事故に発展することがあります。
猫に洋服を着せる場合に注意したいこと
では、猫に洋服を着せるメリット・デメリット両方を把握したところで、実際に着せる場合の注意点を確認しておきましょう。
無理強いしない
人間とは異なり、私達には想像もつかないような不快感、ストレスを猫にもたらす可能性があることを忘れてはいけません。
何回か着せても慣れずに洋服を嫌がるようなら、無理強いしないでください。猫によっては、エリザベスカラー以上のストレスなのかもしれません。
必要最小限の着用に留める
スフィンクスのような特殊な猫種や術後の保護目的の場合を除き、必要最小限の着用に留めるよう心がけましょう。
長時間の着用は、ご紹介したような体調不良や事故の原因につながるためです。
着用中は目を離さない
術後服の場合などを除き、愛猫に洋服を着せたまま外出してしまうといったことは避けましょう。
特に装飾品の付いているようなデザインの服は、誤飲事故やちょっとした出っ張りなどへの引っかかり、体への絡まりといった事故が起こりやすいです。
まとめ
ご自身もおしゃれが大好きだと、愛猫と一緒におしゃれを楽しみたい、可愛らしい洋服を着た愛猫を友人たちに紹介したいといった要望を持たれるかもしれません。
しかし人間と猫とでは、感覚が異なるということを思い出してください。愛猫の気持ちを優先できるようになると、愛猫との絆ももっと深められるかもしれません。
そして、寒さに弱い猫の防寒や手術後の傷の防護、外出時の抜け毛対策などの必要な場面では、愛猫に適したサイズ、シンプルなデザイン、着心地の良い素材の洋服で、愛猫を守ってあげてください。