人とは違う猫の味覚の不思議
猫またぎ」という言葉があります。海に囲まれた日本では、猫の好物は魚だと思われてきました。その魚好きの猫ですらまたいで通るくらい美味しくない魚という意味です。
昨日まで美味しそうに食べていたフードを、ある日突然ニオイを嗅いだだけで砂をかけるようにしてどこかへ行ってしまった愛猫を見て「これが本当の猫またぎだ」と思ったものです。
そんな猫は、「グルメ」だとか「気まぐれ」だなどと言われています。しかし、愛猫が美味しそうに食べている猫缶を少し分けてもらって食べたところ、私には薄味過ぎました。不味いわけではないのですが、おかわりをしたくなるほど美味しいというわけではありませんでした。
猫も人間も、「視覚」「嗅覚」「聴覚」「触覚」「味覚」という同じ5つの感覚を使って外からの刺激を認識しています。しかし、どの感覚についても、感度や使われ方は猫と人間では随分と異なることがわかっています。
今回は、猫と人間の味覚の違いについて考えてみたいと思います。
味を感じる仕組み
脊椎動物が味を感じる仕組みは、基本的に同じです。味を感じるための器官を「味蕾」といいます。主に舌の表面にある乳頭に存在し、花の蕾のような形をしています。「乳頭」とは、舌の粘膜にあるたくさんの小さな突起のことです。
味蕾の中には、「甘味」「旨味」「苦味」「酸味」「塩味」の受容体を持つ味細胞が存在していて、食べた物から溶け出した化学物質が受容体を刺激することで、味細胞につながっている味神経が興奮し、脳で味が認識されます。
人間の舌の表面には、茸状乳頭、有郭乳頭、葉状乳頭、糸状乳頭の4種類の乳頭があります。有郭乳頭は舌の後方に、葉状乳頭は舌の側面に、糸状乳頭は舌全域に、茸状乳頭は糸状乳頭の間に散在しています。このうち、糸状乳頭以外の3種類の乳頭に味蕾が存在します。
猫の舌の表面には、葉状乳頭以外の3種類の乳頭があり、中でも多くある糸状乳頭によって、舌の表面がザラザラしています。これは、グルーミングをする際に被毛を梳いたり、獲物の骨から肉をこそげ落としたり、水を飲んだりする際に役立ちます。人間と同様に糸状乳頭には味蕾は存在せず、有郭乳頭と茸状乳頭に味蕾があるそうです。
1.味細胞の数が少ない
前述の通り、食べたものから味を感じるのは、味蕾の中にある味細胞です。味蕾の数が多ければ多いほど、様々な味を感じやすいと考えられます。
猫は人間に比べて味蕾の数が少ない事がわかっています。
<味蕾の数>
- 成人:5,000〜7,500個程度
- 猫:500個程度
- 犬:1,700個程度
2.感じる味にも違いが
猫と人間では、感じる味の種類にも違いがあることがわかっています。
甘味と塩味
私達人間では、甘味、旨味、苦味、酸味、塩味の5つの味を感じています。
しかし、猫は甘味を感じず、塩味は感じはするが、その感度は低いだろうと考えられています。
私達が感じている甘味は、スクロース、グルコースなど、糖類に由来するものが多くあります。糖類は、穀物や果実などの植物性の食材に多く含まれている成分です。完全肉食動物である猫は、基本的に糖類を口にすることがありません。そのため、甘みを感じる受容体が発達しなかったのだろうと考えられています。
また、猫の主食である肉類には塩分が豊富に含まれているため、積極的に塩分を探して摂取する必要がありませんでした。そのため、塩味に関しても感度が低いのだろうと考えられています。
旨味
多くのアミノ酸が旨味物質となります。アミノ酸はタンパク質を構成する物質で、猫の主たる食べものである肉の構成成分です。そして、猫では旨味の感度が高い事も分かっています。もしかすると、私達人間には感じられない複雑な旨味も感じているかもしれませんね。
苦味と酸味
猫が最も高い感度で感じるのは苦味です。毒物には苦味がある場合が多く、猫は危険な食材を口にしないようにするため、苦味の感度が高くなったのだと考えられています。
同じ理由で、猫は酸味も嫌います。猫は小動物を主たる獲物としていたため、基本的には捕まえたその場ですぐに食べきっていました。しかし、腐敗が始まった肉には酸味が出ます。食材の鮮度を確認するために、酸味を感じる必要があったのだと考えられています。
3.ニオイで判断するおいしさ
人間でも、香りは味を楽しむために必要な一要素ですが、猫にとって、「ニオイ」は味より前に「食べるか」を判断するための重要な要素であるといわれています。たしかに、新鮮な獲物からは強い香りが漂うでしょうし、口にしてから「げげっ、これ腐ってるよ!」では困るので、猫は事前に「ニオイ」によって安全性を確認するのでしょう。
まとめ
同じ脊椎動物ですが、猫と人間の味覚には、かなり大きな違いがあるようです。それぞれの食性の違いを考えれば、納得できるのではないでしょうか。
同じものを食べたとしても、猫と私達人間では、異なる味の感じ方をしているのですね。
猫の味覚で猫缶を味わったら、人間が経験したことのないような美味しさを感じられるのかもしれません。