日本における猫の飼養形態の変遷
平安時代、猫は室内で紐に繋がれ貴族達に可愛がられていました。その様子は「源氏物語」にも描かれています。ところが、江戸幕府が開かれる前年の慶長7年(1602)に、『猫をつないではいけない』というお触れが出されます。
京のネズミ被害がとても深刻だったのです。おかげでネズミ被害は減りましたが、猫は行方不明になったり犬に噛まれて死ぬことが増え、かえって不幸になったということが『時慶記』の中に書き残されています。
猫の放し飼いは江戸でも施行されました。その代わり、危害を加える犬が繋がれるようになり、犬と猫の飼養形態が逆転したといわれています。
猫の放し飼いは昭和まで続きましたが、最近は完全室内飼いが推奨されるようになり、特に都市部では普及してきました。多くの研究や統計データにより、猫は完全室内飼いでも大きなストレスを受けることはなく、平均寿命も長くなるという結果が出ています。
放し飼いの主なリスク
では、猫を放し飼いにした場合の主なリスクを見ていきましょう。
1.交通事故
戦国時代や江戸時代の天敵は犬だったかもしれませんが、現代の天敵は車です。
交通事故に遭ったり、寒さのために停車中の車のエンジンルームに入り込んでしまい、それを知らずに走り出した車のエンジンに巻き込まれてしまうという悲惨な事故が後を絶ちません。
2.ケガ
放し飼いの猫は、他の猫や他の動物達と接することでケンカをし、ケガをすることがあります。
東京のような街中でも、野良猫だけではなく、野生化したアライグマやハクビシン等の外来生物たちも身を潜めているのです。
3.感染症
放し飼いの猫は、草むらの中などで自由に行動するため、ダニやノミといった害虫に寄生されたり、細菌やウイルスに感染するリスクが高くなります。
特に、前述の野良猫や他の動物とのケンカによる傷口から入り込んだ病原体からの感染リスクが高まります。
4.迷子
猫にも帰巣本能がありますが、必ず家に帰れるとは限りません。
ケンカをして相手に追いかけられているうちに道に迷ってしまったり、マンションに住んでいる場合などは、マンションまでは帰れても階数が分からなくなったりすることも多いのです。
5.虐待
世の中には、猫を好きな人もいれば、嫌いとか怖いという人もいます。また、好き嫌いに関係なく、自宅の敷地内で排泄されればいい気はしません。
猫の何気ない行動によりそのような負の感情がエスカレートしてしまうと、まれに猫を捕まえて虐待するような人も。道端に撒かれた毒入りの餌を食べて猫が殺されるという悲惨な事件も起こっています。
猫は自由に外に出たいと思っているのか
冒頭でもご紹介したように、日本でもついこの間まで、猫は家の中と外を自由に行き来している姿が当たり前でした。今現在でも、地方ではそういう暮らし方をしている猫達がたくさんいると思います。
そういう姿を見ていると、猫達は自然の中でのびのびと暮らしていて、とても幸せそうに見えます。また、家の窓から外を眺めている姿を見ると、「外に出たいんだろうな」と思ってしまう飼い主さんも多いでしょう。
しかし、本当に猫は外に自由に出たいと思っているのでしょうか。猫に直接聞いてみたいところですが、そういうわけにはいきませんので、動物行動学者達の研究などを参考に考えることしかできません。
猫の縄張りは、そのエリアで捕れる獲物の量と関係していることが分かっています。あまり獲物がとれないエリアの場合、縄張りを広くせざるを得ません。しかし、十分に獲物を取れる環境の場合、猫の縄張りは狭くなることが分かっています。
猫の場合、縄張りを守ることが何よりも優先すべき重要事項に位置づけられているようです。そのため、縄張りが広ければ見回らなければならないエリアも広くなり、猫にとっても負荷が高くなると考えられています。
つまり、十分に餌を与えられる完全室内飼いの猫の場合、家の中だけという縄張りの狭さに対するストレスはないと考えて良いようです。その代わりに、十分な餌の給与と、猫の習性に適した環境を整えてあげることが大切になります。
また、猫が窓から外を眺めているのは、基本的に自分の縄張りに侵入しようとしている敵を監視するためだと考えられています。つまり、外を眺めている猫は、自由に外に出たいと考えているというわけではないというのが、現在の見解です。
まとめ
ほんの少し前までは、猫といえば放し飼いが当たり前だと考えられていました。街の中にも、野良猫がたくさんいました。しかし今では、完全室内飼いが当たり前の飼養形態として定着しつつあります。
しかし、昔の猫達を知っている人から見ると、それは猫から自由を取り上げてしまった不自然な姿に見えるかもしれません。現在の日本には、「猫を放し飼いにしてはいけない」という法律があるわけではないので、愛猫をどのように飼養するかは、飼い主さんの考え方次第です。
完全室内飼いは、愛猫に安全な住環境を提供し、広い縄張りの見回りから開放し、安全な食事を必要な量だけ安定供給し、体調の異変にもすぐに気付けます。運動不足や刺激が少ないといったデメリットは、飼い主さんの努力で補うことができます。
それと比べると、放し飼いのリスクはあまりにも危険度が高すぎるように感じるのは、筆者だけでしょうか。