検査で見つかった愛猫の『多発性嚢胞腎』
昨年、私の愛猫が突発性膀胱炎を患い、動物病院を受診した時のことです。
診断の一環でエコー検査をしてもらいました。
その時偶然『多発性嚢胞腎』という病気が見つかりました。
普段から定期的に動物病院に通って愛猫の全身の健康状態を見ていただいていましたが、その時は特に異常はありませんでした。
別の病院で急遽診ていただいたことがきっかけで、多発性嚢胞腎であると早めに分かった事は運がよかったのかもしれませんが、突然の事でとても驚きました。
多発性嚢胞腎って、どんな病気?
多発性嚢胞腎って、どんな病気なんだろう? そこで調べてみました。
この多発性嚢胞腎は、腎臓に多くの液体などがたまった袋状の構造(嚢胞)ができ、腎臓の機能が徐々に低下していく病気だそうです。最終的には、腎不全を引き起こしてしまうようです。
この病気は生まれつきのもので、 どちらかの親に遺伝子の異常があると、50%の確率で子どもに遺伝するようです。
うちの子は、獣医師賛同型の保護犬・猫の里親募集サイトを仲介して譲渡を受けたのですが、ブリーダーさんの里子でした。遺伝ということであれば、お母さんか、お父さん、あるいは兄弟にも、そういう子たちがいるということになります。
この病気はヒトでも発症し、発病の原因が明確でないために治療方法が確立しておらず、長期の療養を必要とする『難病』に指定されています。
ゆっくりと進行する、一度起きてしまうと治らない(不可逆的)病気です。 肝臓や膵臓など他の臓器にも液体を含んだ嚢胞が徐々に発生することもあります。
ヒトでは、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)と呼ばれており、200人から1000人に1人の割合で見つかっています[1]。
猫のこの病気については、スペイン・バレンシアのユニバーシダッドCEUカルデナルエレーラ大学のSchirrer博士がこれまでの調査をまとめて報告しています[2]。
ネコが多発性嚢胞腎を発症する割合
ペルシャ猫における発症率は、
- アメリカ・・・38%
- オーストラリア・・・50%
- イギリス・・・49%
- フランス・・・40%
- イタリア・・・41%
- スロベニア・・・36%
- 台湾・・・15.7%
- イラン・・・36 %
- 日本・・・46%
- ブラジル・・・5%
と報告されています。
ペルシャネコのそのほかにも「長毛種」で発症することが多いと知られています。
調査された事例少ないようですが、下記のような種類の猫においても、多発性嚢胞腎を発症することが報告されています。
- エキゾチックショートヘア
- ヒマラヤン
- ブリティッシュショートヘア
- アメリカンショートヘア
- バーミラ
- ラグドール
- メインクーン
- ネバマスカレード
- シャルトリュー
なお、オス・メスでの発生率の差は見られないようです。
現在の全猫種の約80%がペルシャ種と何らかの交配をしているため、どの猫の種類でも発症する可能性があるようです。
カルフォルニア大学のLyons博士らは[3]、世界中のペルシャ猫の38%がこの病気を持っており、さらに、世界中のすべての種類の6%がこの病気を持っていると述べています。
岩手大学動物病院によれば[4]、日本国内でも、罹患率の調査が始まっており、ネコ1000頭に1頭の割合で多発性嚢胞腎をもつと推測されています。
このことから、この病気は猫に多く見られる遺伝病の一つであると言っても良いのではないでしょうか。
多発性嚢胞腎は遺伝する病気
この病気を発症した猫の遺伝子を調べると、PKD1という遺伝子において一部の情報に異常が起きていることが報告されています[3]。つまり、この病気の原因はPKD1という遺伝子の異常により発症するようです。
イギリスの慈善団体インターナショナル・キャット・ケアでは、病気の猫を確認した場合に、血液または頬粘膜を採取して遺伝子を検査して登録する仕組みがあり、ブリーダーさんが遺伝的に健康な猫を選択できるようにしています[5]。
イギリスでは多くのブリーダーがこの検査を選択しているようです。
私の愛猫は里子としてもらい受けた後に避妊手術をしましたが、その際に卵巣が水腫になっていたことがわかりました。
この病気では腎臓だけでなく肝臓や膵臓など他の臓器にも嚢胞ができると報告されており、そのことから、愛猫の卵巣水腫はこの病気の症状の一つだったのかもしれません。
推測にすぎませんが、ブリーダーさんが4歳で里子に出していたのは、卵巣水腫により子供を産まなかったからかもしれません。この病気の背景を考えると、とても切なくなります。
私の愛猫は、腎臓ではまだ症状は出ていません。
動物病院の先生には「水をたくさん飲ませる、塩分の高い食事は与えない、ストレスを与えない生活をさせる、など、なるべく腎臓に負担をかけないような生活を心がけてください」と言われています。
まとめ
この病気が見つかった当初は、超音波検査などの画像検査で診断されていましたが、現在では遺伝子検査を行うことが可能となっています。日本でも、猫の遺伝子検査を行っている会社もいくつかあるようです。
ですが、この病気は見つかったとしても根本的に治療する方法は、現段階ではありません。
猫を飼う多くの方に、この病気のことを理解いただいて、遺伝子検査等による早期診断を受け、この病気を持った猫を増やさないようにすることを考えてみていただけることを願っています。
参考文献
[1]Kimberling, W.J.; Pieke-Dahl, S.A.; Kumar, S. The Genetics of Cystic Diseases of the Kidney. Semin. Nephrol. 1991, 11, 596–606.
[2]Schirrer, L.; Marín-García, P.J.; Llobat, L. Feline Polycystic Kidney Disease: An Update. Vet. Sci. 2021, 8, 269. https://doi.org/10.3390/vetsci8110269
[3]Leslie A. Lyons, David S. Biller, Carolyn A. Erdman, Monika J. Lipinski, Amy E. Young, Bruce A. Roe, Baifang Qin, Robert A. Grahn. Feline Polycystic Kidney Disease Mutation Identified in PKD1. JASN Oct 2004, 15 (10) 2548-2555; DOI: 10.1097/01.ASN.0000141776.38527.BB
[4]岩手大学動物病院伴侶動物内科診療科 http://news7a1.atm.iwate-u.ac.jp/~hospital/disease/pkd.html
[5]Polycystic Kidney Disease (PKD): Gene Test and Negative Register International Cat Care. https://icatcare.org/advice/polycystic-kidney-disease-pkd-gene-test-and-negative-register/
幹細胞研究者としてヒトES/iPS細胞や間葉系幹細胞の研究やビジネス化に従事。2022年1月からベンチャー企業・株式会社セルミミックの代表として、ライフサイエンスからライフスタイルまでのコーディネートおよびコンサルタントを行う。著書「本当に知ってる? 細胞を培養する方法(出版社 : じほう)」
《twitter》@mihofurue