他の動物に比べて圧倒的に多い猫の慢性腎不全
猫の死因の上位には、常にガンや腎臓病が上がります。
特に慢性腎不全で死亡する率が他の動物に比べて突出して高いことが、昔から知られています。
高齢になるほど慢性腎不全の猫が増え、12歳前後で約24%、15歳前後で約30%が慢性腎不全だといわれています。
腎不全とは、腎臓または他臓器の障害により腎機能が低下したことで、体内の水や電解質のバランスなどが崩れる病態をいい、腎臓の働きが正常時の30%以下になると腎不全だとされます。
まだ腎不全の状態には達していないものの、腎機能のダメージが3ヶ月以上継続している病態を慢性腎臓病(CKD)といいます。
慢性腎不全とCKDを合わせると、猫全体では10%、15歳以上の猫では81%が該当するという報告もある程です。
他の動物と比べて猫だけが突出して慢性腎不全やCKDの発症率が高い理由は長年謎のままで、猫の宿命だともいわれてきました。
猫が腎臓病になりやすい理由
腎不全には、数日から数週間で腎機能を失っていく急性腎不全と、数ヶ月から数年をかけて少しずつ腎機能を失っていく慢性腎不全があります。
猫の場合、5〜6歳頃に尿路結石や腎炎などが原因で急性腎不全になり、腎機能が回復しないまま慢性腎不全になって15歳前後で亡くなるというケースが多くみられました。
一般的に、慢性腎不全になると失われた腎機能は回復できませんが、急性腎不全の場合は回復が可能です。
しかし、なぜ猫は急性腎不全で腎機能を回復できないのかが謎でした。
しかし2016年に、日本の研究者たちがその理由を解明しました。
彼らは、人をはじめとして多くの動物の血液中にある「AIM」というタンパク質を発見しました。
急性腎不全になると、腎臓の中にある尿細管という尿の通路に細胞の死骸が詰まり、腎機能の低下を招く引き金となります。
通常は腎機能が低下すると、血液中のAIMが活性化して尿中に移動し、尿細管に詰まった細胞の死骸を掃除して腎機能を改善させます。
しかし、猫のAIMだけは特殊で、腎機能が低下しても活性化せず、腎機能を改善できないことが分かったのです。
この研究は、AIMを活用した猫の腎臓病治療薬の実用化を目指して、現在も継続されています。
しかし実際に実用化され、広く普及するまでにはもう少し時間がかかるかもしれません。
いずれにしても、腎臓病は早期発見がとても難しい病気です。
腎機能低下の初期症状である「多飲多尿」が現れた段階で、既に腎機能は33%しか残っていません。
血液検査で異常が判明した時点で25%程度、明らかに異常が分かる状況になると、腎機能は10%程度しか残っていません。
早期発見のポイントと予防策
では次に、愛猫の腎臓病を早期に発見し、予防するためのポイントを見ていきましょう。
1.年に1回の健康診断受診
前述の通り、愛猫の様子や血液検査から腎機能の低下が分かった時点で、既に腎機能は殆ど失われています。
そのため、少しでも早く愛猫の異変を察知するためには、最低1年に1回の健康診断の受診が望ましいです。
その際に、血液検査だけではなく、できるだけ尿検査や画像検査も受けることをおすすめします。
尿検査や画像で確認できる腎臓の状態により、血液検査や諸症状の発現よりも早く、腎機能の低下に気付くことができます。
現在ではSDMAを測定することで通常の血液検査では発見できない段階の腎不全を発見することが可能になっています。
2.日々の飲水量と排尿量の記録
愛猫の異変を早期に察知するため、日々の飲水量と排尿量を記録することをおすすめします。
水やペットシーツを取り替える際に、注いだ水の量から残った水の量をひいたり、排尿後のペットシーツから使用前のペットシーツの重量をひいたりすることで計算できます。
飲み水もトイレも複数箇所に設置しているため面倒に感じるかもしれませんが、毎日のことなのですぐに慣れてくるでしょう。
3.療法食への切り替え
かかりつけの動物病院で定期的に健康診断を受けることで、腎機能の低下を早期に発見することができるでしょう。
その場合、獣医師と相談しながら、腎臓に負担をかけない療法食に切り替えることで、腎機能低下の速度を遅らせることが期待できます。
4.十分に水を飲ませる
最も効果的な予防策は、毎日新鮮な水を十分に飲ませることです。
もともと猫はあまり水を飲まないのですが、複数箇所に新鮮な水を置きいつでも飲める状態にしてあげましょう。
また、積極的に水を飲まない猫の場合でも、飲み水を入れる容器の材質や形状、水の温度などを工夫することで、よく飲むようになる場合があります。
色々と工夫してあげましょう。
まとめ
猫の宿命といわれていた慢性腎不全に関して、なぜ猫だけにこれほど多く発症するのかという理由が解明され、猫の腎臓病治療薬の研究が進められています。
1日も早い完成と普及を祈りたいと思います。
いずれにしても、愛猫の腎臓病に少しでも早く気づき、予防策を施すのは飼い主さんの役割です。
毎日の愛猫とのコミュニケーションと観察、そして毎年の健康診断をベースに、飼い主さんにしかできない健康管理を行ってあげてください。