猫の悪性腫瘍
キャットフードの質や飼育環境の向上、獣医療の発展などにより、猫の平均寿命は年々伸びています。
これに伴って猫の悪性腫瘍も発生数が急増し、今や猫の死因の約3割が「悪性腫瘍」だといわれています。
これは、猫に多い疾患としてよく知られている泌尿器疾患の約2割を抑えて、猫の死因のトップです。
悪性腫瘍(がん)とは、何らかの理由で生じた異常な細胞(腫瘍)が、身体が行う本来の制御から離れて自律的に増殖し続けて生じる腫瘤や病変のことです。
良性腫瘍と比べると発育速度が非常に早く、再発し、別の臓器に転移し、発生した臓器だけでなく全身を重篤な状態に陥れて生命を脅かすのが特徴です。
ただし悪性腫瘍にもいろいろな種類があり、その悪性度合はさまざまです。
そこで今回は、猫の悪性腫瘍の中でも特に悪性度の高い疾患をご紹介しながら、悪性腫瘍を早期に発見するためのポイントや予防策について解説します。
特に悪性度の高い悪性腫瘍
1.乳腺がん
猫にとって最も警戒すべき悪性腫瘍が乳腺がんです。
猫の場合、乳腺腫瘍の約8割が悪性で、猫の悪性腫瘍発生率の中でもトップです。非常に再発しやすく、完治させることは困難です。
猫の乳腺は4対、計8個あり、乳腺がんはそのそれぞれに発生する可能性があります。
乳腺はリンパ管でつながっているため、外科手術で取り除く場合、発症は1つでも、片側の乳腺4つをまとめて除去することが一般的です。
左右に1つずつ発症した場合は、両側の乳腺をすべて取り除くことになります。
乳腺がんは猫の乳腺に「しこり」としてあらわれます。
しこりが2cm以下の小さい状態で治療を開始した場合は、生存期間が長くなる可能性が高いと言われており、早期発見・早期治療が大切です。
2.肥満細胞腫
猫の悪性腫瘍の中で発生率第3位なのが「肥満細胞腫」です。
肥満細胞は免疫の細胞なので、全身のどこにでもできる可能性があります。
グレードが高くなってから気付いた場合は悪性度が高く、進行が早くタチの悪い腫瘍の一つといわれています。
猫の場合は皮膚型と内蔵型の2種類があり、皮膚型の場合は比較的良性だといわれています。
3.悪性黒色腫(メラノーマ)
9歳以上の黒猫に多く発生する傾向がある皮膚がんで、進行が非常に早く再発や肺への転移が起こりやすいといわれています。
黒くない黒色腫もあり、その場合は悪性度がさらに高い場合が多いです。
4.血管肉腫
猫の血管肉腫は稀ですが、発生すると予後が極めて悪く、治癒が困難です。
血管の内側に発生するので、血管の多い肝臓や脾臓に多く見られます。
5.骨肉腫
骨肉腫は大型犬に多いがんですが、猫でも発症します。
非常に転移しやすく、悪性度の高い腫瘍の一つといわれています。
治療としては手術が基本となり、四肢で発症した場合には断脚を行うことになります。
早期発見のポイント
悪性腫瘍は全身のあらゆる部分に発症する可能性があります。
以下、身体の各部位別のチェックポイントをご紹介します。
<口の中:悪性黒色腫、扁平上皮がんなど>
- 食欲が落ちてきた
- 口臭がきつくなった
- 口の中または周囲から出血している
<皮膚や身体の表面:悪性黒色腫、肥満細胞腫、乳腺がんなど>
- コリコリとした硬いしこりがある
- 皮膚が崩れたようになり出血している箇所がある
<呼吸器:肺腺がん、肺扁平上皮がん、鼻腔がん、副鼻腔がんなど>
初期段階では無症状な場合が多く、進行すると下記のような症状が出ます。
- 呼吸が荒くなる
- 咳が出る
- 血が混じった痰を吐く
<内臓:各臓器のがん>
初期段階では無症状な場合が多く、進行すると下記のような症状が出ます。
- 食欲が低下する
- 体重が減ってくる
- 嘔吐
- 下痢
<泌尿器:膀胱がん、移行上皮がん、腎臓がん、肛門嚢腺がんなど>
- 排尿や排便が困難になる
- 血尿
- 血便
<肝臓:肝臓がん>
初期段階では無症状な場合が多く、進行すると下記のような症状が出ます。
- 元気がなくなる
- あまり動きたがらない
- 食欲が低下する
- 黄疸
- 腹水が溜まりお腹が膨れる
予防策
悪性腫瘍の予防としては、下記が有効だといわれています。
去勢・避妊手術
女性ホルモンの影響で発症する乳腺がんや、卵巣、子宮、精巣の腫瘍を予防できます。
特にメスの場合は、初回発情前の不妊手術が最も効果的です。
2歳以上になってからの不妊手術には、乳腺がんの予防効果はないといわれています。
有害物質の排除
煙草の受動喫煙や化学薬品を吸引、摂取させないことが予防に繋がります。
適切な健康管理
それぞれのライフステージにあった栄養バランスの良質な食事が大切です。
さらに、ストレスフリーな生活で健康体を維持し、免疫力を高めることも重要です。
適正体重・体型の維持
肥満はさまざまな病気の原因となりますが、悪性腫瘍の原因にもなります。
適正な体重・体型を維持することも大切な予防の一つです。
まとめ
猫の寿命が伸びるのは、飼い主さんにとって喜ばしいことです。
しかし老化による免疫力の低下は、悪性腫瘍の発生を高める大きな要因の一つです。
悪性腫瘍も、早期発見による早期治療が、愛猫の生存期間や生活の質を維持するために重要なポイントとなります。
ご家庭での愛猫の健康チェックと共に定期的な健康診断の受診も行い、目に見える範囲・見えない範囲の両面からの健康管理を心掛けることをおすすめします。