1.「ワンヘルス」とは?
人間にも感染し得る「人獣共通感染症」
ペットを飼育する中で「人獣共通感染症」という言葉を耳にすることは多いかと思います。人獣共通感染症とは「動物から人に感染し得る感染症」のことで、猫の場合は「トキソプラズマ症」「猫ひっかき病」「パスツレラ症」などがあります。
犬においては命にかかわる重篤な病気である「狂犬病」、以前世間を騒がせた牛の「牛海綿状脳症(狂牛病)」も人獣共通感染症です。
人間と動物を1つにひっくるめて考えること
このように人にも感染し得る人獣共通感染症への対策を考えるためには、人間だけのための対策では効果的とは言えません。人間が安全に暮らせる社会をつくるために、人と動物の健康を1つと捉えて問題の解決に取り組むことが「One World-One Health(ワンワールド・ワンヘルス)」というアプローチです。
2.あらゆる「垣根」を超えること
ワンヘルスの発端となった「マンハッタン原則」
1998年マレーシアで、豚から人への感染が確認された「ニパウイルス感染症」が発生しました。このことをきっかけに野生動物保護や獣医学領域の専門家が立ち上がり、2004年ニューヨークのマンハッタン地区にあるロックフェラー大学で「ワンワールドヘルス」をテーマとするシンポジウムが開催されました。
この学会では12項目から成る「マンハッタン原則」という計画が提言され、それは人や動物、環境のそれぞれの専門家が垣根を超えて協力関係を構築する必要があるというものでした。
環境汚染にも関係する
感染症の治療には薬が使われます。特に畜産業においては抗菌薬が多く使用されます。動物に抗菌薬を使うと、動物の皮膚や消化管にいる細菌が「薬剤耐性菌」に置き換わります。そうすると畜産業で働く人に感染したり、食肉を通じて多くの人に感染したりする恐れがあります。
このように動物への投薬は、巡り巡って人間の健康に影響が出ることもあります。そのため現在では、畜産業で抗菌剤を制限するなどの対策が取られています。
そしてその薬剤耐性菌や抗菌薬によって、環境が汚染される恐れもあります。家畜動物の排泄物にそれらが含まれていると、水の汚染から農産物の汚染にも繋がってしまうのです。
このように家畜動物に使用される薬が、私たちの健康や環境にも密接に関係しているのです。人間、動物、環境という垣根を超え、また専門分野の垣根を超え、1つの繋がっている問題として取り組む必要があるのです。
3.日本獣医師会の活動
獣医さんはペットたちや家畜動物の健康をサポートする専門家です。しかし、ワンヘルスの概念に基づき「動物と人の健康は一つ。そして、それは地球の願い。」という理念を掲げています。
- 国民生活の安全保障
- 動物関連産業界の発展による社会経済の安定
- 地球環境の保全に寄与すること
このような目的を掲げ、ペットや家畜動物の健康にとどまらず地球レベルでの活動を日本獣医師会として推進していくことを示しています。
まとめ
私たちはみんな、地球という1つの世界を共有しています。そして私たち人間は同じ空気を吸い、動物の命を頂いて自身の命を繋ぎ、ペットとの共生でたくさんの精神的な幸せをもらって生きています。人間と動物、そして環境はこのように密接に関係しているのです。
私たち人間がより安全に幸せに生きていくためには、人間のことだけでなく動物の健康や環境問題についても包括的に考えて取り組んでいく必要があります。国も専門分野も飛び越えて地球の健康を考える「ワンヘルス」の取り組みは、今後もあらゆる分野で発展していくでしょう。