臆病な猫の特徴
人間は皆、個性があります。社交的な人、温厚な人、無愛想なようで打ち解けると話しやすい人など様々な性格の人がいます。猫も人間と同様に個性があり、皆違った性格をしています。中にはとても臆病で、なかなか心を許してくれない猫もいます。そして、このような猫には特徴があります。ここでは、警戒心が強い猫が取る行動と、仕草についてご紹介いたします。
警戒心が強い猫の行動
猫は元々、警戒心が強い動物です。これは、祖先が厳しい野生の世界でも単独で逞しく生きてきた証です。そして猫は野生の本能を強く残しており、安全な室内で暮らしていても慎重に行動することがあるのです。慎重派で臆病な猫がよく取る行動には次のようなものが挙げられます。
- 常に高い位置にいることを好む
- 些細な物音に過剰な反応を示す
- 来客が来ると隠れてしまう
- 家族の中にも苦手な人がいる
- 人が見ている状況では食事が取れないなど
猫が高い位置を好むのは、習性のひとつです。人馴れした猫でも高い位置は落ち着く場所として人気の高いスポットになります。ただし、人との暮らしに慣れ、同じ空間を共有したい猫は、より地面に近いところで過ごすことが多くなります。臆病な猫の場合は、地面に近いところよりも、高い位置で過ごす時間が長く、我々よりも目線が高くなります。高所はあたり一体を見渡すことができ、天敵の襲来にいち早く気がつくことができます。
最も、完全室内飼育という安全な環境下で天敵に襲われることはありません。しかし「安全な環境」というのは、あくまでも人間の目線から見た状況です。猫にとっては意外なものが天敵となりうることがあり、安全な環境とは思えないことがあるのです。
更にこんなことも
このような性格の猫は、事ある毎にその優れた警戒心と、反射神経をフル稼働します。例えば人がくしゃみをしたり、インターホンが鳴ったりと、我々からするとありふれた日常の生活音に対して飛び上がってしまいます。また、来客が来れば忍者さながらに身を潜めてしまいます。「幻の猫」と呼ばれることもしばしばです。そして悲しいことに、警戒心が強い猫の場合は家庭にいるメンバー全員に懐くとは限りません。苦手意識を持ち、その人に対しては冷たい態度を取ることもよくある行動です。
食事やトイレは遠くから見守って
また、人が様子を見ていると食事に手をつけることができない猫がいます。これも、警戒からくる行動です。猫が食事中に警戒するのはなぜなのでしょう。横取りされると思っているのでしょうか?いいえ、猫は横取りを恐れているのではありません。無防備な状況で天敵に襲われることを恐れているのです。ちなみに無防備な状況もいえばトイレも同様です。臆病な猫と接する場合は、食事・排泄をしているときは遠目から見守るようにしてください。
警戒している仕草
猫がとても警戒している状況では、先に紹介したような行動とともにお決まりの仕草が加わります。次に紹介する仕草が分かると、ナイーブになっていることを察してあげることができます。
- 耳を後ろに寝せる(いわゆるイカ耳)
- 目を見開く(瞳孔が大きくなる)
- ヒゲが斜め上方向に反れる
- しっぽを足の間にいれる
- 怯えているときは身を縮める
耳を寝せる仕草、いわゆるイカ耳は警戒のサインです。犬の場合は信頼の証とされ、大好きな飼い主さんに撫でられたときや、甘えたいときにも見せる仕草になります。犬と接する機会が多く、猫との関わりが浅いと誤解してしまうことがあるかもしれません。猫がイカ耳になっているときはそっとしておきましょう。
目を見開き、瞳孔が大きくなっているときも同様です。目が丸く可愛らしい印象を与えますが、猫はリラックスしているわけではありません。ここで無理して撫でようとしてしまうと、攻撃されてしまうかもしれませんので要注意です。猫は何かに怯えたり、警戒心がむき出しになっている状況では、できるだけ体を小さく見せようとします。これは、猫同士が喧嘩になりかけたときの降参の仕草に似ています。
猫を襲うつもりはなくても、近づかれることでより恐怖を与えてしまう可能性があります。猫は言語を操れない代わりに、仕草で感情を表現しています。サインを読み取り、気持ちを察してあげましょう。
なぜ臆病になってしまうの?
臆病と聞くと、何事にも怯えている弱々しい印象を持たれるかもしれません。しかし、臆病で警戒心が強いということは、逆に慎重に行動することができるということになります。猫が慎重派になる要因はどこにあるのでしょうか?ここでは、2つの視点から猫が臆病になる背景についてご紹介いたします。
遺伝的なもの
性格を形成するうえで、最も基礎的な部分に「遺伝的なもの」が存在します。つまり、猫の両親から受け継がれるDNAそのものが既に慎重派な性格をつくりあげているのです。猫にとって社交的か、そうでないかを決める要素は「父親」にあります。つまり、父親が慎重派で警戒心が強い猫である場合は子猫もその要素を持って誕生します。生まれながらにして、遺伝子的に臆病である素質のようなものを持ち合わせているということです。この核となる部分を元に、次に紹介する「環境的な要因」が加わって性格が形成されます。
育った環境によるもの
人間も猫も、基礎となる性格は遺伝的なものとして最初から持っています。しかし、その性格が全てではないところが心を持った存在の魅力です。猫も人間のように、多くの人生経験を積んで成長していきます。その過程で性格も築きあげられていきます。猫の性格形成においては、遺伝的要因は父親の存在が大きく、環境的な要因は実際に子育てをする母親の影響を強く受けることになります。猫社会では、育児は母猫がひとりで行うことが一般的とされています。中には例外もあり、いわゆるイクメン猫も全くいないわけではありません。しかし、ここでは、一般的なケースを例に紹介させていただきます。
母猫の教育
母猫は、子猫が生後1ヶ月半頃から6ヶ月までの間に持てる全ての知識を伝授します。生後半年を過ぎると子猫は独立し、単独で逞しく生きていかなければなりません。だからそれまでの間に、危険を回避する行動や狩りの方法などを徹底的に教えます。猫の性格に関する要因は、生後2週から3ヶ月に至るまでの「社会化期」と呼ばれる時期が大きく影響します。猫はこの時期に母猫の愛情を受け、きょうだい猫との関わりの中で力加減や、猫以外の存在との距離感などを学習します。
母猫が人馴れした猫の場合は、人間を警戒すべき存在として教育することはありません。しかし、人間に虐げられた過去を持つ母猫は、人間を危険な存在として警戒するように教育します。母猫の人生経験が子猫の社交性にも影響を与えるのです。更に子猫が成猫へと成長し、自分自身の人生を歩む過程でも心境に変化が生じます。母猫には人間は怖い存在と教えられても、心から信頼できる人間に出会うことができれば、また異なる考え方をしてくれるようになります。
猫以外と触れあうことの大切さ
猫の性格は、父親の遺伝子による「遺伝子的要因」と母親の育児による「環境的な要因」が大きく関係していることが分かりました。この2つの要素を元に成長し、人をはじめとする他の動物と接する環境が、最終的な性格を形成します。ここで人から怖い思いをさせられてしまうと、人を信頼することが難しくなってしまいます。特に社会化期の経験は後の人生に与える影響が大きく、この時期に他の猫はもちろん、猫以外の存在と多く触れ合う経験が重要になります。
少しでも社交的な猫にするためにできること
猫というと、これまで述べてきたことに関係なくクールで、人に懐く印象が弱いかもしれません。警戒心が強いことや、臆病な仕草も、猫ならではの自然な行動のように感じるでしょう。だから、猫を社交的にすることは不可能なことのように思えますが、こちらの接し方次第では臆病な性格を克服できる場合もあるのです。
本来であれば、社会化期に経験できればなお良いのですが、既にこの時期を過ぎてから家族に迎えることも多いため、今回は社会化期以降の猫を対象に紹介させていただきます。猫の警戒心を解き、積極的に他者と関われるようになるためのポイントは次の5つです。
1.猫に歩調を合わせる
慎重派の猫に、こちらが積極的に関わろうとすることは逆効果です。まずは猫のペースに合わせ、様子を見守ることからスタートしましょう。人に対する恐怖心が強いと、打ち解けるまでに時間がかかるでしょう。それでも、焦らずに待つ姿勢を大切にしてください。猫の歩みに沿って、こちらも歩調を合わせてあげるようにしてください。
2.目を合わせない
人馴れしていない猫の場合は、目を合わせないことも大切な配慮です。猫社会では、目を見つめるという行為は喧嘩を売ることに相当します。つぶらな瞳を目の前にすると、ついつい見つめたくなるものです。しかし、ここはぐっと堪えましょう。目線を合わせないことを意識しつつ、時々目が合ったときはゆっくりと瞬きしてあげましょう。この動作は猫の愛情表現になります。愛おしい存在であると、猫の感情表現をもって伝えてあげるのです。
3.ご飯を食べさせる
食事は生きるうえで欠かせない大切なものです。この命に関わる事柄に関与することで、徐々に信頼関係を築いていきます。先にも述べたように、食事中は無防備になるため、最初は目の前で食べてくれないかもしれません。だから、ここでも焦りは禁物です。最初は食器をケージ内に入れ、その場からすぐに立ち去ります。そして遠目から見守ります。この見守りの距離を少しずつ縮め、手の手のひらからでも食べられるようになれば、心を許してくれたサインになります。
4.優しく声をかける
まだ直接触れ合うことが難しい状況下では、優しく声をかけるようにしてください。言葉の意味を全て理解することはできませんが、雰囲気は伝わります。日頃からよく声をかけることで、飼い主さんの声が安心感に繋がるようになります。猫は日常で頻繁に聞く言葉は覚えることができます。特に褒め言葉にはポジティブな反応を示すようになります。「いい子だね」「可愛いね」と優しく、やや高めの声で話しかけてください。
5.少しずつ撫でていく
距離が縮まり、猫が近づいてくれるようになったら、人差し指を鼻に近づけてみましょう。においをかいでくれたら挨拶が成立したことになります。そして顎の下、耳の後ろなど顔周辺を撫でてあげましょう。腹部やしっぽ、肉球などは撫でないように気をつけましょう。これらの場所は、急所やデリケートな部位になります。はじめは顔周辺から撫でることがおすすめです。こちらが撫でる幸せと同じように、猫も撫でられる幸せを感じてもらえるように優しく撫でてあげましょう。
これら5つの行動が緊張を解し、人馴れする過程の第一歩になります。この他にも、猫が苦手とする大きな音や、無理やり抱き上げるなどの行動を慎むようにしましょう。猫は一度心を開いてくれると、人間を深く信頼し、猫なりの愛情表現を用いて甘えてくれるようになります。
初対面では威嚇されるほど怯えていた猫が、野生を忘れお腹を見せてゴロンと転がったり、目を見つめて鳴いてくれるようになることはとても感動的です。でも、大切なことを忘れないでください。全ての猫の社交性が高まるわけではありません。中には警戒心が強いままの猫もいます。その場合は、猫の個性として受け入れてあげることも大切です。
猫の社交性を高めるメリット
元々臆病だった猫を、社交的な猫に成長させることは簡単なことではありません。完全に社交的にならなくても、些細なことで驚いたり、常にビクビクしているような状況を克服することを目標にしてみましょう。人馴れしてくれることでコミュニケーションを取りやすくなり、より楽しい生活を送ることができます。少しでも社交的な性格になってくれることのメリットは、他にも次のような場面で役立ちます。
- 動物病院を受診するとき
- 災害時、避難を余儀されなくなったとき
- 猫を預けなければならないとき
完全室内飼育とはいえ、ワクチン接種は可能な限り受けることが推奨されます。また繁殖を望まない場合、避妊・去勢手術を受けさせることも大切です。このように普段は健康であっても、動物病院に行く機会は巡ってきます。このときに、臆病な性格ではよりストレスが大きくなってしまいます。
特に病院は、猫以外の動物や、その飼い主さんである見知らぬ人がたくさんいる環境です。更に機械音も聞き慣れない音として不安の種になります。これらの環境に慣れておくことは、必要以上に負担をかけずに済むという点から重要になります。また、旅行や出張などでホテルに預けたり、シッターさんに来てもらう場合も同様です。
人慣れは災害時に役立つ
そして、災害時にも人馴れしていることがとても役に立ちます。平凡な日常とは全く異なる非常事態では、人間も不安になります。不安が強い猫にとっては、普通の猫以上に苦痛を受けるでしょう。知らない環境での避難生活も、人や動物と接する機会が多く、社交的な性格のほうがいくらか過ごしやすくなります。よって、ある程度の人馴れと、人に対する恐怖心の克服は無理のない範囲で頑張ってみてください。
まとめ
今日のねこちゃんより:あさり / ♂ / チンチラペルシャ / 0.7kg
人間の性格が、簡単には変えられないことと同じく、猫の性格もそう簡単には変わらないものです。しかし猫は賢く、適応力も高い動物です。猫の気持ちを尊重し、愛情をかけることを大切にすることで、我々の気持ちも伝わります。
基本的にはその猫が持つ個性を受け入れることが大切です。しかし、いざと言うときに備えて、人や他の動物に対する恐怖心を克服しておくことは重要になります。猫の気持ちに寄り添って、ゆっくりとその成長を見守るようにしてください。