猫の三臓器炎とは  食欲不振・下痢・嘔吐で疑うべき意外と知らない病気

猫の三臓器炎とは 食欲不振・下痢・嘔吐で疑うべき意外と知らない病気

知人の猫が、食欲不振で動物病院を受診。様々な病気を疑い、いくつかの検査をしましたが、なかなか診断がつきませんでした。数日後、ようやくついた診断は「三臓器炎の疑い」。特定されたわけではなく、あくまでも疑い。初めて聞いた病名に、私は心が波立ちました。ここでは、猫の三臓器炎について調べたことをご紹介します。

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記事の監修

山口大学農学部獣医学科卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、ふくふく動物病院開業。得意分野は皮膚病です。飼い主さまとペットの笑顔につながる診療を心がけています。

猫の三臓器炎とは

聴診器を当てられる猫

三臓器炎の「三」とは、十二指腸、膵臓、肝臓の三臓器のことで、「炎症性腸疾患(IBD)」「胆管肝炎」「膵炎」が同時に起こる病気です。別名を三徴症(三徴炎)とも言います。

猫の身体の構造上、膵臓は十二指腸や肝臓、胆のうなどに囲まれています。そのため、十二指腸が炎症を起こすと、胆汁や膵液が排出される「十二指腸乳頭」という管を介して、胆のうや膵臓に炎症が広がることが多くあります。そのため、膵臓、肝臓、十二指腸の炎症が併発し、「三臓器炎」になりやすいと言われています。

それ程多い病気ではありませんが、合併症を引き起こすと一気に重篤化し、多臓器不全へと進展します。これは犬には起こりにくい症状で、猫特有の現象となります。

猫の三臓器炎の主な症状

えさ皿をよける猫

三臓器炎を患った猫は、主に「食欲低下」「嘔吐を繰り返し、下痢が止まらない」「元気がない」といった症状が現れます。

先に述べた通り、これらの症状は炎症性腸疾患(IBD)、胆管肝炎、膵炎が原因で引き起こされる症状です。まずはこの3つの病気の「それぞれの症状」をみていきましょう。

炎症性腸疾患(IBD)の症状

腸に慢性的な炎症を引き起こす病気です。誤飲誤食、細菌感染などの明らかな理由もないのに、たまの嘔吐、たまの下痢が続く場合は、検査の必要があります。

以前は見過ごされて来た症状ですが、内視鏡検査の普及に伴い、炎症性腸疾患(IBD)の診断がつくようになりました。

主な症状は食欲不振、下痢、嘔吐、血便、体重減少などです。それらが単体で現れる場合もありますし、複数で現れることもあります。良くなったり、悪くなったりを繰り返すのが特徴で、猫コロナウイルスが原因で起こる下痢、軟便に症状が似ています。

主な検査は血液検査(症状が進まないと異常の確認は出来ません)、レントゲンやエコー(ただし確定診断は出来ません)、内視鏡検査(確定診断をするには必要な検査)などです。

膵炎の症状

猫の膵炎は、犬とは異なり、ほとんど症状のない、軽度の慢性間質性膵炎が多いとされています。主な症状は、上腹部の痛み、食欲不振、元気がない、体重減少などです。明確な診断を出せるようになったのは、最近になってからです。

あまり極端な症状が出ない上に、猫は嘔吐を頻繁にする動物なので、すぐに膵炎を疑う飼い主は少ないと思われます。

私の愛犬が急性膵炎で、見てるのが辛くなるくらいに苦しんで、苦しんで、死んでいったので、猫の膵炎は極端な症状は出ないと言われても、正直ピンと来ません。だからこそ、かえって怖い、と感じました。

膵炎とは、文字通り膵臓に炎症が起こる病気のことです。病態や炎症の状態から、慢性か急性を判断します。慢性膵炎が多いだけで、急性膵炎にならないわけではありません。

慢性よりも、急性の方が症状はより強く出ます。膵炎の原因は、急性・慢性に関わらず、はっきりとわかっていません。ちなみに、死因を問わず、猫を死後に病理解剖した際に、およそ67%が膵炎だったと言うデータもあるそうです。

胆管肝炎の症状

連結している胆管と肝臓が、炎症を起こした状態を言います。初期はほとんど無症状です。症状が進むと、食欲不振、発熱などが見られ、明らかに元気もなくなります。さらに症状が進むと、嘔吐や黄疸が見られるようになります。

胆管は、肝臓と繋がっているため、肝臓か胆管のどちらかが炎症を起こすと、もう片方も炎症を起こすことしばしばあります。また、食欲不振が長引くと、猫の場合、肝脂肪を発症する場合もあります。

猫の三臓器炎の治療法

点滴をされる猫

三臓器炎は、どれか一つを治療するのではなく、全体的に診ていくことが重要となって来ます。

炎症性腸疾患(IBD)の主な治療法

残念ながら完治することはないので、原因の除去が最重要事項ですが、炎症性腸疾患(IBD)は原因が特定されていないため、治療法も対症療法になります。食餌療法中心の、ステロイド治療となります。ほとんどの猫は症状をコントロール出来るようになり、食餌療法だけでも体調管理が出来るようになります。

膵炎の主な治療法

犬の膵炎は、食べさせないことが基本です。48時間から72時間は、薬物を含め、一切の経口摂取を禁止し、それでも嘔吐が止まらない場合は、それ以上の絶食をします。猫の場合は、現時点での治療法として、絶食をすべきではないとされています。

猫は嘔吐をせず、食欲不振だけのこともあるので、強制的にでも食べさせるべきだと考えられています。なぜなら、猫はどんな病気の場合も、食餌でたんぱく質を摂取しないと、肝細胞が不可逆的に死滅するため、絶食は致命傷になるからです。猫の飼い主は、このことを頭に入れておきましょう。

猫の膵炎は、対症療法で治療します。脱水を防ぎ、ミネラルを補給するための点滴、脱水や栄養失調を食い止めるための吐き気止め、痛みのコントロールをするための鎮痛剤、腹膜炎や敗血症などを併発している場合には抗生物質、三臓器炎を併発している場合はステロイドが有効となります。食事管理も重要になります。

胆管肝炎の主な治療

多くの場合は、点滴治療を行います。その他、抗生物質、消炎剤、利胆剤や強肝剤等などを投薬します。もしも胆管が閉塞している場合には、胆管閉塞の手術をしなければならないこともあります。

まとめ

ぐったりした猫の顔

猫の三臓器炎についてお話いたしました。私の愛猫も2年程前に、血便、軟便、嘔吐を繰り返し、「炎症性腸疾患(IBD)の疑いあり」と診断されたことがあります。対症療法で回復したので、愛猫への負担を考え、診断に至るまでの検査はしませんでしたが、今でも時々、軟便が続くことがあります。

私は愛猫がそのような状態になって、はじめて炎症性腸疾患(IBD)という病気について調べました。その際に、同じような症状でも、様々な病気が潜んでいることがわかり、改めて命を預かることの重大さを思い知った気がします。

それ以来、日々の食事管理、体重測定などの健康管理には気をつけているつもりです。今回の「三臓器炎」についても、これからもっと知る努力をしたいです。

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