モンゴメリと猫
モンゴメリはその作品に猫を登場させるだけではなく、日記や手紙でも愛猫たちのことを熱く語り、署名には黒猫のイラストを添えていました。
お気に入りの写真や新聞記事などをまとめたスクラップブックに、愛猫の毛を短く切ったものまで貼るほどの溺愛ぶり。
また、モンゴメリは不当な扱いをしてきた出版社と争ったことがあり、当時その件について友人に宛てた手紙では、「私は女性であるとはいえ、猫族の血統を引いているのです」と気炎を上げて、訴訟問題の一部始終を述べています。
売られたケンカに猫のごとく闘志を燃やすその姿勢は、もはや猫好きというより猫そのもの?!
…そんなモンゴメリが生み出した猫たちについて、その名前と描写をご紹介します。(猫の名前は、村岡花子さんの翻訳による表記を使用しています)
『赤毛のアン』シリーズ
ラスティ(Rusty)
ラスティは、『赤毛のアン』シリーズ三巻の『アンの愛情』に登場します。
大学生になったアンが下宿に帰ろうとしているときに、なぜか勝手についてきた猫。
英語の"rusty"には、「さび色の、さびのように赤茶けた」という意味があり、ラスティの初登場シーンでも、「元は黒猫だったのを十分に徹底的に焼き焦がしたら、こんな見苦しい色になるだろう」と描写されているので、そんな名前がつけられたのでしょう。
日本でトラ猫をトラちゃん、三毛猫をミケちゃん、と呼ぶような感覚かもしれません。
ジョセフ(Joseph)
同じく『アンの愛情』に登場。
アンとその友人たちが住む下宿先の保護者、ジェムシーナ叔母さんが連れてきた猫。
Josephは聖書に出てくるヨセフの英語表記で、聖書にはヨセフが「いろどれる衣」を作ってもらったという描写があります。
ジェムシーナ叔母さんの猫ジョセフは、地色が何色かわからないほど毛が色とりどりなので、いろどれる衣を着たヨセフにちなんで名づけられたようです。
ふつうの名前かと思いきや、聖書由来の名前だったとは…ジョセフ、一気にイメージアップです。
セイラ猫(Sarah-cat)
同じく『アンの愛情』に登場。
ジェムシーナ叔母さんが使用人からもらって連れてきた猫。
その使用人がセイラという名前だったので、セイラ猫と名づけられました。
筆者は昔、「なぜこの猫だけセイラではなく、セイラ猫と呼ぶんだろう」と思っていましたが、使用人のセイラと区別するために、セイラに「猫」をくっつけたのですね。
日本語で「猫の方のセイラ」と呼ぶ感じでしょうか。
ダスティ・ミラー(Dusty Miller)
『赤毛のアン』シリーズ五巻『アンの幸福』に登場。
教師となったアンが下宿する家で飼われている猫。
ダスティ・ミラーは、「粉まみれの粉屋」という意味だそうです。
ダスティ・ミラーは目が金色、毛はマルタ猫特有の青色がかった灰色でリネンのような感触…と描写されているので、何だか高貴なイメージがしないでもないのですが、外をほっつき歩いて帰宅が遅い猫ちゃんなので、ほこりをかぶったような(dusty)という意味もあるのかもしれないですね。
メーティ(the First Mate)
『赤毛のアン』シリーズ六巻『アンの夢の家』に登場。
結婚したアンの新居近くに住む、ジム船長が飼っている猫。
元船乗りのジム船長が捨てられていた猫に"the First Mate(一等航海士、の意)”という名前をつけ、略してメーティと呼んでいます。
"orange-colored cat"とあるので、ミカン色…ということはトラ猫でしょうか。
ジム船長は「犬は友だち。猫は仲間。」と話していますが、その感覚には何となく頷けます。
終わりに
モンゴメリの作品には、『赤毛のアン』シリーズ以外でも様々な猫たちが登場します。
一度しか登場しない猫にも、ちゃんと名前をつけるモンゴメリ。
読む側は、その名前からどんな猫だろうと想像が膨らみます。
読書の秋に、ネコ探しをテーマにして、モンゴメリ作品を読んでみるのはどうでしょうか。