盲目の子猫
置き去りにされた子猫
米国カリフォルニア州サンノゼの通りで、小さな盲目の子猫が1匹で彷徨っていました。
彼女は、何も見えない中でひとりぼっちにされ、とてつもない不安と恐怖の時間を過ごしていました。
アニマル・シェルター
やがて、子猫は保護され、サンノゼのシェルターに収容されました。
シェルターでの子猫は、見えない世界で発生している知らない音と匂いにとても恐怖を感じていました。
怖すぎて、自分の存在を消してしまいたい、そう思ったのか、収容されたケージの隅っこで身を隠すようにジッと過ごしていました。
これは、シェルターの檻の中では、よく見かける光景です。
同じように不安になっている他の犬猫達の鳴き声がとても異様で、これから自分にいったい何が起きるのか、収容動物たちには、本当に怖くて怖くて仕方ないのです。
そんな中でも人懐っこく愛嬌を振りまく子から里親が決まっていきます。
いつまでも恐怖に震えている子らは、人馴れしないからと殺処分されたり、なかなか注目されず、里親が決まらないというのがシェルターの皮肉な現実です。
photo by John Hwang カリフォルニアのシェルターにて
命名
この子猫は『ダッキー(Ducky)』と命名されました。
ダッキーとは、英語で「Just ducky !」(ぜんぜん問題ないよ!)とよく使われています。
その意味は、”湖の白鳥は水面上では穏やかそうに見えても、実際水の中では足をバタバタさせて大変な状態”という意味で、
つまり”表面上は穏やかに見えても、本当はいろいろ大変なんだよ”というように皮肉的に使われているスラングです。
栄養失調
子猫のダッキーは、骨と皮という痩せこけた状態で収容されました。
その様子は、明らかに医療措置が必要でした。
しかし、行政が管理しているシェルターに収容されている動物には、医療措置が施されることは殆どありません。
幸運の女神の登場
シェルターでは、手足の短いダッキーは”マンチカン”ではないかと言われました。
様子を見に訪れた動物救済団体の『Saving Grace Rescue』の創設者アンバー・ローズ氏は、
「(収容動物達の鳴き声が常に聞こえてくるような)シェルターの異様な環境と匂いに対してダッキーは恐怖を感じていました。」
と語りました。
ローズ氏は、恐怖で震えていたダッキーをシェルターから引き出し、彼女の団体が管理している猫専用施設のボランティア・スタッフにダッキーを託しました。
それは、盲目のダッキーの恐怖を取り払うためには、たくさん猫が収容されている団体の施設内ではなく、家庭内でのお世話が必要だと考えた、ローズ氏のダッキーに対する最善の配慮でした。
行動の変化
ローズ氏の考えは間違ってはいませんでした。
ダッキーが自分専用のスペースを与えられたことですぐに、シェルターとは全然違う行動を見せ始めたのです。
シェルターでは隅っこに隠れるようにジッとしていたダッキーが、立ち上がり、そして歩き周り、時にはじゃれて甘え鳴き始めたのです。
先天性疾患
ダッキーは検査の結果、目のまぶたが適切に形成されない”Feline Eyelid Agenesis”という先天性疾患を持って生まれてきた事が判りました。
ダッキーは、その疾患が原因となり、視力を失ってしまいました。
この疾患は目に痛みをともないます。
つまり、ダッキーは常に痛みを感じているわけです。
闘いの日々
更に「ダッキーは寄生虫をもっていました。それは、とても深刻な種類です。そのため、二度、彼女は死にかけました。」とローズ氏は語りました。
サラさんという預かりボランティア・スタッフの家に来てからの最初の1か月は、ダッキーは病気との闘いの日々でした。でも、ダッキーは諦めることなく生きるために闘い続けてくれました。
要求
「ダッキーの精神はとても強かったです。
彼女の体は弱かったのですが、生きるための食欲と、愛を求めることに対しては彼女は貪欲でした。
ダッキーは何か要求があるときは叫びました。それは鳴くというよりは、叫ぶ方に近かったです。」とローズ氏は語りました。
例えば、トレイに行きたいとき。彼女が泣き叫べば、サラさんがダッキーを抱えて猫のトイレに連れていきます。
そして用を足したら、また泣き叫び、サラさんが元の場所に抱えて戻します。
健康と共に活発に
ダッキーは、だんだん健康になっていきました。
健康を取り戻し始めたダッキーは、だんだん行動が活発になり、遊び始めました。
でも、ダッキーが最も好んだ事は、誰かに抱きしめられる事でした。
社会性
サラさんの家で、1匹だけで静かに過ごしながら、健康を取り戻したダッキーは、次の段階に移りました。
今度は、同団体の猫担当のボランティア・スタッフのジョイスさんが、ダッキーを他の猫達と一緒に過ごさせて、社会性を身に着けるために、ダッキーを自宅に連れて行きました。
愛
「ダッキーはとても愛すべき子です。ダッキーを抱きしめる度に、私は彼女に魅了されます。」とジョイスさん。
ジョイスさんは愛しいダッキーのためにセーターを編んでくれました。
ダッキーはそれを愛し、優しさと暖かさに包まれて毎晩至福の眠りにつきます。
痛みを取り除く
健康を取り戻す事が出来たダッキーは近々まぶたの再建手術を受ける予定です。
それによって、ダッキーがこれまでずっと味わっていた目の痛みは取り除かれるそうです。
彼女の残りの猫生は、痛みのない生活に変わります。
ダッキーは、視力を取り戻すことはできませんが、痛みがなくなることでこれまでのように手助けをしなくても、普通の子猫のように過ごせる日がきっと来ると思われます。
ダッキーの記録
ダッキーにつきましては
Saving Grace Rescueのフェイスブック
そして同団体のKanga Rooのフェイスブック
および同団体のKanga Roo The Kittyのインスタグラム
にてそれぞれ写真などが掲載されています。
最後に
アニマルシェルター(保健所=動物愛護管理センター)に収容されている時に、吠えたり噛みついたり暴れたりという問題行動がある子たちの多くは、収容動物達の異様な鳴き声や、隔離された狭い檻の中で、冷たい床に寝起きする生活を強いられ、そして生きるために食事と水のみ与えられる環境下で、不安と恐怖、それらのストレスから起きる問題行動である場合が多いのです。
不幸にも収容動物達の恐怖から来るそれらの問題行動によって、人々から敬遠されてしまい、里親が見つからなかったりして、殺処分されるケースが長年世界中で繰り返されています。
保護団体だけでなく、国や自治体が管理するシェルターは、収容された動物達にとっては最期の場所となってしまうことが殆どです。
そんな場所で最期の最後まで不安と恐怖で過ごさなければならないというのは、なんとも忍び難いとは思いませんか?
そのような場所に収容されてしまう動物達の多くが人間のせいでそうなってしまった子達です。
世界中のアニマル・シェルターが、収容動物達にとって安心して過ごせ、必要な医療が施され、そのすべてにセカンドチャンスが与えられるような世の中に1日でも早くなります事を切に願っております。
※尚、この記事及び写真と動画の掲載につきましては、Saving Grace Rescue Inc(フェイスブックKanga Roo,インスタグラムkangaroothekitty)と筆者の知人でもありシェルターの動物たちの写真を啓蒙活動として撮影し続けているJohn Hwangさんの写真の承諾を得て行っております。