シニア猫がなりやすい『甲状腺機能亢進症』5つの知識 原因や症状から早期発見するためのポイントまで

シニア猫がなりやすい『甲状腺機能亢進症』5つの知識 原因や症状から早期発見するためのポイントまで

シニア猫に多く見られる甲状腺機能亢進症は、日常の小さな変化から気づく場合が多い病気です。放置すると体への負担が大きくなるため、飼い主さんが正しい知識を持ち、早期発見につなげることが重要です。今回は、症状の特徴や原因、気づくためのポイントをわかりやすく解説していきます。

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記事の監修

麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師の電話相談窓口やペットショップの巡回を経て、横浜市に自身の動物病院を開院。開院後、ASC永田の皮膚科塾を修了。皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、日々の診療で力を入れさせていただいています。

猫の甲状腺機能亢進症で知っておきたい5つの知識

自動給餌器の横に立つ猫

甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで代謝が異常に高まり、全身にさまざまな影響が出る病気です。高齢猫に多く見られるため、シニア期に入った猫と暮らす飼い主さんは、基本的な知識を持っておくと早期発見につながります。ぜひ、知っておきましょう。

1.食欲が旺盛なのに体重が減る

猫の甲状腺機能亢進症は、たくさんご飯を食べているのに、なぜかどんどん痩せてしまうという、一見矛盾した症状が見られます。これは、病気によって甲状腺から分泌されるホルモンが過剰になることが原因です。

甲状腺ホルモンの分泌が過剰になると、猫の体の代謝を異常に高めてしまいます。例えるなら、アクセルを踏みっぱなしで体がフル回転しているような状態です。そのため、どんなにたくさんのカロリーを摂取しても、体内でそのエネルギーがどんどん消費されてしまうのです。

その結果、食欲が増すにもかかわらず、体重が減るという不思議な現象が起きるのです。

2.高齢なのに急に活発になる

高齢の猫が、急に走りまわるようになったり、鳴き声が大きくなったりして「若返った」ように見えることがあります。しかし、これは甲状腺機能亢進症の特徴的な症状のひとつです。

甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、神経系が過敏になり、興奮状態になります。このホルモンの影響で、高齢猫の体は休むことができず、不自然に活発になる、落ち着きがなくなるといった症状があらわれます。これは、体が過剰に活動しているためで、猫自身も非常に疲弊してしまいます。

3.多飲多尿になる

甲状腺機能亢進症になると、猫は水を飲む量(多飲)が増え、それに伴っておしっこの量(多尿)も多くなります。甲状腺ホルモンが増えて代謝が上がり、水分が失われやすくなるうえ、腎臓のろ過量が増えて尿の量が多くなるためです。

その結果、体の水分が不足して喉の渇きが強まり、さらに水を飲んで尿が増えるという悪循環に陥ります。

また、この病気が進行したり、もともと腎臓病を併発している場合は、さらに腎臓に負担をかけてしまう場合もあります。

4.さまざまな合併症に注意

甲状腺機能亢進症は、甲状腺だけの病気ではありません。他の深刻な合併症を引き起こしたり、悪化させたりする危険があります。

  • 心筋症
  • 慢性腎臓病
  • 高血圧
  • 頻脈

特に注意したいのが「慢性腎臓病」です。甲状腺機能亢進症の猫は、腎臓の異常が検査結果にあらわれにくく、見落としてしまう可能性があります。また、心筋症も注意が必要です。肥大型心筋症の猫は、心筋の肥大が重度になることが報告されています。

甲状腺の治療と同時に、これらの合併症の有無をしっかりチェックし、総合的なケアが求められます。

5.甲状腺機能亢進症になりやすい年齢

猫の甲状腺機能亢進症は、若い猫では非常にまれで、基本的に高齢猫に見られる病気です。10歳以上の猫に多く、発症のピークは12歳から13歳頃とされており、この年齢層の猫は特に注意が必要です。また、10歳以上の猫の約10%が甲状腺機能亢進症にかかっているという報告もあります。

10歳を超えた猫が急に元気になったり、食欲が増したりした場合は特に注意が必要です。定期的な健康診断で甲状腺ホルモンの値をチェックし早期発見に努めましょう。

猫の甲状腺機能亢進症の原因は?

ソファーで眠っている猫

この病気のおもな原因は、甲状腺組織の過形成と甲状腺の腫瘍です。猫では、甲状腺細胞が過剰に増殖して甲状腺が大きくなる甲状腺組織の過形成が多いと言われています。

過形成を起こす原因として、食事中のヨウ素のバランスや住環境に含まれる化学物質など、環境的な要因の関与も指摘されています。ただし原因を完全に特定することは難しく、生活全体の変化が積み重なって発症するとも言われています。

なお、悪性腫瘍が甲状腺機能亢進症の原因になるケースはまれです。

早期発見のためのチェックポイントは?

聴診器をあてられている猫

甲状腺機能亢進症の初期症状は見逃されがちですが、いくつかの特徴的な症状があげられます。高齢の猫に以下のような症状が見られたら注意しましょう。

  • よく食べるのに痩せる
  • 水を大量に飲む(多飲多尿)
  • 落ち着きがない
  • 大きな声で鳴く

また、甲状腺機能亢進症の早期発見には、甲状腺ホルモン値の検査が有効です。健康診断の際に検査をするのがおすすめです。

まとめ

鳴いている猫

猫の甲状腺機能亢進症は、高齢猫に多く「食欲があるのに痩せる」「急に活発になる」「水をよく飲む」など、一見「元気そう」に見えるサインで進行します。そのため、病気が見過ごされがちです。

放置すると心臓病や腎臓病などの深刻な合併症を引き起こし、命に関わる場合があるため、早期発見・早期治療が重要な病気のひとつです。

健康診断の際に甲状腺ホルモン値の検査をおこなうのはもちろん、日常生活で少しでも気になる症状が見られたら獣医師に相談するようにしましょう。

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