1.基礎疾患のある人は要注意!パスツレラ症

まず、紹介したいのは、「パスツレラ症」です。
「パスツレラ症」は、「人獣共通感染症(ズーノーシス)」と呼ばれ、ほぼ100%の猫の口の中や爪に存在する常在菌・パスツレラ菌によって引き起こされる病気です。
主な感染経路としては、「引っ掻かれる」、「噛まれる」といったものが挙げられますが、「キス」もまた感染のきっかけになり得ます。
たとえば、「パスツレラ症」の猫に噛まれると、数時間後に患部が赤く腫れ、激しい痛みを伴うことがあります。また、リンパの腫れや発熱も典型的な症状のひとつです
健康的な人であれば、症状が出ることは少ないですが、高齢者をはじめ、免疫不全や糖尿病などの基礎疾患のある人は、「パスツレラ症」に感染する確率が高く、場合によっては、敗血症や髄膜炎などの重篤な症状に悪化するリスクもあります(死亡例もあり)。
「キス」や口移しは、「パスツレラ症」の危険性が高い行為です。極力、避けたほうが賢明でしょう。特に体調不良時は要注意です。
なお、愛猫に引っかかれたら、傷口をただちに消毒して、最寄りの医療機関で診てもらってください。
2.妊婦の方はトキソプラズマ症に気をつけて

2つ目は、「トキソプラズマ症」です。
「トキソプラズマ症」は、トキソプラズマ原虫(寄生虫の一種)によってうつる感染症のことで、主な感染経路は、加熱が不十分な肉の摂取、猫の糞便を媒介にした経口感染、の2つに分類されます。
経口感染で問題となるのは、肛門付近の毛づくろい時に口のまわりに付着した糞便です。愛猫との「キス」を通じて間接的に感染するケースがあります。
「パスツレラ症」と同様に、健康に問題がなければ、ほとんど無症状か、軽度の症状で済みます。ただし、妊婦さんが初めて「トキソプラズマ症」に感染すると、流産の恐れがあるほか、新生児が「先天性トキソプラズマ症」になってしまう危険性が生じます。
「先天性トキソプラズマ症」にかかった赤ちゃんは、小頭症や黄疸、失明につながる脈絡網膜炎などの障害が出る可能性もあります。ちなみに、「先天性トキソプラズマ症」の発症率は約10~15%とされています。
予防対策としては、経口感染を避けるため、猫のトイレ掃除は、妊婦さん以外の人が担当することが非常に大切です。トイレ掃除後は、徹底した手洗い消毒を心がけてください。
3.カプノサイトファーガ感染症の可能性もあり

最後の3つ目は、「カプノサイトファーガ感染症」です。
「カプノサイトファーガ感染症」とは、猫(犬)の口腔内の常在菌、カプノサイトファーガ・カニモルサスが原因で起こる病気です。
引っ掻かれたり、噛まれたりなどが主な感染経路で、犬の場合では、火傷の傷口を舐められた女性が、「カプノサイトファーガ感染症」にかかった例も海外で報告されています。猫(犬)の唾液を介した感染には十分な注意が必要です。
今のところ感染例は少数ですが、「カプノサイトファーガ感染症」に感染すると、発熱や倦怠感、腹痛、吐き気などの症状が起こります。深刻化すると、敗血症や髄膜炎、出血しやすくなる播種性血管内凝固症候群(DIC)、さらに多臓器不全に陥ることもあります。
「パスツレラ症」と同じく、基礎疾患のある方や高齢者の方は、重症化のリスクもあるので、愛猫との「キス」や口移しは絶対に避けるようにしましょう。
まとめ

今回は、愛猫との「キス」でどのような病気にかかりやすくなるか、3つの人獣共通感染症を例に解説しました。
結論から言うと、飼い主さんの健康上、愛猫との「キス」は控えたほうが無難です。「パスツレラ症」のように、たとえ飼い猫であっても、口腔内の常在菌が感染症の要因になる場合があります。
特に、妊婦さんのいるおうちでは、生まれてくる赤ちゃんのためにも、愛猫のトイレ当番は、他の家族のみなさんが担当するように努めてください。