1.病気の概要と発症年齢について

甲状腺機能亢進症は、首の前側にある甲状腺からホルモンが過剰に分泌される病気です。甲状腺ホルモンは、新陳代謝をコントロールするホルモンですが、過剰に分泌されることで全身の器官が働きすぎ、さまざまな症状が現れます。
発症しやすい年齢は7歳以上の中高齢猫で、12〜13歳が平均的な発症年齢です。一方、5歳以下でも発症例があり、実際には若い猫でも注意が必要です。性別や特定の猫種による発症率の差はほとんどありません。
この病気の特徴的な症状は「食欲旺盛なのに体重が減る」という現象です。痩せはじめる前の食欲の異常は、元気な証拠と誤解され、見逃されてしまう危険があります。
また、その他の初期症状として、行動の異常が現れます。
- 活発になる
- 落ち着きがなくなる
- 夜鳴きが続く
- 毛づやが悪くなる
病気が進むにつれて、嘔吐や下痢、多飲多尿、心拍数の増加や不整脈、呼吸困難、筋力低下などの深刻な症状が出てきます。
甲状腺機能亢進症の猫は腎疾患や心疾患を併発するリスクが高いため、まずは異変に気付くことが重要です。
2.原因と診断・治療の選択肢

甲状腺機能亢進症の原因の多くは、甲状腺にできる良性腫瘍だといわれています。具体的な発症メカニズムは完全には解明されていませんが、遺伝、環境、栄養要因などが複雑に関与していると考えられています。
診断は触診、血液検査、超音波検査で行われます。甲状腺が腫れている場合は触診でわかりますが、血液検査で甲状腺ホルモン(T4ホルモン)を測定するのが一般的です。
正常値を上回っていれば、さらに超音波検査で甲状腺の状態を確認した上で、甲状腺機能亢進症と診断されます。
治療法は「薬物療法」と「食事療法」で、甲状腺の状態によって「外科療法(手術)」や「放射線療法」が選択されます。一般的なのは、お薬で甲状腺ホルモンの生成を抑えつつ、療法食で維持するというものです。
どの治療法を選ぶかは、猫の年齢と全身状態、併発疾患の有無、飼い主の希望、生活環境などを考慮して、獣医師と相談しながら決定されます。
3.予防法と早期発見

治らない病気はできることなら予防したいものですが、残念ながら、甲状腺機能亢進症は、発症のメカニズムが解明されていないため、予防する確実な方法も確立されていません。「なってしまったら、早期に処置をしてホルモン分泌による異常を軽減する」しかないのです。
とはいえ、病気の早期発見と適切な治療は、非常に重要ですから、定期的な健康診断を受けることからはじめましょう。
シニア期に入る7歳以降の猫では、年1〜2回の血液検査を含む健康診断が推奨されています。無症状の段階でも血液検査により甲状腺ホルモンの値を測定することで、病気の早期発見が可能になります。
また、自宅での健康管理として飼い主さん自らが日常的に「観察」することも早期発見につながります。
- 食べているのに体重が減ってきた
- 高齢だが活発になってきた
- 毛づやが悪く、毛がパサパサ
- 嘔吐の回数が増えた
- 夜中によく鳴くようになった
- 呼吸や心拍が速くなった
- トイレの回数や飲水量が増えた
これらの症状は、ほかの病気との区別がつきにくい場合もありますが、たとえ甲状腺機能亢進症でなくても、早めに動物病院を受診することが大切です。
まとめ

多くの病気には予防策がありますが、猫の甲状腺機能亢進症は防ぐ方法が確立されていません。一度発症すると一生付き合っていく必要があります。発症は中高齢の猫に多く見られますが、若い猫でもなることがあるため、すべての飼い主さんが心に留めておきたい疾患です。
この病気の特徴は、食欲が旺盛なのに体重が減る点です。加えて、年齢に関係なく活発になり、攻撃的な行動が見られることもあります。
実際、健康診断で甲状腺機能亢進症と診断された猫の中には、飼い主さんが『まさか!』と思うほど元気な猫も少なくありません。
しかし、適切な治療を受ければ、寿命を大きく縮めることなく付き合える病気でもあります。大切な愛猫と快適で長い時間を過ごすために、定期的な健康診断を忘れずに受けましょう。