1.重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

重症熱性血小板減少症候群(以下SFTS)は、SFTSウイルスによって引き起こされる感染症です。
主にマダニが媒介しますが、ウイルスを保有する動物(とくに猫)の体液や血液との濃厚接触によっても人に感染する可能性がある、非常に危険な人獣共通感染症です。
最近では、猫を治療していた獣医師がSFTSに感染し、命を落としたという痛ましいニュースもありましたね。
猫におけるSFTSの症状は、発熱、食欲不振、元気消失、嘔吐、下痢といった非特異的なものが多く、他の病気と区別がつきにくい場合も多いようです。
しかし重症化すると黄疸(皮膚や粘膜が黄色くなる)や、出血しやすい(血便、鼻血、歯肉からの出血など)などの症状が見られることもあります。
発症した猫の致死率は約60%と非常に高く、有効な治療法が確立されていないため、猫の飼い主なら懸念すべき病気だといえるでしょう。
なお人におけるSFTSの潜伏期間はマダニに刺されてから6日〜2週間程度とされており、主な症状は高熱(38度以上)、全身倦怠感、消化器症状(食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛)などです。
重症化すると頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節の腫れ、呼吸不全、出血症状など多岐にわたる症状があらわれ、致死率は10〜30%にも達すると言われています。
SFTSの予防策としては、まず猫がマダニに寄生されないように、定期的な駆虫薬の投与や、外出時のマダニ予防を徹底することが重要です。
マダニに接触する機会も増えるため、猫を屋外に行き来させず、室内で飼育することをおすすめします。
また飼い主自身、草むらや川沿いの散歩などにいくときは、長袖長ズボンを着用し、虫よけスプレーをしてマダニに刺されないようにするのも大切です。
2.猫伝染性腹膜炎(FIP)

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルスが猫の体内で突然変異することによって発症する、致死率が非常に高い感染症です。
かつては「不治の病」として恐れられ、発症すればほぼ100%死に至ると言われてきましたが、近年新たな治療薬の開発により、治癒が期待できるようになってきました。
猫コロナウイルス自体は、多くの猫が保菌しており、通常は無症状か、軽度の下痢などの消化器症状を示す程度です。しかしストレスや他のウイルス感染などによって猫の免疫力が低下した際に、ウイルスが毒性の強いFIPウイルスに変異し、FIPを発症すると考えられています。
FIPは大きく分けると、「ウェットタイプ」と「ドライタイプ」の2種類があります。ウェットタイプは、胸腔や腹腔に液体(滲出液)が貯留するのが特徴で、お腹が膨らんだり、呼吸が苦しくなったりする症状が見られます。
一方ドライタイプは、さまざまな臓器に肉芽腫(小さなしこり)が形成されるのが特徴で、発熱、食欲不振といった共通の症状に加え、神経症状や眼の炎症など、多岐にわたる症状が見られる場合があります。
さらにこのドライ型とウェット型両方があらわれる、「混合型」も存在します。
以前は、このFIPに対する根本的な治療法はなく、症状を和らげる対症療法が主でした。
しかし近年、GS-441524やレムデシビル、モルヌピラビルといった抗ウイルス薬が開発され、これらの薬剤を用いた治療によって、多くの猫がFIPから回復したという報告が寄せられています。
これらの治療薬を使用した治療方法は、すべての動物病院で行えるわけではありません。かかりつけの動物病院でこれらの治療薬を使用した治療が可能かどうかということを確認してみていただくことをおすすめします。
とはいえ不治の病とされていたFIPに光を当てるものとしては、大きな希望となっています。
3.猫パルボウイルス感染症

猫パルボウイルス感染症は、「猫汎白血球減少症」とも呼ばれ、猫パルボウイルス(FPV)によって引き起こされる、非常に伝染性が高く、致死率の高い感染症です。特に子猫が感染しやすく、重篤な症状を引き起こすと知られています。
このウイルスは感染した猫の糞便中に大量に排泄され、環境中でも安定しているため、感染力が強いのが特徴です。そして体内で細胞分裂が活発に行われている腸、骨髄、リンパ組織といった場所で増殖します。
そのためウイルスに感染すると、消化器症状、免疫機能の低下、貧血といった、さまざまな症状があらわれるのです。
ウイルスが骨髄で増殖すると、白血球の数が著しく減少し、猫は二次的な細菌感染症にかかりやすくなり、症状がさらに悪化する原因にもなります。
猫パルボウイルスの感染経路は、主に感染した猫の糞便に直接触れることや、糞便で汚染された環境や物に間接的に接触することによって感染します。
しかし猫パルボウイルス感染症は、ワクチンによって高い確率で予防できる病気です。
そのため多頭飼育をしている家庭や、新しく子猫を迎え入れる際には、ワクチン接種の有無を必ず確認し、必要であれば獣医師と相談の上、接種計画を立てましょう。
まとめ

猫がかかる感染症の中には、猫の命を脅かすだけでなく、飼い主自身にも感染するかもしれない、恐ろしいものがあります。
特にSFTSのような人獣共通感染症は、単なる病気ではなく、社会的な問題にもなりかねません。
そのため日ごろから正しい知識を持ち、日常的に予防策を実践していきましょう。
ぜひこの機会に愛猫との生活を振り返り、見直しを行ってみてはいかがでしょうか。小さな意識が、大きな命を救うことにつながるかもしれません。