愛猫が突然亡くなることも…猫に危険な『心筋症』種類や症状、対処法を解説

愛猫が突然亡くなることも…猫に危険な『心筋症』種類や症状、対処法を解説

猫の心臓病の代表格である心筋症は、ある日突然、愛猫の命を奪ってしまうこともある恐ろしい病気です。初期には症状がほとんどあらわれないため、飼い主が気づいたときには病状が進行しているケースも少なくありません。本記事では、猫の心筋症の種類や初期症状、対処法について解説します。

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記事の監修

日本獣医生命科学大学卒業。北海道の大学病院で獣医師として勤務。一般診療をメインに行いながら、大学にて麻酔の研究も並行して行う。「動物と飼い主さんに寄り添った治療」を目標に掲げ、日々診療に励んでいます。

猫の「心筋症」とは

座るメインクーン

猫の心筋症は、心臓の筋肉(心筋)に異常が生じる病気の総称であり、猫において比較的多く発生する深刻な病気の一つです。

その発生頻度は、品種や年齢によって異なりますが、一般的に高齢の猫や特定の品種(メインクーン、ラグドール、アメリカンショートヘアなど)で多く見られます。

心筋症の最も恐ろしい側面は、何の兆候もないまま、ある日突然、心不全や血栓塞栓症(血管内でできた血の塊が血管を塞ぐ症状)を引き起こし、最悪の場合、突然死につながる可能性があることです。

さらに、心筋症は初期段階ではほとんど症状があらわれないことが多いため、発見が遅れがちです。愛猫が普段と変わらない様子で過ごしているように見えても、心臓の病気が静かに進行している可能性があります。

わずかな変化(活動性の低下、呼吸が少し早いなど)が見過ごされやすく、症状が顕著になったときには病状がかなり進行していることも少なくありません。

そのため、定期的な健康診断や、日頃からの愛猫の注意深い観察が非常に重要となります。

猫の心筋症の種類と特徴

横になるラグドール

肥大型心筋症(HCM)

猫の心筋症で最も一般的なタイプです。心臓の筋肉、特に左心室の壁が異常に厚くなるのが特徴で、心室内の容積が狭まり、血液を十分に送り出せなくなることがあります。

原因は完全には解明されていませんが、遺伝的な要因が強く関与すると考えられており、特定の品種(メインクーン、ラグドールなど)で好発します。

心臓の収縮力は保たれていることが多いものの、拡張機能が低下し、心不全や動脈血栓塞栓症を引き起こすリスクがあります。

拡張型心筋症(DCM)

心臓の筋肉が薄く伸び、収縮力が著しく低下するタイプの心筋症です。かつてはタウリン欠乏が主な原因でしたが、現在ではキャットフードの栄養バランス改善により発生は減少傾向にあります。

しかし、原因不明の特発性DCMも存在するようです。心臓がポンプとしての機能を果たせなくなるため、全身への血液循環が悪化し、肺水腫や胸水貯留などの心不全症状を引き起こします。

拘束型心筋症(RCM)

心臓の内側の筋肉や心内膜が線維化したり、異常な物質が沈着したりすることで、心室の柔軟性が失われ、拡張しにくくなるタイプの心筋症です。原因は明確にはわかっていません。

心室が十分に拡張できないため、血液が心臓に戻りにくくなり、心房が拡大したり、肺や胸腔に液体が貯留したりする心不全の症状があらわれます。

不整脈源性右室心筋症(ARVC)

主に右心室の筋肉が脂肪組織や線維組織に置き換わる比較的まれな心筋症です。これにより、右心室の収縮機能が低下し、心室性不整脈を引き起こしやすくなります。

失神や突然死の原因となることもあるようです。左心室に異常が認められない場合や、進行すると両心室に影響が及ぶこともあります。原因は遺伝的な要因が示唆されていますが、詳細は不明な点が多いです。

猫の「心筋症」の初期症状とサイン

ぐったりする猫

猫の心筋症は、初期には明確な症状を示さないことが多く、飼い主が気づきにくいのが特徴です。

しかし、注意深く観察することで、わずかな変化に気づける可能性があります。以下の症状が出ていないか確認してみましょう。

  • 活動性の低下、以前より疲れやすい様子
  • 呼吸が少し早く、浅い
  • 運動を嫌がるようになる
  • 食欲不振、体重減少
  • わずかな咳(特に夜間や安静時)
  • 元気がない、ぐったりしている
  • 隠れたがる、静かに過ごすことが増える

以前よりも活動量が減ったり、すぐに疲れたりする様子が見られることがあります。呼吸が普段より少し早く、浅いと感じることも初期のサインの一つです。

また、運動を嫌がるようになったり、食欲が落ちて体重が減少したりすることも考えられます。特に、夜間や安静時に軽い咳をすることがあります。

元気がない、ぐったりしている、あるいは隠れて静かに過ごす時間が増えるといった変化も、心臓に負担がかかっている兆候かもしれません。

これらのサインは、他の病気でも見られることがありますが、複数当てはまる場合は心筋症の可能性を考慮し、早めに動物病院を受診するようにしてください。

「心筋症」が進行したときの症状

咳をする猫

猫の心筋症が進行すると、心臓の機能が著しく低下し、下記のようなさまざまな重篤な症状があらわれます。

  • 呼吸困難(開口呼吸、ハッとするような呼吸)
  • 激しい咳、呼吸時にゼーゼーという音
  • 運動不耐性(少し動くだけで息切れする)
  • 舌の色が悪くなる(チアノーゼ:紫色や灰色)
  • 後ろ足の麻痺(突然の痛みと歩行困難:血栓がつまることで引き起こされる)
  • 失神、意識消失
  • 胸水や腹水によるお腹の張り

呼吸困難は顕著になり、口を開けて苦しそうに呼吸したり、ハッとするような呼吸を繰り返したりします。激しい咳や、呼吸時にゼーゼーという異常な音が聞こえることも。

運動能力はさらに低下し、少し動くだけで息切れを起こすようになります。血液中の酸素不足により、舌の色が紫色や灰色になるチアノーゼが見られることもあります。

特徴的な症状として、後ろ足の血管に血栓が詰まる動脈血栓塞栓症による突然の麻痺と激しい痛みが挙げられます。

重症化すると失神や意識消失を起こしたり、胸腔や腹腔に液体が貯留してお腹が張ったりすることがあります。最も深刻なのは、何の予兆もなく突然死に至る場合があることです。

これらの症状が見られた場合は、一刻も早く動物病院を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。

「心筋症」の治療と対処法

診察を受ける猫

猫の心筋症の治療は、完治を目指すものではなく、進行を遅らせ、症状を緩和し、突然死のリスクを減らすことを目的とします。

主な治療法は内科療法で、心臓の負担を減らす利尿薬、血管を広げる血管拡張薬、不整脈を抑える薬、血栓の形成を防ぐ抗血栓薬などです。食事療法として、ナトリウム制限食が推奨されることもあります。

呼吸困難が強い場合には酸素療法が行われ、胸水が溜まっている場合は胸水穿刺で液体を抜く処置が行われることもあります。

家庭でのケアも非常に重要で、安静な環境を保ち、ストレスを極力減らすことが大切です。獣医師の指示に従い、定期的な投薬を欠かさずに行い、症状の変化を注意深く観察しましょう。

急な症状悪化に備え、かかりつけの動物病院と連携を取り、緊急時の対応を確認しておくことも大切です。

まとめ

胸を抑えてうずくまるような姿勢の猫

猫の「心筋症」は初期症状の見極めが難しく、気づいた時には進行してしまっているパターンが多いです。そのため、私たち飼い主はいかに早く愛猫の異変に気付くことができるかが重要になってきます。

定期的な健康診断はもちろん、毎日の食事や運動にも気を配り、愛猫の些細な変化に気が付けるよう準備しておくことが大切です。

わずかな異変にもすぐ気が付けるように、日々のコミュニケーションを大切にしていきましょうね。

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