船上で生まれた冒険好きな猫
18世紀後半から19世紀にかけて活躍したイギリスの航海士「Matthew Flinders」は、南半球にある巨大な大陸を船で航海して回り、その地名を「オーストラリア」として広めた、英雄的人物です。しかし、彼の偉業にTrimという名の猫が貢献したことをご存じでしたか?
英国海軍艦船Reliance号で生まれたこの猫は、赤ちゃんのときから冒険好きで、船内をあちこち出かけていきました。海へ転落し、ボートで助け出されたこともあるほどです。
オーストラリアのニューサウスウェールズ州立図書館のRachel Franksさんによると、この猫のとびぬけた度胸にMatthew Flindersが注目したといいます。
「意志の強い猫で、Matthewからとても愛されていたようです。猫のほうも、彼を慕っていました。Trimという猫の名前は、イギリスの小説『Tristram Shandy』(Laurence Sterne著)に出てくる登場人物の名をとったものです」と彼女。
「この猫は、これまでに見たどの動物よりもすばらしい。毛色は真っ黒で、あごと足先だけは真っ白。まるで雪を踏みしめたようだ。胸には星のような白い模様が入っている」と、当時Matthewは表現しています。
難破や軟禁の災難にあって
彼が大陸調査の任務についたとき、Trimも同行しました。
調査船に乗っていた猫は、Trim以外にも数匹いました。ネズミを捕獲して食糧やロープが損傷されるのを防ぐためです。しかしTrimはほかとは際立って違う、個性的な猫でした。Matthewはこの猫を特別に愛し、愛猫のための伝記や詩まで執筆しました。
その後、彼の船はグレートバリアリーフで難破してしまいます。乗組員と猫たちは必死に泳ぎ、やっと小島にたどりつきました。その後7週間もの間、遭難した人たちはここで救助が来るのを待っていたそうですが、Trimのお陰で士気を保ち続けることができたといいます。
その後ふたたび英国に向けて航海に出たMatthewとTrimたちですが、修理と物資の補給のために立ち寄ったフランスの植民地モーリシャスで、そのまま監禁されてしまいます。当時、英国とフランスは戦争状態にあったため、総督はMatthewを6年半もの期間、軟禁することを命じたのです。
この長い軟禁中も、TrimはMatthewとずっと一緒でした。それでもこの猫が島を歩き回ることは許されていました。
後世に語り継がれる猫の偉業
1804年のある日、いつものように出かけていったTrimは、2度と戻ってきませんでした。何が起きたのかは、わかっていません。
Matthewの悲しみは相当なものだったそうです。彼は当時こう書き残しています。
「忠実で頭の良いTrimは亡くなってしまった。遊び好きで愛情深い、とても役に立つ友だったのに。お前のようなすばらしい猫には、もう2度と会うことはできない。大きな喜びを与えてくれた猫。みんながおまえの死を悼み、悲しんでいるのだよ」
「もしも将来母国に戻って、庭のある藁拭き屋根の一軒家で静かに余生を送ることができたら、お前のための墓碑を庭の隅に建てることを誓おう。いつもTrimのことを思い出し、そのすばらしい才能を後世に語り継ぎたいのだ」
結局、彼自身が墓碑を建てることはかないませんでした。しかし現在、英国とオーストラリアの各地にこの猫の銅像があります。そしてTrimの特別な魅力を後世に伝えているのです。
出典:True tales of Trim, the adventurous cat belonging to navigator Matthew Flinders