囚人が持ち込んだ子猫
米国の刑務所で、16年にわたって受刑者たちを慰め続けた伝説の猫がいます。アイダホ州Boiseにあった旧アイダホ刑務所(現在は廃止)に住み着いていた猫のDennisです。
このたび5月27日の戦没将兵追悼記念日の式典でコーディネーターを務めたAlexandra Polidoriさんは、同刑務所の歴史上、とても重要な役割を果たしたこの猫のことを人々に紹介しました。
「Dennisは1952年に刑務所の養鶏場で見つかり、受刑者がこっそり建物に持ち込んで育てるようになりました。小さな靴箱に入れられて、そこに潜んでいたのです。食堂から出た残飯を餌として与えられていました。この猫は16年間刑務所で生活していたのです」
やがて刑務員に猫の存在を知られてしまいましたが、そのままここで生活することを許されたのです。そして16年後の1968年の戦没将兵追悼記念日に、この猫は亡くなりました。
「彼は戦没将兵追悼記念日に生まれ、同じ戦没将兵追悼記念日に亡くなったということですが、真実はわかりません。ただしその記念日に亡くなったことは確かです」と彼女は言い添えます。
刑務所全体の人気者に
当時、この猫は刑務所で「スター」的な存在でした。
「みんながこの猫を愛していて、Dennisは自由に敷地内を歩き回り、行きたい先のドアを人間に開けてもらったりしていました。職員の机に寝転がったり、食堂に並ぶ囚人たちの肩に乗ったりしていたそうです。とくに終身刑を受けた囚人たちのことが大好きで、一緒にチェスのゲームを楽しんだりしていたのです」とAlexandraさん。
Dennisは刑務所の中で、人々に慰めと交流の機会を提供していたのです。
「まさにこの刑務所のセラピー動物でした。当時はそういう概念がなかったので、草分けといってもいいでしょう。でも猫自身にはそんな役割を担う義務感はなく、ただのんびりあちこち歩き回る生活を楽しんでいたのだと思います。この猫が刑務所内の理髪店で亡くなると、人々はとても悲しみ、猫のための追悼式を開催しました」
「現在残っているこの猫の姿は、死亡記事に掲載されたイラストだけです。しかも鉛筆で描かれたもので、詳細はわかりません。でも胸が白毛で全体が黒い毛の、骨格がしっかりしたオス猫だったようです。つまり、タキシードを着た猫のような姿ですね」
語り継ぎたい、猫の功績
旧刑務所をしのぶ戦没将兵追悼記念日の式典が開催されるのは、ことしで4回目。毎年Dennisについて回顧されていて、多くの人々がこの猫のことを知るようになりました。過去の歴史を学び、猫の墓前を訪れる人や、猫をしのんで刑務所跡地でゲームに興じる人も増えています。
「毎年、社会科見学で訪れた子供たちにこの猫のことを説明しています。評判が広がって、いまではDennisは旧刑務所跡のマスコット的存在です。猫との交流の歴史は、アイダホ州の刑務所にいた人々の人間性を示すもの。人々は刑務所生活の中でも心の安定を欲していたのです。そんな状況では、猫がとても大事な存在でした。現在のわたしたちもDennisをたたえ、この猫の功績と囚人たちに与えた大きな影響を語り継いでいきたいと思っています」というAlexandraさんです。
出典:One cat leaves a legacy: 'Dennis the Cat Day' at the Old Idaho Penitentiary