数々の失敗をへて、クローン子猫が誕生
カナダのKelownaに住むKris Stewartさんは、「クローン技術」によって飼っていたラグドール猫Bearとそっくりの子猫を誕生させることができました。これまで2年間、失敗を重ねてきた末の成功です。しかも子猫は2匹も生まれました。
2022年1月、Krisさんは交通事故のため5歳で亡くなった愛猫のDNAを、米国テキサスにあるペット・クローン会社「ViaGen」へ送っていました。
「Bearにはもっとやりたいことがあっただろうに…と悔しかったのです」と彼女。
トロント大学の生命倫理学者Kerry Bowman氏によると、クローンの再生は、動物のDNAを埋め込んだ胚細胞を、代理出産する母猫の子宮に移植することで行われます。
2024年1月10日に生まれた子猫は、それぞれ「Bear Bear」「Honey Bear」と名付けられました。ニューヨークにあるViaGen社の施設で母猫と8週間を過ごした後、さっそくKrisさんに引き取られていったそうです。
生存率が低く健康上の問題も
「本当にBearそっくり。勇敢でおませな猫たちなの」というKrisさんは、子猫を見るとやんちゃで賢かった愛猫のことを思い出すといいます。
「Bearは今まで飼ったペットで一番賢い子だったわ。2歳のときからずっと飼っていたの」
Bowman氏によると「生まれたクローン動物のうち生き残れるのは5%未満」だといいます。クローン動物はふつう寿命が短く、臓器肥大など健康上の異常を伴う可能性もあるのです。
今回の場合も、子猫たちが生まれるまでに4回の胚移植が失敗に終わっています。Krisさんによると、経費は総額で約5万カナダドル(約560万円)にも上ったとか。そんな巨額の出費にもかかわらず、彼女はBearに似通った子猫たちを迎えて大興奮でした。
世界で最初のクローン動物は羊のDollyで、1996年にスコットランドで誕生しました。それ以来、ペットのクローン化ビジネスが盛んになったといいます。各界有名人もこうしたサービスを利用しています。女優のBarbra Streisandが愛犬をクローンで再生した体験を公にし、議論を呼んだこともありました。
まったく同じ動物ではない
しかしBowman氏は「ペットのクローン化を容認するかどうかは、議論のあるところだ」といいます。
「動物保護施設には常に大勢の犬猫がいます。とくに保護猫は、もらい手がなく安楽死させられることも多いと聞いています。そういう動物をペットとして飼ってほしいですね。また、クローンのため代理母になった動物が病気などを持っている可能性もあるし、代理出産は通常より流産や死産の確率も高いのです。しかもクローン化は人間の都合だけで行われ、動物自身の意思はまったく問われないのが現状です」というBowman氏。
「最愛のペットを再生したいという飼い主の気持ちはわかります。でも、クローン技術によって生まれたペットは、元の動物とまったく同じというわけにはいかないのです」と警告しています。
同じDNAを持っていても、生まれた環境が異なればさまざまな違いが出てきます。あとになって飼い主が「元のペットとは違う」と気づくこともあるといいます。
「わたしも子供時代に犬を飼って、大事にしていました。できればまたあの犬に会いたいと思いますよ。でも、クローンによって再生しても、同じ犬だとはいえないでしょうね」と話すBowman氏です。