AIで猫の痛みを把握して治療へ
人工知能(AI)を活用することで、猫が感じている痛みをより的確に把握して病気の治療に役立てようという研究が行われています。ドイツのハノーバー獣医大学(TiHo)とイスラエルのハイファ大学情報システム学部の共同研究チームによるものです。
TiHoのSabine Kästner教授とHolger Volk教授は、ハイファ大学のAnna Zamansky教授と協力してこの研究を進めています。
TiHoの研究グループが科学誌「Scientific Reports」に掲載した論文では、顔の表情から猫の痛みを自動的に認識して評価する2種類のAIシステムについて報告しています。
Volk教授は「この研究の目的は、猫の痛みをより正確に評価できるようにすることで、より人道的な治療ができるようにすることです。AIを導入することで、獣医の治療は格段に進歩するでしょう」と話しています。
より客観的な評価を求めて
Kästner教授は「ある種の動物については、顔の特徴を観察して痛みの程度を評価することがすでにできるようになっています。さまざまな痛みを感じている動物について、顔の一定の場所を観測して分類する手法もそのひとつです。猫の痛みを評価するための科学的システムは『Feline Grimace Scale』(「Grimace」はしかめっ面の意)として知られており、これまでも使われてきました」といいます。
しかし、猫のしかめっ面を正確に判断して評価するには相当な専門知識と経験が必要で、かなり難しいのが実情です。
「Feline Grimace Scaleは主観的で、偏見の影響を受けやすいのです。もっと客観的な評価ができるよう、わたしたちはAIに基づくシステムづくりに取り組んでいます」というZamansky教授です。
当初、猫の疼痛をAIで認識するためのシステムづくりには、似たような猫たちの画像が利用されていました。
「この手法が現実の猫にも適用できるかどうかを調べるため、ランダムに選ばれた84匹の猫を使って、さらに深い実験を行いました」とVolk教授。猫たちは、品種や年齢、性別、健康状態もさまざまでした。
鼻と口を観察することで「痛み」を評価
研究チームは、まずFeline Grimace Scaleと猫たちの臨床データを使って、痛みを測定・評価しました。
その上で、新たな2つのAIシステムを試しています。ひとつは人間が猫の顔の測定部位を示してAIが評価を行うもの、もうひとつはAIが自動的に顔の一定部分を観察して評価を行うものです。前者は精度77%でしたが、後者は65%でした。
「この結果は希望が持てるものです。かなりの精度で痛みを評価できることがわかったのですから」とKästner教授。
AIシステムで痛みを正確に認識するために、顔のどの部分が重要かについても調べました。その結果、鼻と口の周辺が重要だとわかったのです。これまでは「猫の痛みを知るには耳を観察するとよい」といわれてきましたが、実は耳の周辺はあまり関係ないこともわかりました。
「猫の顔のうち、どの部分が痛みを知るのに重要かがわかったので、今後のAIシステムの改良に役立つでしょう」とZamansky教授は話しています。
飼い主に言葉で「ここが痛い」と伝えることのできない猫。近い将来、AIの活用によって、猫の痛みを理解し、最適な治療につなげることができそうですね。