「アニマルウェルフェア」とは
アニマルウェルフェアとは、『人が関わっているすべての動物たちに対して、生まれてから死に至るまでの暮らしおよび生活環境を見直し、動物たちが受ける痛みやストレスを最小限に抑え、その生命を尊重しよう』という考え方です。
1960年代のイギリスの畜産業界が推奨し、家畜を快適な環境下で飼養し、病気やストレスを減らした安全で健康な生活をさせることで、安全性と生産性の高い畜産物の生産につなげようとしたのが始まりでした。
この考え方はイギリスからヨーロッパへ、そしてアメリカやアジア諸国へと広がりを見せ、また家畜から伴侶動物、実験動物、展示動物などの人と関わる全ての動物が対象となるように広がっていきました。
具体的な影響としては、発端となった畜産業界で放し飼いやケージフリー、妊娠ストールフリー、つなぎ飼いフリーなどが広まりました。また欧米では、動物保護団体などによるアニマルウェルフェア認証制度が創設され、スーパーでは認証製品の売上が伸びています。
またファッション界では、毛皮や皮革製品に代わり、動物由来ではない、フェイクファーなどが広く受け入れられるようになってきました。さらに、ペットショップによる生体動物の販売を禁止する国が出てきたり、水族館における鯨類によるショーの廃止などの動きも広がってきています。
愛猫のために知っておきたい「アニマルウェルフェア」の指標
「アニマルウェルフェア」を学んでいくときにポイントとなるのが、「5つの自由」という指標です。
これは、「アニマルウェルフェア」の考え方が盛り上がってきたタイミングで英国政府が提唱した『すべての家畜に対して「立つ」「寝る」「向きを変える」「身づくろいする」「手足を伸ばす」という自由を与える』という内容が元になっています。
やがてこの考え方が現在の「アニマルウェルフェア」における「5つの自由」に繋がっていくのです。
それではここからは、その「5つの自由」のそれぞれに対して、私たち人間が愛猫のために、具体的に何をすべきなのかについて考えていきましょう。
1.飢えと渇きからの自由
愛猫にとって適切かつ栄養的に十分な食物を与え、いつでもきれいな水が飲める環境にすることが求められます。
猫にとって安全な食材と調理法で作られ、必要な栄養素をそれぞれの猫に最適なバランスで含んでいる食事を与え、基本的には人間の食べ物は与えないようにしましょう。
また、猫が飲みたいときにいつでも新鮮な水を飲めるよう、複数個所に水飲み場を用意しましょう。
2.不快からの自由
愛猫にとって適切な環境の下で飼育すること、そしてその環境を常に清潔に維持し、外部からの自然現象を回避し、ケガの予防も配慮することが求められます。
猫の行動範囲は常に清潔に保ち、きれいに片付けて誤飲や感電事故などの予防に努めましょう。またエアコンや除湿機などを利用して、夏の間も常に気温を27〜28℃、湿度を50〜60%に維持しましょう。
猫は汚れたままのトイレを嫌い、排泄を我慢して膀胱炎などの病気になりやすいです。トイレは「猫の頭数+1個以上」用意し、こまめに掃除しましょう。
さらに、猫のボディランゲージを学ぶことで正しく理解し、猫が嫌がり始めたらすぐにスキンシップを切り上げられるようになることも大切です。
3.痛み・傷害・病気からの自由
正しく健康管理と疾病の予防を行い、痛みや外傷・疾病の兆候が見られた場合は速やかに診療・治療を受けさせることが求められます。
犬よりも猫の飼育頭数が多くなったと言われて数年経ちますが、未だに動物病院への来院数は、犬の方が多いそうです。
猫が通院を嫌がるのは事実ですが、具合が悪くなったときだけではなく、予防医療のためにも愛猫を定期的に通院させることが大切です。
4.恐怖や抑圧からの自由
愛猫に恐怖・不安・ストレスなどの兆候が見られたら、速やかにその原因を究明し、的確な対応を行うことが求められます。
猫はとても警戒心が強く、基本的には臆病です。なかなか懐かなくても、丁寧に向き合うことで信頼の絆を構築できます。
飼い主さんのことを信頼できるようになれば、たとえ家の中でひとりぼっちの留守番をしていても、猫は不安に陥らずに落ち着いて過ごせるでしょう。
5.正常な行動を表現する自由
猫の習性を理解し、本来あるべき正常な行動が発現できる十分な空間や適切な環境を整えること、その習性に応じた形態で飼育することが求められます。
元々猫は、あまり行動範囲が広くありません。広い平面を行動するよりも、狭い空間を立体的に利用することを好みます。そのため、猫が家の中を立体的に利用して、快適に過ごせるようにしてあげましょう。
外に出かけることを許された猫は、毎日縄張りをパトロールしなければならず、また他の猫とのケンカや交通事故に巻き込まれたり、病気にかかったりというリスクを高めることになります。
外出できる方が自由で幸せだと思うかもしれませんが、家の中の方が猫にとっても安心できる環境だということを知ってください。
日本における「アニマルウェルフェア」
動物後進国と言われている日本では、まだまだアニマルウェルフェアの考え方は、海外ほどには浸透していないのが現実です。
それでも、動物保護団体によるアニマルウェルフェアの啓蒙活動や、殺処分をゼロにするための活動などが各地で進んでいます。
元々欧米で始まったアニマルウェルフェアの根底には、「人間が動物を利用することを認める」という前提があります。日本では徳川綱吉の「殺生の禁令」などのように、動物の拘束や殺生はよくないことだという道徳感があるため、アニマルウェルフェアを100%受け入れるのは、難しいかもしれません。
それでも、日本においてもアニマルウェルフェアが少しずつ受け入れられ、農林水産省が畜産生産者向けのアニマルウェルフェア改善実践項目の指針を纏めたり、動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)の改正時にその考え方を盛り込んだりもしています。
まとめ
今回は、「アニマルウェルフェア」について解説しました。
この考え方には、100%賛同できない方ももちろんいるでしょう。
しかし、実際私たちの多くは家畜や魚を食べ、薬品開発などさまざまな場面で動物たちからの恩恵をこうむっています。この事実を認めたうえで、動物たちができるだけ安全で快適な環境の下、安心して暮らせるようにするのが、私たち人間の責任ではないでしょうか。
今回ご紹介したアニマルウェルフェアの「5つの自由」の各項目に照らし合わせ、愛猫のために何を改善する必要があるのかを見直していただければ幸いです。