動物への「最高位の勲章」
歴史上、戦争で活躍した動物に贈られる英国の「ディッキン勲章」を受けた猫は、サイモンだけです。
この勲章は人間の兵士に与えられる「ヴィクトリア十字勲章」に匹敵する最上位の名誉で、イギリスの動物関連慈善団体「病気の動物のための人民診療所」(PDSA)の創設者であるMaria Dickinさんにより80年前に制定されました。そして6年後、サイモンがその死後に叙勲されています。
国共内戦(1929~1949年)の最中の1948年、英国海軍は香港にスループ艦「HMS Amethyst」を派遣しました。このときサイモンが乗組員として乗船することになったのです。
PDSAによると、砲撃の際に重傷を負ったにもかかわらず、勇敢なサイモンはイギリス海軍の駐屯地に戻り、大切な物資をネズミから守って乗組員を救い、その士気を高めたといいます。
凶悪なネズミから食料を守った猫
PDSAは、飼い主が獣医の治療費を負担できないペットの世話をする慈善団体として、1917年から活動を続けています。
「1949年の揚子江事件で被弾し、多くの乗組員が死傷しました」とPDSAの看護師であるNina Downingさんはいいます。
このとき「HMS Amethyst」は、南京にあった英国大使館の護衛のため揚子江を遡っていて、中国共産党軍の砲撃を受けたのです。サイモンは砲弾の破片で重傷を負いました。
しかしすぐにネズミ捕りの任務を再開し、その勇敢な姿は兵士の士気を大いに高めたのです。
Ninaさんによると、さまざまな活躍をみせたサイモンですが、なかでもすごいのは、船員の命を脅かすほど「非常に凶暴なネズミ」に襲いかかったことでした。
「争いでひどい傷を負いましたが、それでも何とかこの害獣を追い払い、足止めされていた乗組員のために、貴重な食糧を10週間も守り続けたのです。乗組員たちの命を救ったといえますね」
最高の働きぶり
PDSAによると、当時の乗組員らはこの猫を「真の救世主」とたたえ、敬意を評して「有能な船員」の称号を与えたそうです。任務中のサイモンの行動はまさしく「最高級」だったのです。
そして1949年11月1日にプリマス港に帰還したとき、サイモンは人々から大歓迎で迎えられました。
やがて感染症で亡くなると、エセックス州イルフォードのPDSA動物墓地に埋葬されました。
1943年に動物が初めて「ディッキン勲章」を受けて以来、75匹の勇敢な動物たちが叙勲されています。うち犬が38頭、ハトが32羽、馬が7頭で、猫はサイモンだけです。