過酷な野良猫の生活
近年は猫の飼育頭数が犬の飼育頭数を上回った状態が続いており、「猫ブーム」だと言われています。
しかし、ブームの後には捨て猫が増えるのではないかと危惧している専門家も多いようです。なぜなら、日本では過去に、シベリアン・ハスキーなどの特定犬種がブームになった後、その犬種の捨て犬が増えたという事実があるからです。
猫の平均寿命が毎年発表されますが、その際に付記される野良猫の寿命は「5年程度」となっており、飼育されている猫の平均寿命15歳のわずか3分の1程度です。このことからも、野良猫の生活が非常に厳しいことが分かります。
もし、今まで人と一緒に暮らしていた猫が捨てられてしまい、野良猫としての生活を強いられるようになった場合、その猫に降りかかる不幸は想像に難くありません。
今回は、『捨てられた猫に降りかかる不幸がどのようなものなのか』について考えてみたいと思います。
捨てられた猫に降りかかる不幸
では、捨てられた猫に降りかかるであろう不幸には、どのようなことが考えられるのでしょうか。
1.思うように食事が確保できない
真っ先に思い浮かぶのが、「思うように食事を確保できない」ということです。
人と一緒に暮らしてきた猫は、遊びとして狩りを行うことはあっても、実際に獲物を捕まえ、それを食べたという経験がありません。猫には野生の本能が残されているとは言っても、母猫から狩りの仕方を教わり、実践を繰り返さなければ狩りの技術は身に付きません。
結果として、残飯やボランティアなどによる餌やりに頼ることになるでしょう。いずれにしても、健康を維持できるような良質な食事をきちんと摂ることは難しいでしょう。
また捨てられたゴミを漁る野良猫の行動は地域問題にもなっており、野良猫の立場を悪くします。
2.不衛生な水しか摂取できない
上記の食事同様、捨てられた猫には、水についても自分での確保が難しくなるでしょう。
窪地や側溝、池などの水を飲むしかありませんが、洗剤等の有害物質が混入していたり、病原菌に汚染されていたりするため、健康を害することが多くなるでしょう。
3.天敵に襲われる
野良猫は自らがハンターとなって獲物を捕まえる必要がありますが、自身もカラスや野生化したアライグマ、ハクビシンなど他の野生動物に襲われることも多いです。
人と一緒に暮らしてきた猫にとって、天敵から身を守るのは難しいでしょう。
4.猫社会に溶け込めない
今まで人としか暮らしたことのない猫にとっては、猫社会での暮らし方を知らない猫も多いでしょう。
猫同士のコミュニケーションが図れない、猫同士の喧嘩に勝てない、というようなつらい思いをすることも多いでしょう。
5.感染症のリスク
外界には寄生虫、細菌、ウイルスなどの病原体がうようよしています。病原体に感染されている猫との接触により、感染症にかかることがとても多くなります。
感染しても、適切な獣医療を受けることはできません。ただ苦しみ、衰弱していくことでしょう。
6.事故に遭うリスク
車や自転車などによる交通事故を始めとして、さまざまな事故に遭うリスクがたくさんあります。
今まで安全な環境で暮らしてきた猫はこれらのリスクに対する警戒心が弱く、事故にも遭いやすいといえるでしょう。
7.虐待を受けるリスク
どこの自治体にも、野良猫に対するさまざまなクレームが多数寄せられています。例えば「ゴミを荒らされる」「野良猫が子猫を生んだ」「鳴き声がうるさい」「餌やりの跡が不衛生」などです。
このような被害に悩んでいる方の中には、猫を虐待する人もいます。人懐こい性格が仇となり、虐待を受けやすいということも考えられます。
8.愛護団体でも安心できない
動物の愛護及び管理に関する法律により、今では飼い猫を自治体が引き取ってくれなくなっています。
そのしわ寄せが動物愛護団体に行き、たとえ保護されたとしても、必ずしも十分な環境で暮らせたり必要な獣医療を受けられる訳ではないケースも増えてきています。
『動物愛護団体に引き取ってもらえれば不幸にはならない』と考えるのは、安易すぎます。
捨て猫を増やさないためにできること
猫が捨てられる理由としてよく耳にするのは、下記のような内容です。
- 引越し先に連れて行けない
- 飼い主さんの死去や施設入所により飼えなくなった
- 飽きた
- 懐いてくれない
- 病気になった
- かわいくて拾った(買った)ものの、家族に反対された
- ペット不可の住宅で飼い始めたが見つかってしまった
猫を迎え入れることを衝動的に決めてしまわないでください。家族の同意を得る、飼育できる環境を整える、引っ越す必要が生じた場合は猫を飼える環境を見つける努力をする、といったようなことは、最低限の条件です。
また懐いてくれなかったり病気になったりしても、一度家族として迎え入れる以上それを乗り越える努力をするという覚悟が必要です。
難しいのは、飼い主さんの高齢化問題でしょう。愛猫の介護が必要になる頃、ご自身は何歳になっているでしょうか。ご自身の老後や死後に、愛猫をどうするかについての準備も必要です。引取先を見付けたり老猫施設と契約したり等の対策を、終活の中に組み込んでおきたいものです。
まとめ
猫との暮らしは、生活をとても豊かで楽しいものにします。その代わり、ご自身の人生の中で愛猫を手放さなければならない事態が生じた場合にも、安易に「無理だ」と考えるのではなく、「どうすれば一緒にいられるか」と考えられる自分でいることが必要です。
不幸な捨て猫を増やさないために、ご自身の人生がどんなに変化しても、そういう自分で居続けられるかをよく考え、覚悟を決めた上で猫との暮らしをスタートさせていただきたいと思います。