猫のひげの役割
猫のひげはとても敏感なので、抜いたり切ったりしてはいけないということは、皆さんよくご存知だと思います。そのためか、ひげが自然に生え変わることをご存じない方も多いようで、床に落ちていた愛猫のひげを見付けて驚かれる方も少なくないようです。
ひげそのものに血管や神経が通っているわけではありませんので、自然にひげが抜けたり折れて切れたりする分には、基本的には問題ありませんし、猫も痛みを感じていません。
ひげの毛根の周囲は、血管が膨らんだ静脈洞で覆われています。ひげは空気などの振動をキャッチし、その振動が毛根を覆っている静脈洞に伝わり、静脈洞はその振動を増幅してすぐそばを通っている神経に伝えます。
この仕組みにより、猫はひげで空気の流れや温度差を読み取り、そこから周囲の物の位置を判断して暗闇でも自由に歩き回り、体のバランスをとって高いところや狭いところをスイスイと歩くこともできるのです。
そのため、猫が何かに集中しているときには、顔が対象物の方を向き、ひげが前に向かっています。つまり、ひげの先端を集中している対象物に向け、情報をキャッチしようとしているのです。
とても感度の高い感覚器であるひげですが、体毛の一種です。被毛の換毛期のようなものはありませんが、一定のサイクルで生え変わったり、何かの衝撃で自然に折れたり切れたりすることもあるのです。
ひげが抜けた時の原因とは
今回は、生理現象も含めたひげが抜ける原因や、ひげが極端に少なくなってしまった場合に猫が受ける影響についてご紹介します。
1.生え変わった
前述の通り、ひげは一般的な生理現象として生え変わります。個体差はありますが、だいたい半年に1度のサイクルで生え変わるといわれています。
一度にすべてのひげが生え変わるわけではなく、また新しいひげが生えた後に古いひげが抜けるということもあるため、基本的にはひげが少なくなってしまうことはありません。逆に、ひげが少し多めだと感じたときが、ひげの生え変わる時期だということになります。
月に数本のひげが落ちている程度であれば、生理現象による自然な生え変わりだと考えて良いでしょう。
2.折れた(切れた)
拾ったひげをよく見ると、途中から折れていたということがあります。確かに愛猫の顔には、他のひげよりも短くなってしまったひげが残っていることでしょう。ひげは硬いのですが、案外もろくて何かにぶつかって折れたり、何かに引っかかって切れてしまったりすることも少なくありません。
また、冬などはストーブに近寄りすぎたために、熱でひげの先がちぢれてしまうということもあります。
3.病的な原因
頻繁にひげが抜ける、または一度にたくさんのひげが抜けるといった場合には、病的な原因を疑った方が良い場合もあります。この場合、考えられる直接的な原因は、皮膚炎やニキビダニ症などの寄生虫の可能性もあります。
ニキビダニとは、猫の皮膚にわずかに存在している寄生虫で、猫が健康なときには何も問題を起こしません。ただし、猫の体調が崩れて免疫力が下がってくると、皮膚炎を起こし、それが原因でひげが抜けてしまう可能性があります。
したがって、ひげが抜ける直接的な原因が皮膚炎やニキビダニ症などの感染症であったとしても、その裏には愛猫の免疫力を低下させる別の要因が潜んでいることも十分に考えられます。
よくあるのが、長期間強いストレスに曝されている、猫エイズ(猫免疫不全ウイルス感染症)や猫白血病ウイルス感染症にかかっているというケースです。
日頃から住環境を整えてストレスフリーな生活を送れるようにすること、そして感染している猫との接触を避けるために外に出さないことを徹底すれば、これらの原因を予防することができます。
ひげがない場合に受ける影響
万が一病的な原因等でひげが大量に抜けてしまった場合、猫にとってとても大切な感覚器官が失われてしまうため、猫はとても生活しづらくなってしまいます。
例えば、猫は暗闇でも少ない光量を有効に利用して、私たち人間よりもよく物を見ることができます。しかし猫の視力はあまりよくなく、人間でいうと近眼のようなレベルです。この視力を補っているのがひげなので、ひげが無くなると昼だろうが夜だろうが、機敏に行動できなくなってしまうでしょう。
大切な感覚器官を失った猫は常に不安で緊張している状態が続くため、ストレスが溜まり、免疫力の低下を招き、それこそさまざまな病気にかかってしまうでしょう。それくらい、ひげは猫にとって大切で、なくてはならない感覚器官なのです。
まとめ
猫のひげは半年に1度程度のサイクルで生え変わります。落ちているひげを月に数本見付けても、それは心配するレベルのことではありません。
ただし、しょっちゅう抜けたひげが落ちているとか、1度に何本ものひげが落ちているような場合は、ストレスや免疫力を低下させる病気が隠れているかもしれません。
食欲や元気の有無など、他の症状も出ていないかどうかをよく確認するとともに、なるべく早めにかかりつけの動物病院で診てもらいましょう。
また、ひげそのものに神経が通っているわけではありませんがとても大切な感覚器官なので、猫のひげは絶対に切ってはいけません。
また、ひげは神経と連携しているため、生え変わり期ではないひげを抜くとかなり痛いはずです。小さなお子様がいたずらしないように、十分に注意してください。