猫の貧血
貧血とは、血液中のヘモグロビンが正常時よりも少なくなった状態のことを言います。ヘモグロビンとは、骨髄内の幹細胞から分化して血液中に放出された赤血球の中に含まれている色素で、肺から取り込まれた新鮮な酸素を全身の細胞に運ぶ重要な役割を担っています。
そのため貧血が進行すると、全身の細胞に新鮮な酸素が行き渡りません。。酸素が欠乏することで脳や筋肉、臓器などが正常に働けず、さらに重度な貧血に陥ると生命を脅かすことにもなりかねません。
貧血かどうかは、血液一般検査の赤血球数(RBC)、ヘモグロビン値(Hb)、ヘマトクリット値(PCV値)で分かります。猫の基準値は、RBCが750〜1050万個/μL、Hbが10〜15g/dL、PCVが30〜45%で、これらの基準値よりも低いと貧血です。
猫の赤血球の寿命は60〜70日程度で、寿命を迎えた赤血球は脾臓で壊されます。その分だけ、骨髄で新しい赤血球が作られます。このバランスが崩れて赤血球の数が減ってしまうと、貧血になるのです。
猫の貧血の症状
重度の貧血になると呼吸困難や昏睡状態になり、やがて死に至るという深刻な事態になります。しかし、初期の段階で気付くのは難しいことが多いです。
初期段階およびある程度進行した段階で見られる主な症状は下記の通りです。
- 疲れやすくあまり動かなくなる
- 食欲が低下する
- 結膜や歯茎が白っぽくなる
猫は普段から寝ている時間が長く食欲にムラのある子も多いため、初期症状だけでは貧血と結びつかないかもしれません。歯磨きの際に歯茎の色をチェックする習慣をつけておくと良いでしょう。違和感を見逃さずに、動物病院で健康チェックを受けることが大切です。
猫の貧血の種類と原因
貧血は、血液を作れなくなる「非再生性貧血」と、血液は作れるが失われる量の方が多くなる「再生性貧血」に分類できます。
さらに再生性貧血は、出血による「失血性貧血」と赤血球が寿命を全うする前に壊されてしまう「溶血性貧血」に分けられます。
非再生性貧血
血液を作る骨髄、赤血球が減ったことを感知して「血液を作れ」と指示を出すホルモンを分泌する腎臓に問題が生じた場合や、赤血球が成熟するために必要な栄養素が不足して血液の産生が阻害されてしまいます。
その主な原因は下記の通りです。
- 猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)や猫白血病ウイルス感染症(FeLV)による骨髄機能低下
- 骨髄疾患や抗がん剤の副反応による骨髄異常
- 慢性腎不全による腎機能低下
- 鉄、ビタミンB12,B6,C,E,葉酸の不足による赤血球の成熟障害 など
再生性貧血
<失血性貧血>
外傷や手術による傷口からの出血や、消化管の腫瘍・消化管内の寄生虫が原因で生じる出血などが原因になります。また野良猫(特に子猫)の場合は、大量に寄生したノミによる吸血が原因になることもあります。
<溶血性貧血>
赤血球を破壊する成分を含むネギ類や薬剤の誤食による中毒、赤血球を破壊するバベシアなどの寄生、免疫機能の異常により自分の赤血球を攻撃する免疫介在性溶血性貧血などが原因になります。猫の場合は重度の糖尿病(糖尿病性ケトアシドーシス)、甲状腺機能亢進症、リンパ腫が原因になることもあります。
猫の貧血の診断
猫の貧血の原因として隠れている可能性のある病気の種類は多岐にわたります。そのため、適切な治療を行うためにもしっかりと検査を行い、原因を見極める必要があります。
問診および触診
ご家族から愛猫の様子を聞き、目視と触診である程度疑われる病気を絞り込み、それらを確認するための検査の種類を精査します。
血液検査
3種類の血液検査で貧血の度合いや原因を調べます。まずは血液一般検査のRBC、Hb、PCVで貧血の有無や度合いを確認します。
塗抹検査により、網状赤血球の状態を確認します。網状赤血球とは、赤血球に成熟する前の若い赤血球で、有無や量により非再生性貧血か再生性貧血かを識別します。網状赤血球が正常値より下回る場合は新しい赤血球を作ることができない非再生性貧血と判断するケースがほとんどです。
クームステストで、赤血球膜上の抗赤血球抗体の有無を調べます。あれば、自己免疫により赤血球が破壊されているという指標になります。
FIV検査およびFeLV検査
FIVやFeLVに感染しているか否かを調べます。
画像検査
X線検査、超音波検査、CT検査などにより、腫瘍や内臓疾患の有無を確認します。
骨髄穿刺
全身麻酔下で骨髄に針をさして骨髄細胞を採取し、状態を調べます。ただし猫への負担が大きいため、実施可否については慎重な判断が必要となります。
猫の貧血の治療法
上記のような検査を経て解明した原因に対する治療を行います。重篤な場合は輸血をすることで、治療のための時間稼ぎをしなければならない場合もあります。
非再生性貧血の場合は原因となった病気の治療や不足している栄養素の補充を行い、失血性貧血の場合は出血部位を特定して止血し、溶血性貧血の場合は原因となった中毒や病気の治療を行います。
いずれにしろ症状の改善には時間がかかることが多く、原因によっては完治できないケースもあります。
まとめ
質の高い総合栄養食を食べている現代の猫は、鉄分不足で貧血を起こすケースは稀で、裏に病気が隠れているケースが増えています。また貧血の初期症状には気付きにくく、ご家族が気付いた時にはかなり進行しているということも少なくありません。
日頃から愛猫の様子をよく観察し、定期的な健康診断とあわせてわずかな異変にも早く気付けるように注意しましょう。また誤食対策や寄生虫予防、外に出さないことで、ある程度原因となるケガや病気を予防できます。元気なうちから予防にも配慮しましょう。