喫煙の健康影響
喫煙は、喫煙者自身や周囲の非喫煙者の健康にまで悪い影響を与えることが、科学的に証明されています。厚生労働省も、喫煙による健康への影響についてをホームページ上で公式に発表しています。
例えば厚生省研究班による1990〜97年の調査結果では、喫煙者のガンによる死亡の相対危険度は、非喫煙者に対して男性で1.5倍、女性で1.6倍です。ガンが発症する部位としては、男女共に、特に肺ガンの発症リスクが高いとされています。
ガンだけではなく、循環器病や虚血性心疾患、脳卒中の他、低出生体重児や早産といった胎児へのリスクも高めます。そして、周囲の非喫煙者にも影響を及ぼすのです。
では、飼い主さんの喫煙によって飼い猫へ与えてしまう健康リスクには、どのようなものがあるのでしょうか。
受動喫煙
具体的な飼い猫への健康リスクを見ていく前に、受動喫煙の種類について簡単に説明しておきます。
二次喫煙
喫煙者の健康リスクは、自分が肺に吸い込んだ煙(主流煙)によるものです。主流煙はフィルターを通った煙ですので、実は煙草の煙の中では最も有毒物質が少ない煙です。
一方、周囲の人や飼い猫が吸い込むタバコの先から出る煙(副流煙)は、フィルターを通っていません。そのため有毒物質の量が多いのです。例えば、副流煙に含まれるニコチンは主流煙の2.8〜19.6倍、タールは1.2〜10.1倍もあると、厚生労働省では公表しています。
人間よりも遥かに体の小さい猫の場合、二次喫煙により受ける健康リスクは、人間よりも深刻なものになりやすいということも覚えておいてください。
三次喫煙
受動喫煙と言うと二次喫煙のことを指すのが一般的ですが、三次喫煙は残留受動喫煙とも呼ばれており、実は飼い猫にとっては二次喫煙よりも深刻な、健康リスク要因であると考えられています。
喫煙者は指先や呼気、髪の毛、洋服などから強烈なタバコ臭がするため、すぐに分かります。これは、煙草の煙に含まれていた有毒物質が付着し、染み付いていることの証と言えます。これらの有毒物質は、床や壁、カーテンなどにも付着します。
これらの有毒物質を体内に摂り込んでしまうのが、三次喫煙です。換気扇の下で喫煙していても、有毒物質は重いため床に溜まります。体高の低い猫は、床に溜まった有毒物質を吸い込んだり体表に付着させてしまいます。また喫煙して帰宅した飼い主さんに撫でられただけでも、有毒物質が付着します。
猫はしょっちゅう毛繕いをするため、自分の体や飼い主さんについた有毒物質を三次喫煙する量が非常に多いのです。
飼い主の喫煙が飼い猫に与える健康リスク
1.悪性リンパ腫の発症
猫が受動喫煙や三次喫煙で受ける健康リスクの中でもっとも怖いのが、リンパ腫の発症リスクです。
非喫煙者だけの家庭で暮らしている猫と、喫煙者のいる家庭で暮らしている猫を比較した場合、喫煙者のいる家庭で暮らしている猫のリンパ腫の発症率は、非喫煙者だけの家庭の猫と比べて2.4倍になるという報告もあるほどです。
2.各種疾患の発症
喫煙による人間への健康リスクと同様に、猫への健康リスクもリンパ腫だけには留まりません。
咳・くしゃみといった比較的軽めの症状から喘息発作や気管支炎、肺炎といった重い症状までを含めた呼吸器系疾患を始めとして、心臓循環器系や皮膚系、またアレルギー性や目の炎症など、さまざまな疾患の発症リスクを高める可能性があります。
ただそれらへのたばこの影響はまだはっきりと獣医学では明らかになっていない部分もありますので参考程度にとどめておいてください。
3.ニコチン中毒
猫の生活環境の中に煙草があるという状況は、誤食によるニコチン中毒を引き起こすリスクも生み出します。ニコチンは水にも溶け出しますので、煙草そのものを口にするだけではなく、灰皿に注いだ水を口にしてしまうだけでも危険です。
ニコチン中毒は、嘔吐、下痢、大量の流涎、震えなどの他、歩けなくなる、けいれん発作を起こすといった重篤な症状を引き起こすこともあります。最悪の場合は、呼吸困難から死に至るといった場合もあります。
飼い猫への三次喫煙の予防策
もしかすると、飼い主さんは愛猫のために「換気扇の下でしか吸わない」「ベランダでしか吸わない」「家の中では吸わない」といったようなルールを決めているかもしれません。
しかし、三次喫煙のプロセスを思い出してください。たとえ家の中では吸わなかったとしても、外で吸っている場合は三次喫煙の予防にはなりません。また、飼い主さんご自身が吸っていなくても、副流煙を浴びるような環境にいた場合には、それだけでも愛猫に三次喫煙をさせてしまうことになるのです。
もしも愛猫への三次喫煙を完全に予防したいとお考えになるのであれば、禁煙してください。そして、禁煙後も副流煙を浴びてしまうような場所に行かざるを得なかった場合は、帰宅後すぐに手を洗い、洋服を着替え、できればシャワー後に愛猫とスキンシップを図るようにしましょう。
まとめ
リンパ腫は、全身のいろいろな部位で発生しうる腫瘍です。どの部位に発生したのかにより、症状や治療方法が異なります。外科的に切除して完治させられる場合もありますが、それはごく限られた場合の話で、リンパ腫の代表的な治療方法としては抗ガン剤を使用した化学療法が主となることが多いでしょう。
抗ガン剤による治療は副作用もありますし、猫にとっても辛い治療になることが多いでしょう。愛猫にこのような苦しい思いをさせないためにも、愛煙家の飼い主さんには、ぜひ禁煙をおすすめします。愛猫の発症後に後悔しても、遅いのです。