1.人の睡眠とよく似ている猫の睡眠
人の脳と猫の脳は、9割近くも同じ構造をしているといわれています。
その特徴は、大脳皮質が発達しているということです。大脳皮質は、脳の中でも記憶や感情をコントロールしている部分です。
猫はあまり感情を顔に表さないため、大脳皮質が発達していて感情が豊かだといわれても、ピンとこない方もおられるかもしれません。
しかし、猫は顔には出さなくても、耳、ヒゲ、瞳、しっぽや被毛など、全身を使って感情を表しているのです。
このように脳の構造がよく似ている人と猫では、眠りの構造もよく似ている事が分かってきています。
2.眠りの構造
高等動物の眠りには「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類があり、それを周期的に繰り返しています。
「レム睡眠」の特徴は、瞳が急速にキョロキョロと動くという点です。瞳が動かない睡眠状態は「ノンレム睡眠」といいます。
ノンレム睡眠にはいくつかの段階があり、目を閉じて覚醒している状態、ウトウトしている状態、浅い眠りの状態、深い眠りの状態があることが知られています。
人のレム睡眠は、約90分の周期で出現し、継続的に6〜8時間程度眠るのが一般的です。一晩の睡眠時間の中に占めるレム睡眠の割合は、2割前後です。
猫のレム睡眠は30〜40分程度の周期で出現します。
ノンレム睡眠とレム睡眠を数回繰り返して1回の睡眠時間は長くても2時間程度。その内、レム睡眠の時間は20分程度です。
この睡眠を、猫は1日のうちに複数回繰り返し、トータルでは14時間程度眠ります。
このように、人と猫の眠りは基本的な構造がよく似ていているのです。
3.レム睡眠時の生理現象
人の睡眠の研究により、夢はレム睡眠時によく見られていることが分かりました。
寝ている猫を途中で起こし、夢を見ていたかどうかを尋ねることができないため、猫も同じようにレム睡眠時に夢を見るのかどうかは分かっていません。
しかし、猫も同じようにレム睡眠時に夢を見ていると考えられています。それは、1979年に、フランスのリヨン大学で行われた実験から分かりました。
レム睡眠時の猫は全身の筋肉が弛緩しぐったりした状態になりますが、脳は活動時とあまり変わらない状態であることが分かりました。
逆に、ノンレム睡眠時の脳は休止状態ですが、全身の筋肉にはやや制御が効いており、伏せたような状態で行儀よく眠り、途中で起こされてもすぐに活動できる状態だということが分かりました。
そこで研究チームは猫の脳幹の一部を破壊して、レム睡眠に脳だけではなく全身の筋肉も起きている状態を作り出したのです。
その結果、レム睡眠時になると、猫はまるで起きているときと同じように食べたり獲物を狙ったり、逃げたり何かを威嚇したりといった行動を取ったのです。
それらの行動は、全て見えない対象に向けられた行動でした。まるで、夢遊病患者のように見えたのではないかと思われます。
このことから、レム睡眠時に夢をみることがあり、その際に身体が勝手に動かないように全身の筋肉が弛緩した状態になるのだろう、というメカニズムが解明されたのでした。
4.猫が見ている夢の内容
この研究チームは、さらに人の見る夢と猫の見る夢は、少し性質が異なるということも突き止めました。
人間は、昼間経験したことや得た情報を整理する過程や、寝ている時のコンディションが基となって夢を見るといわれています。
しかし猫が見る夢は、遺伝子に刷り込まれた狩猟本能に関する情報を、夢の中で繰り返しシミュレーションしているのだという結果になったのです。
それは、前述のレム睡眠中の猫の行動が、性別や性格、また睡眠時の状況(空腹か否か等)に関わらず、どの猫も一定のパターンの行動を繰り返していたからです。
このことから猫が見る夢は狩りの夢で、夢の中で狩りをシミュレーションすることで、狩猟本能をいつでも発揮できるようにしているのだと考えられるようになりました。
もちろん、猫も人と同じように大脳皮質が発達していますので、狩りの夢だけではなく、自分が体験した記憶を整理するための夢も見ていると思われます。
猫は自分が体験した、恐怖や不安を感じたようなマイナスの記憶については、長期間覚えていることが分かっていますので、時にはそういった夢も見ているのでしょう。
しかしそう考えると、猫は睡眠中であっても狩りをしたり恐怖体験を繰り返したりと、とても落ち着いて眠ってはいられない状態のようです。
まとめ
レム睡眠中なら必ず夢を見ている、という証拠はありません。
しかし、ノンレム睡眠中は外敵に襲われてもすぐに逃げ出せるように身体がスタンバイ状態であるにも関わらず、レム睡眠中だけは身体が完全に休息状態になることを考えると、やはり猫もレム睡眠中に夢を見ているのだろうと思えてきます。
しかも、その夢は狩りのトレーニングが多いようです。
身体が深い眠りに陥っているレム睡眠中は、愛猫を起こさずに、しっかりと最後まで狩りのトレーニングを積ませてあげられるようにそっとしておいてあげましょう。