1.記憶の仕組み
思考は、感覚器官で始まり記憶で終わるといわれています。
感覚器官によって拾い上げられた感覚情報を脳が受け取って覚え(記銘)、覚えた情報を脳内に保管し(保持)、後日その保管された情報を呼び出します(想起)。
この一連の流れが「記憶」です。
また、記憶は大きく分けると、以下の3つに分類されます。
- 感覚器官から送られてきた情報を一瞬覚えておく「感覚記憶」
- 一時的に数個の情報を保管しておく「短期記憶」
- 長期的に大量の情報を保管しておく「長期記憶」
記憶容量の差はありますが、こういった記憶の仕組みや種類は、人間にも猫にも共通していると考えられています。
人間以上に情報を保管しておく容量の少ない猫は、人間以上に記憶に残せる情報量が限られると考えられています。
そのため、感情に変化を起こすきっかけとなるもの、中でも特に「嫌な思い」をしたことが優先的に記憶に残されると考えられています。
これは、厳しい生存競争を生き抜いていくためのリスク回避として、当然の戦略だといえるでしょう。
いずれにしても、「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」と「感情」が、猫の行動指針となるわけです。
2.猫にも思い出がある
犬と比べるとトレーニングも難しく、感情もなかなか表に出さない猫の実験はなかなか難しいとされています。
しかし最近は日本も含めて、各国の動物学者たちが猫の行動学や心理学の研究に取り組むようになってきて、さまざまなことが解明されつつあります。
その中の一つに、2016年に京都大学の研究チームが行った実験があります。
私達人間の「思い出」のことを、心理学では「エピソード記憶」と呼びます。そのエピソード記憶が猫にもあるかどうかを調べた結果、「ある」という結論が出ました。
エピソード記憶についてもう少し詳しく説明すると、長期的に保管される、自分が経験した出来事に関する記憶のことを指します。
出来事なので「いつ、どこで、なにが」という情報が揃っている記憶です。
ただし、猫の場合は実験中に「いつ」を検証することができません。
そのため、少なくとも「どこで何があったのか」については記憶しているという結果になりました。
3.猫は思い出を振り返るか
猫に思い出(エピソード記憶)があることが分かりました。
では、猫はその思い出を振り返ることがあるのでしょうか。
これについては、客観的に検証するのが難しく、実験結果が出ているわけではないようです。
しかし、京都大学の研究チームは、BBCの取材に対してその可能性を否定はしていません。
つまり、猫が独りで留守番をしている時に、「昨夜の飼い主さんとの狩り遊びは興奮したなぁ〜」などと思い出しているかもしれないのです。
また、エピソード記憶は未来への想像力とも関連しているといわれています。
もしかしたら、留守番をしながら「昨日のおやつ、美味しかったな。今日も飼い主さんが帰ってきたら、またくれないかなぁ。」などと期待しているかもしれないのです。
4.猫も過去の経験から学習している
猫がエピソード記憶を有意義に使っていると分かっているのは、「学習」です。
2015年にアメリカの研究者が行った、「猫は人の感情を区別できるか」という研究では面白い結果が出ています。
飼い主さんが楽しげな表情を浮かべている時には、猫自身もポジティブな行動を取りながら飼い主さんに接近していくことが多かったのに対して、知らない人が楽しげな表情や怒りの表情を浮かべていても、猫の行動には何の変化も見られなかったのです。
これは、飼い主さんの表情が猫自身のエピソード記憶と結びついて「飼い主さんがこの表情を浮かべている時には良いことがある」または「嫌なことがある」と思い出すから起きた行動だというわけです。
知らない人の表情に関する思い出はないため、猫の行動には何の変化も見られなかったのです。
まとめ
猫の行動を決めるのは、猫の思考です。猫の思考は、感覚器官で始まり記憶で終わるといわれています。
猫の記憶の仕組みや特性を知ることで、猫のしつけができるといわれています。
「(飼い主さんが)猫にして欲しいと思っていることをすると良いことが起きる」と「して欲しくないことすると嫌なことが起きる」を繰り返し体験させることで、学習してもらうのです。
基本は、「良いこと」です。愛猫が構って欲しくて悪戯をするといったような場合には、「嫌なこと」として「無視」をしてください。
構って欲しかったのに無視をされたことで、「イタズラをしても無意味だ」と学習してもらうわけです。
猫と一緒にお互いが心地よく過ごせるように、研究者たちの研究成果を上手に利用していきましょう。