人獣共通感染症って何?
「人獣共通感染症(ズーノーシス)」とは、人と人以外の脊椎動物の間で感染する病気のことです。1975年に世界保健機関(WHO)によって定義されました。
人に感染する病原体は1,709種ありますが、その内の約半数が人獣共通感染症です。
また、近年発見されている今まで知られていなかった新興感染症の内、7割以上が人獣共通感染症です。
環境の変化や文明の進化に従い生態系のバランスが崩れてきている現在、人の健康と動物の健康、そして生態系全体の健康は表裏一体であるという、「One Health」という考え方が提唱されています。
このような流れの中、私達飼い主には、愛猫との間の人獣共通感染症のことを知り、事前に予防するという義務が課せられているのです。
そこで今回は、猫と人の間で感染する共通感染症をご紹介します。
猫と人の間でうつる主な人獣共通感染症
1.猫ひっかき病
猫ひっかき病(バルトネラ症)は、名前の通り猫に引っ掻かれたり、かまれたりすることで感染する病気です。
病原菌は、猫の赤血球中に存在するバルトネラ菌で、実は接触のみでの発症も4割近くあると言われています。
この菌はノミが媒介しますので、外に出している猫やノミが寄生している猫はリスクが高いと考えられます。
猫自身はほとんど無症状ですが、人が感染すると数週間後に発症し、傷口周辺に丘疹、膿、水疱ができ、しばらく経ってから発熱やリンパ節の腫れなどが現れます。
重症化すると脳炎を併発して、けいれんや意識障害などの神経症状が現れることもあります。
特に小さなお子さんや高齢者などの、免疫力が低下している方には注意が必要です。
2.パスツレラ症
病原菌のパスツレラ菌は、ほとんどの猫の口の中に存在している、ごくありふれた菌です。やはり、猫にかまれたり引っ掻かれたりすることで感染します。
口移しで食事を与えたり、口でキスをしたりといった過度なスキンシップでも感染します。
一般的に猫は無症状ですが、まれに呼吸器疾患が見られたり、ケンカの傷が化膿することがあります。
人が感染すると、傷の部分が痛み、発赤、腫脹、化膿が現れます。重症化すると敗血症や骨髄炎になることもあります。
3.トキソプラズマ症
原因となるのはトキソプラズマ原虫です。大部分は不顕性感染といって、症状が出ません。
日本人では成人の20〜30%が既にトキソプラズマに対する抗体を持っていることが知られています。
ただし妊娠初期の女性が初めて感染すると、胎児にも感染してしまい、流産や死産などの原因になるので要注意です。
4.カプノサイトファーガ感染症
原因となるのは、猫の口の中に常在しているカプノサイトファーガ・カニモルサスという細菌です。
猫にかまれたり引っ掻かれて感染します。発症は稀だと考えられていますが、基礎疾患があったり免疫力が低下したりしていると、重症化して死に至ることもあると報告されています。
猫と触れ合った後は手洗いやうがいを行い、口同士でのキスなどの過度なスキンシップは避けましょう。
5.コリネバクテリウム・ウルセランス感染症
原因となるのは、コリネバクテリウム・ウルセランスという、ジフテリア菌とほぼ同じ毒素を産生する細菌です。
猫は風邪のような症状や、皮膚炎、粘膜潰瘍などを起こします。人が感染した場合も、初期は風邪のような症状で、喉の痛みや咳などが現れます。
重症化すると呼吸困難で死に至る場合もあります。人の場合は、三種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)の予防接種が有効です。
まとめ
今回ご紹介した病気はほんの一例です。他にも猫と人の間で共通する感染症はたくさんありますので、口同士でキスをする、口の周りを舐めさせるなどの過度なスキンシップは避け、触れ合った後は必ず手を洗うといった衛生管理を心がけましょう。
愛猫の日々のお手入れをしっかりと行い、定期的に健康診断を受けさせるなど、愛猫の健康管理をしっかりと行うとともに、飼い主さんご自身の免疫力も低下させないよう、ご自身の健康管理にも注意をしてください。
愛猫の健康を維持するためには、飼い主さんご自身も健康でいることが大切です。万が一具合が悪くなった場合は、すぐに病院で診てもらい、動物と一緒に暮らしていることを伝えるようにしましょう。
また病院で処方されたお薬は、猫もご自身も、獣医師や医師の指示に従ってきちんと飲みきりましょう。勝手な判断で止めることで、その薬に耐性を持った新しい病原菌が生まれてしまう原因になり、その後の治療が困難になります。