猫の脳の構造
脊椎動物の脳は、大まかに言うと大脳、小脳、脳幹に分けられ、大脳は大脳辺縁系と大脳新皮質の二層になっています。
脳幹は、生命の維持に必要な機能を、小脳は全身の筋肉運動や筋緊張の調節、姿勢や運動の制御を担っています。
大脳辺縁系は感情を司り本能行動に関わる部位で、大脳新皮質は思考全般を司る部位です。
人間の脳は大脳新皮質の部分がとても発達していますが猫の場合はうっすらとしかなく、そのかわりに大脳辺縁系がとても発達しています。
動物学者によると、この脳の構造や習性から考えて「猫には、悲しいという気持ちが殆ど無いだろう」といわれています。
今回は、その理由について探ってみたいと思います。
脳の働き
脳幹
無意識に行われる呼吸や心臓、内臓、体温、ホルモン等の調節を行い、生きていくために必須の機能を担っています。
大脳辺縁系
大脳辺縁系は大脳の内面にあり、大脳新皮質に覆われた状態になっています。大脳辺縁系の中心は海馬と扁桃核で、情動に対する中枢的な役割を担っています。
また食物摂取、攻撃、逃避などの生き残るためや種族を保存するための本能行動に関与し、海馬は記憶を司っています。
大脳新皮質
感覚神経から送られてきた情報を処理して運動を指示する他、思考、創造、意図、情操といった高度な精神活動に関わっています。
猫の生態/習性
猫と犬の祖先をさかのぼっていくと、「ミアキス」という動物にたどりつきます。
ミアキスとは、約6500万年〜4800万年前に生息していた小型の捕食動物で、現在の食肉目の祖先です。
犬と猫の祖先はミアキスから分化し、犬の祖先は平原に出てグループで狩りを行い、猫の祖先は森へ行き単独で狩りを行うようになりました。
猫は家畜化されたにもかかわらず、ほぼ起源種であるリビアヤマネコから姿形や習性を大きく変えることなく、現在のイエネコになりました。
そのため、猫は常に自分の身を自分で守り、何でも自主的に判断し、常に縄張りを監視しながら生き抜いてきました。
猫にあるといわれている感情
大脳辺縁系が発達している猫にとって、何よりも優先される行動が「本能行動」です。
そのため、本能行動に結びつく「怒り、獲物を追う衝動、恐怖、好奇心、関心、期待」といった感情を猫が持っているであろうことが容易に想定できます。
また飼い主から食事が供給され、安全な環境で暮らせるイエネコは、野生猫の気分、飼い猫の気分、子猫の気分、親猫の気分をその時々の状況で瞬時に切り替えながら生活していると考えられています。
猫が「悲しみ」を感じないと言われている根拠
人の感情を端的に表している言葉が「喜怒哀楽」です。この喜怒哀楽から前述の猫にあるといわれている感情を除くと、悲しみが残ります。なぜ、猫は悲しみを感じないと考えられるのでしょうか。
「悲しい」という言葉を辞書で調べると「心が痛んで泣けてくるような気持ち」とあります。
心理学的には、起こっている事態に対して「自らの無力感を感じるから泣く」のだといわれています。
「心を痛める」とか「無力であると感じる」のは、意識的な感情であり、大脳新皮質が少なく思考力が弱い猫は「悲しみ」を感じないだろう、というのが動物学者の見解のようです。
また、野生の厳しい環境の中で悲しんでいたら生き残れないという猫の生態や習性面からも、「悲しみ」は感じないと考えられているようです。
まとめ
科学的に考えると、猫は「悲しい」と感じることがなく、つまり飼い主が悲しんで涙を流している時にも共感することはないと考える方が理にかなっているといえそうです。
しかし自分の縄張りを常に警戒し、飼い主のことも常に観察している猫にとって、飼い主の悲しみに共感はしなくても、悲しんでいる様子を「異変」として察知することができます。
その不安から「猫が飼い主に寄り添う」という行動が生まれるようです。
飼い主の異変を不安に感じるということは、猫に愛されているという証です。
猫の全てを擬人化するのは良くないことですが、猫の習性を正しく理解した上で、猫の愛情を素直に受け止め、愛猫と共にストレスフリーな生活を送れるようにしたいものです。