猫の血液型
猫の血液型はA型、B型、AB型の3種類です。血液型の遺伝子もA型とB型とAB型の3種類で、優性関係がA>AB>Bとなっており、両親から受け継ぐ血液型の組合せは下記のようになります。
A型:A/A、A/B、A/AB
B型:B/B
AB型:AB/AB、AB/B
※ただし、A/ABの組み合わせでAB型となる場合も稀にあります。猫の血液型は多くの因子が絡み合っている可能性が示唆されており、完全解明されていないため、必ずしもセオリー通りになるわけではないようです。
獣医療における輸血のシーン
血液型と聞くと、真っ先に思い浮かぶのが輸血です。獣医療の現場で輸血が必要になるシーンには、下記があります。
- 白血病や腎臓病などによる貧血
- 怪我や手術、腫瘍の破裂などによる大量出血
- 腫瘍や重度の炎症などによる血小板減少
また筆者の愛猫は、抗がん剤の副作用で骨髄の増血機能が阻害され、輸血を受けました。このように、思いがけないタイミングで輸血が必要になることがあります。
血液の拒絶反応の仕組み
輸血の際に気をつけなければならないのが、拒絶反応です。
猫の場合、それぞれの血液型が持っている抗原と抗体は下記のようになっています。
- A型
- 赤血球にA抗原が、血漿にB抗体がある
- B型
- 赤血球にB抗原が、血漿にA抗体がある
- AB型
- 赤血球にA抗原とB抗原があり、抗体はない
血漿中の抗体が反応する抗原を持つ血液の輸血により拒絶反応が起きます。猫の場合、輸血の可否は下記の通りです。
- <輸血可能な組合せ>
- 受血猫:供血猫=A:A、B:B、AB:AB(緊急を要する、かつ交差適合試験で可能と判断できればAB:A、AB:B)
- <輸血不可能な組合せ>
- 受血猫:供血猫=A:B、B:A、A:AB、B:AB
特にB型にあるA抗体は非常に強力なため、B型へのA型の輸血は重症の拒絶反応を招き命の危険を伴います。
血液型検査は健康な時に
日本の場合、約8〜9割の猫がA型、約1〜2割がB型でAB型は非常に稀です。(※近年は日本にも血液型割合に特徴がある純血猫が増えているため、これらの割合はあくまで推定値です。)
輸血が必要な状態での検査では正しく判定できない場合があるため、健康な時から愛猫の血液型を知っておく方が安心だと言えるでしょう。
日本の場合は犬猫用の血液バンクがなく、供血動物の飼育や供血動物のボランティア募集等、各々の動物病院が工夫を凝らして血液を確保しています。愛猫の血液型が分かれば供血猫として協力でき、多頭飼いの場合も家族内で迅速に助け合えます。
また拒絶反応は、輸血以外でも起こります。新生児溶血です。
B型の母猫から生まれたA型の子猫が母猫の初乳を飲むと、突然死することがあります。これを防ぐためには、A型の子が生まれないペアリングを行う、B型のメス猫は繁殖させないといった対策が必要です。
猫の血液型の検査
猫の血液型検査は簡易検査キットで行えます。血液検査キットの備えがあるか、または取り寄せが可能かなどを病院に問い合わせた上で、健康診断や避妊去勢手術の時など採血が必要な検査の際に、一緒にお願いすると良いでしょう。
採血をし、まず1滴を使って自身の血液で凝集反応が出ない(自己免疫疾患ではない)ことを確認します。次に、A抗体が塗ってある「A型」と書かれた区画とB抗体が塗ってある「B型」と書かれた区画に1滴ずつの血液を垂らします。
A型の場合は「A型」区画だけで、B型の場合は「B型」区画だけで、AB型の場合は両方の区画で凝集反応が起こります。
なお輸血をする場合、必ず輸血前に受血猫と供血猫の血液でクロスマッチテスト(交差適合試験)を行います。稀に可能な組み合わせの場合でも拒絶反応が出る場合があるためです。
まとめ
今日のねこちゃんより:チロル♂ / 1歳 / 黒猫 / 5kg
輸血用の血液は長期保管ができません。また、供血してもらう猫には、採血の際に鎮静や麻酔などが必要になることもあります。そのため犬猫用の血液バンクのない日本では、必要なタイミングで必要な血液を必要量確保できるとは限りません。
飼い主側も、そのことは理解しておく必要があるでしょう。