室内猫は要注意?猫の『パンドラ症候群』とは?

室内猫は要注意?猫の『パンドラ症候群』とは?

アメリカでは猫の死因のトップとしてパンドラ症候群が取り上げられ、問題となっています。日本とアメリカでは事情が異なるとは言え、日本でも予防に値する病気であると言えるでしょう。パンドラ症候群とはどういうものなのか、予防するためにはどうすれば良いのかについて整理しました。

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記事の監修

山口大学農学部獣医学科卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、ふくふく動物病院開業。得意分野は皮膚病です。飼い主さまとペットの笑顔につながる診療を心がけています。

アメリカで問題となっているパンドラ症候群

股間を舐める猫

ギリシャ神話のパンドラの箱をご存知でしょうか。ゼウスがパンドラという女性に持たせた、あらゆる災が詰まった箱です。彼女が蓋を開けたら次々と災が飛び出したことから、さまざまな災いを引き起こす原因となるものの例えに使われるようになりました。

数年前から、アメリカでは室内飼いの猫に発生するパンドラ症候群が問題になっています。

パンドラ症候群とは猫の特発性膀胱炎のことです。致命的な病気ではありませんが、胃腸、皮膚、神経機能等次々と新しい病気が見つかることが多く、猫達の粗相に耐えられず治らない病気に絶望したアメリカの多くの飼い主が安楽死を選び、死因のトップに上がったのです。

安楽死に対する考え方の違いから、日本で死因のトップになることはないでしょうが、日本でもパンドラ症候群の予防は必要なことだと言えるでしょう。

特発性膀胱炎と膀胱炎の違い

トイレの中の猫

頻尿や排尿時の痛みなどを伴う膀胱の炎症が膀胱炎です。結石や細菌感染といった原因であることが多いのですが、原因不明の場合は特発性膀胱炎と診断されます。原因が分からない膀胱炎がパンドラ症候群なのです。

アメリカのオハイオ州立大学で、この病気の解決策を究明するためにパンドラ症候群の猫たちを預かりました。すると半年程で、何も治療していないのに完治してしまったのです。そこで出た結論は、パンドラ症候群の原因は室内環境によるストレスだということでした。

パンドラの箱を開けないためにはどうすれば良いのか

猫にとって重要な不変性と予測可能性

安心している猫

オハイオ州立大学が猫達を預かった環境でやっていたことは下記の通りです。

  • 幅1メートルのケージに1匹ずつ入れた
  • 毎日同じ人が同じ時間に食事を与えた
  • おもちゃをたくさん用意した行動スペースを順番に使わせた

このことから、オハイオ州立大学の獣医師は、猫にとって重要なのは「不変性と予測可能性である」と結論づけました。

また別の国の研究では、非凝固型の猫砂を使っている猫は2.62倍、多頭飼育の猫は3.16倍、高い場所がない猫は4.64倍、そうではない猫よりもパンドラ症候群の発症リスクが高まるという報告をしています。

MEMOセラピー

遊んでいる猫

前述の研究結果から、パンドラ症候群の発症には住環境が猫に与えるストレスが大きく関与していることがわかります。

飼育動物の幸福な暮らしを実現する具体的方策のことを環境エンリッチメントと言い、近年は動物園での取り組みがよく話題に上がりますが、飼い猫に対してもこの考え方は有効です。

最近では、特発性膀胱炎の改善を目的としたストレス管理を「MEMOセラピー」と呼ぶこともあります。Multimodal Environmental Modification、つまり「多面的な環境調整」という意味です。

パンドラの箱を開けない具対策

高所で遊ぶ猫

前述の環境エンリッチメントの基本となっているのは動物福祉(アニマルウェルフェア)の考え方です。基本として謳われている5つの自由は、飼い猫へのパンドラの箱を開けないための基本事項です。

そして、先にご紹介した研究報告から考えると、5つの自由に加えて下記の観点も必要であると言えるでしょう。

  • 猫が寛げる十分なスペースの確保
  • できるだけ他の動物との接触を減らす
  • 決まった人による規則正しい給餌
  • 十分な遊び
  • 上下に移動できるスペース
  • 凝固型猫砂の使用

まとめ

熟睡する猫

猫にとって安全で健康的な生活を保証するためにと推奨されている室内飼いですが、猫の習性を正しく理解しないとストレスを与えてしまいます。

猫達の本来の習性を正しく理解しできる限り快適な環境を整えることで、安全で健康的に暮らせる室内飼いの猫達から、パンドラ症候群で苦しむ猫を出さないようにしたいものです。

【獣医師のコメント】

特発性膀胱炎(パンドラ症候群)は、原因がよくわからない膀胱炎です。
原因として考えられているのは、「肥満」「ドライフード」「飲水量不足」「ストレス」「多頭飼い」「猫砂の形状」「高い場所がない」などです。

環境の改善や食事内容の見直しなど、様々な方面から治療を行う必要があります。しかし繰り返すことも多く、良くなってもフードを継続するなど治療は継続した方が良いでしょう。

獣医師:平松育子

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