愛猫を失ってつらい…乗り越える方法は?

愛猫を失ってつらい…乗り越える方法は?

ペットロスは、生き物と暮らす人にとっては誰にでも起こる可能性があるものです。重要なのは、その悲しみとどう向き合うかです。ここでは、ペットロスとその立ち直る過程についてご紹介いたします。

時代の流れとともに変わる猫との関係性

猫と顔を合わせる女性

かつての猫は、我々の生活を支えるワーキングキャットとして、農作物をネズミや害虫から守る役割を果たしていました。よって当時の猫は、「育てる」というよりも「飼う」という認識が主流でした。そして時が経ち、猫は「ともに生きる大切な存在」へと変化します。

今や家族の一員として受け入れられ、我々の心を支える存在になっています。2017年には、ともに暮らす動物として名高い人気を誇っていた犬を追い越し、猫がトップに躍り出ました。2018年の猫の平均飼育頭数は1.77匹で、同年の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの数)1.42を上回っています。少子化は深刻な問題ですが、本題から逸脱してしまうため、ここでは敢えてその背景には触れずに進めさせていただきます。現代人は猫に対して無意識のうちに次のような関係性を求めているのかもしれません。

  • 最良のパートナー
  • 子ども
  • 親友など

単身で暮らす人にとって猫は、飼い主さんの帰りを待っていてくれる存在です。そして、気がつけば身の上話をしているということもあるでしょう。ふと寂しさを感じる瞬間のある一人暮らしも、猫がいるだけで心境に変化があるはずです。猫は時に良きパートナーや、親友のような存在になることがあります。そしてお子様がいないご家庭では我が子のような存在となり、お子様がいるご家庭ではその子のきょうだいのような存在にもなることがあります。

避けられない現実

このように現代では、猫が担う役割が大きく、より親密な関係性を知らず知らずのうちに築いているのです。しかし、猫と人間の関係性に変化が見られたとしても、変えることのできない現実があります。それは、「愛猫のほうが先に旅立ってしまう」ということです。医学が発展し、食事が改良されている現代においても寿命は人間よりも遥かに短いという壁は越えることができません。かけがえのない存在と別れることは、言葉では言い表せないほど辛い出来事になります。

猫との関係が、ワーキングキャットとしての関わりよりも心の繋がりが強くなった現代では、愛猫の死をきっかけに心身のバランスが崩れてしまう人が増えています。この状態を「ペットロス」といいます。

ペットロスとは?

天使猫

ペットロス症候群(以下ペットロス)とは、ともに暮らしてきた動物を失うことで起こる不安定な状態を指します。不安定な状態というと、複雑に感じてしまうかもしれません。何か特別な病気になってしまったのではないかと不安に思うでしょう。ペットロスは特別な病ではありません。先に述べたように、猫という存在がより身近で、親密な関係であるからこそ起こる自然な反応なのです。

自分にとって大切な人が亡くなってしまったとき、悲しみに打ちひしがれるのは誰もが想像できるでしょう。子どもや親友のように大切に思う愛猫の死も、人の死と同じように悲しいのは当たり前なのです。だからペットロスになってしまったとしても、それ自体はごく自然なことであり恥ずべきことではないのです。ここでは、ペットロスになると、心や身体にどのような変化が生じ、どのような経過を辿っていくのかについてご紹介いたします。

自然なペットロス

悲しむ女性

ペットロスになってしまった人に必要なものは時間です。そう簡単なことではないですが、悲しみは時の流れによって次第に落ち着いていきます。つまりペットロスも、永遠に続くものではなく、通常であれば自然治癒が可能です。これを、ここでは「自然なペットロス」と表現したいと思います。これは、誰にでも起こる可能性があるほど自然な現象であるということを分かりやすくするためです。愛猫との悲しい別れを経験すると、精神的には次のような変化が起こります。

現れるおもな症状

  • 涙が止まらない
  • 無気力
  • 集中力や思考力が低下する
  • 自責の念に駆られる
  • 常に愛猫のことでいっぱいになるなど

最初はただただ悲しくて、涙が枯れ果てるのではないかと思うほど涙が止まらなくなります。愛猫との永遠の別れ、部屋中に転がっている愛猫との思い出、そのどれもが涙を誘うものになるでしょう。そして次第に、悲しみとは異なる感情が次から次へと押し寄せてきます。自責の念や、怒り、後悔などが複雑に絡んできます。やがて気力がなくなり、何かを考えることや集中することが困難になります。常に愛猫のことが頭から離れず、気持ちを切り替えることが難しい状態になります。心が疲弊すると、体調にも変化が見られるようになります。

おもに現れる体調の変化

  • 食欲減退もしくは過食になる
  • 眠れない
  • 呼吸が荒くなるなど

人は大きなストレスがかかると、食欲がなくなるイメージがあるでしょう。しかし、中には逆に食べずにはいられないほど食欲が暴走してしまうことがあるのです。愛猫を失った悲しみから、過食になってしまった場合、周囲からは誤解されてしまうかもしれません。もし、愛猫の死をきっかけに以前よりもよく食べるようになったという印象を受ける人がいる場合は、ストレスによる過食であると理解してあげてください。また、変化が見られるのは食欲だけではありません。

寝つけない、睡眠中何度も目が覚めてしまうなどの睡眠障害が起こることもあります。眠りたいのに眠れない状況下で、先程の複雑な感情がループします。そして、ますます睡眠の質を低下させるという悪循環に陥ります。この悪循環は更に気力や思考力を低下させていきます。これにより、冷静な判断や適切な行動を取ることが困難になり、日常生活に支障を来たします。また、愛猫のことを考えてしまうと呼吸が早く、荒くなる感覚に陥ることもあります。心と体は密接に繋がっているため、精神的な症状と身体的な症状は別々に出現するのではありません。両方がリンクし、影響を及ぼし合うのです。

これらの症状が2週間程度続き、その後徐々に改善されていくものは自然なペットロスになります。どれもが非日常的な経験で不安になるでしょう。しかし2週間、長くても1ヶ月程度であれば一時的なものとして心配し過ぎることはありません。この段階では、日常生活において多少の支障はあっても、概ね社会生活を維持することができます。

治療が必要なペットロス

深い悲しみを抱えた女性

愛猫を失ってから1ヶ月以上、更には数年経っても一向に悲しみが癒えない場合は、一人で解決することが困難な状況であるといえます。この状態になると、自然なペットロスでは見られなかった精神症状が出現します。

  • 悪夢を見る
  • フラッシュバックが度々起こる
  • うつ病になる
  • 絶望感でいっぱいになる
  • 自傷行為を繰り返すなど

ペットロスが悪化すると、辛い出来事の記憶が強烈に思い出されるフラッシュバックや、その記憶が悪夢となって襲いかかります。その度にまた自責の念に駆られてしまいます。そして、パニック障害や心身症(精神的なストレスが引き金となる身体の病)を引き起こすことがあります。また、うつ病を発症し、自傷行為を繰り返したり、命を落としてしまうことがあります。ここまで重症化してしまうと、今まで通りの生活を維持することができなくなってしまいます。

ペットロスの相談はどこに?

著しく日常生活に支障を来たしている場合や、自傷行為を繰り返してしまうほどのペットロスに陥ってしまった場合、どのような機関に相談すれば良いのでしょうか。精神的な症状が重く、死に直結するような行動が見られる場合は精神科を受診しましょう。身体的な症状が目立ち、通常の内科的治療では改善が見られない場合は心療内科を受診して、引き金となった原因について打ち明けてみましょう。ここで、場合によっては精神科を紹介されることもあります。その場合は、精神科で治療をすることをおすすめします。

中でも、ペットロスについて紹介している精神科や、ストレスに関する分野を得意とする精神科を選ぶと理解が得られるでしょう。多くの場合、病院名は「〇〇クリニック」となっています。これは、精神科という重いイメージから、よりカジュアルな印象を与えるための効果です。猫を亡くした悲しみが原因で通院することに抵抗がある方もいらっしゃることでしょう。でも、ペットロスは自然と起こる現象です。辛く悲しい日々から立ち直れずにいるのであれば、一人で悩まずに専門家の力を借りましょう。

ここで、一つ気をつけてほしいことがあります。「ペットロス(スペース)相談」とインターネットで検索をかけると、クリニックだけではなく霊能者関連のサイト(いわゆる宗教絡み)が並んでいます。冷静さを失っている状態でこれらを目にすると、精神科による治療よりも魅力的に感じてしまうことがあります。それでも前に進むには、まず何よりも心と体のバランスを整えることが先決であると心得ておいてください。そして、もし可能であれば、クリニックを探す作業を信頼できる方と一緒に行なうようにしてください。

ペットロスになった人への対応

悲しむ人を支える人

ペットロスから立ち直るためには、専門家の力だけでは不十分です。重要なのは、周囲のサポートです。人間は、誰もが健康な面と弱っている面を持っています。ペットロスとは、この弱っている面がより滲み出ている状態なのです。しかし、だからといって健康的な部分が全て失われてしまったのではありません。どこかに健康的な部分を引き出す糸口があるはずなのです。この糸口を見つけるのは、愛猫のためにも再び元気になりたいと思う本人の気持ちと、それを引き出すスキルをもつ専門家が協力し合うことです。

支える側の役割

そして更に健康的な面を強め、本来の状態に戻るためには、サポート役が重要な鍵を握っています。最後まで通院することを支え、理解してくれる存在は、専門家に匹敵するほど大切な役割になります。身近にペットロスで苦しんでいる人がいる場合、まずは否定せずに話を聞いてあげてください。そこで、「〇〇ちゃんに会いに行きたい」や具体的に命に関わるような行動を取る可能性が伺えるような言葉を耳にした場合は、「私は〇〇さんにそばにいてほしいから、まだ〇〇ちゃんの所へは行かないで」などと穏やかに静止するようにしてください。そして、通院することを勧めてあげてください。ペットロスで苦しむ人に次のような言葉をかけないようにしてください。

  • 「早く忘れよう」
  • 「猫のほうが早く亡くなるのは当たり前」
  • 「また飼えばいい」
  • 「頑張って元気を出して」など

愛猫と過してきたかけがえのない日々を忘れることなど不可能です。それを忘れるように促すことは、より事態を悪化させる要因になります。

また、猫の寿命が人間よりも遥かに短いという事実は、猫と暮らす人はみな理解しています。それでも、悲しいのが自然なのです。これはたとえ、長寿で天寿をまっとうしても悲しいことに何ら変わりはありません。だから、「猫のほうが早く亡くなるのは分かっていたでしょ」と諭すことはより傷つけてしまうのです。

そして、励ましの意味を込めて「頑張れ」というのも実は逆効果になってしまうことがあります。今でも十分頑張っている中、これでは頑張りが足りないのか、もっと頑張らなければならないのかと追い詰められてしまいます。猫という存在は、想像以上に大きなもので、心の繋がりをしっかりと築ける相手なのです。信頼関係を構築し、良好な関係と絆で結ばれた猫に変わりなど存在しません。

よって、また新たな猫を飼えばというのは軽率なのです。このように、ペットロスで苦しむ人に寄り添うことは決して簡単ではありません。話を聞く中で、疑問に思うこと、よく理解できないことなどが出てくるのは当然です。それでも、まずは否定しない姿勢が大きな支えになるということだけは理解してください。

悲しみから立ち直るプロセス

手をとる猫

自然なペットロスの場合、悲しみから立ち直るにはいくつかの段階を経て改善していきます。その過程は次の5つです。

1. 拒否

愛猫を失う悲しみは想像を絶する出来事です。最初はその死という事実を受け入れられない状況に陥ります。この不思議な感覚は、数分から数時間に及びます。そして、次第に亡くなったということが現実として受け入れられます。

2. 怒りと後悔

愛猫の死を受け止めると、次に後悔や自責の念に駆られるようになります。どのような別れにも、必ず後悔はついてまわります。「もっと別の選択肢があったのではないか」「自分の行動が愛猫の死期を早めたのではないか」「他の動物病院に行っていれば」など、考えば考えるほど悔いることが次から次へと巡ってくるのです。そして、自責の念が思わぬ思考へと繋げていきます。

3. 交渉

自分を責めるあまり、「この命と引き換えに愛猫を返してほしい」と縋るようになります。愛猫が再び元気な姿で戻ってくるのであれば、自分の命など惜しくはないと、目には見えぬ存在へと訴えかけるのです。この段階で、宗教を装った詐欺師に出会ってしまうと後々大変な事態へと発展してしまう恐れがあります。

また、宗教ものめり込んでしまえば、愛猫と同じくらい大切な存在を失うことがあります。辛くても本当に支えになってくれる存在は、愛猫と過した思い出とサポートしてくれている「人」であることを忘れないでください。時の流れとともに、やはり愛猫とは再会できないと悟ると絶望感が重くのしかかります。

4. 悲しみ、抑うつ

もう、失った時は戻らない。元気な姿で愛猫と再び会うことはできないという現実を改めて思い知る瞬間があります。そして、悲しみの底へと心が沈んでいきます。この段階における抑うつは、うつ病のように深刻なものではありません。まるで出口の見えないトンネルを一人で歩いているような心境になるでしょう。不安になると思いますが、一度とことん落ち込むことも回復への一歩になると信じましょう。やがて、薄暗く長いトンネルに一筋の光が差し込みます。その光とは愛猫と過ごしてきた思い出です。

5. 受容と回復

悲しみ、後悔、やり場のない怒り。トンネルを歩く過程では様々な感情と向き合い続けます。そして、時に目に見えない存在に縋りたいと願う気持ちとそれが叶わぬ絶望感との間で葛藤することもありました。もう何もかも捨ててしまいたいと投げやりになりそうになったとき、ふと光が差し込んできます。愛猫と過した思い出という光が、暗いトンネルを照らし始めます。

そして、悲しむために愛猫と出会ったのではなく、楽しく過ごすために出会ったことに気がつくでしょう。また、愛猫は飼い主さんが悲しみに囚われてしまうことを望んでいないことにも気づくことができるでしょう。ここまでくれば、出口はもうすぐです。悲しい出来事を受け入れ、愛猫に対する感謝の気持ちで心があたためられるようになります。

このプロセスを辿ると、一時的に心身のバランスが崩れてしまうことが客観的に理解できると思います。そして愛猫の死がとても辛く悲しく、涙が止まらないのが自然な反応であるとお分かりいただけるでしょう。ペットロスは特別なことではないのです。

ペットロスからより早く立ち直るために

猫にキスする人

先の項目で紹介した、回復へのプロセスを順調に進んでいくためにはいくつかポイントがあります。ここからは、悲しみの乗り越え方についてご紹介いたします。

泣きたいときは泣く

大切な存在を失って涙が流れるのは自然なことです。悲しいのに我慢して泣かずにいると、どんどん胸が締め付けられるようになってしまいます。無理に感情を抑えようとせずに、泣きたいときは思いっきり泣きましょう。また、押し寄せる様々な感情も否定せずに受け止めましょう。自分自身が否定してしまうと、より一層追い詰められてしまいます。悲しみの深さは、愛の深さです。まずは、自分の気持ちに素直になりましょう。

無理に忘れようとしない

早く立ち直るために、無理して愛猫との思い出を忘れる必要はありません。また、忘れるために急いで遺品を整理することもかえって危険が伴います。後で冷静になったときに、残しておけばよかったと後悔すると、また悲しみの連鎖に引きずり込まれてしまう可能性があります。思い出は、これ以上増やすことはできないものの、振り返ることで輝かせることはできます。そして、悲しみのトンネルから抜け出るための灯りにもなります。愛猫と過してきた素敵な日々は、忘れずに心の中で大切にあたためてあげましょう。

思い出を振り返り、語る

人は、誰かに語ることで思わぬ解決策が浮かぶことがあります。悲しみから立ち直るうえでも語りは大切です。心から信頼できる人に、愛猫との出会いから順に印象深かった出来事について語ってみてください。

気持ちが落ち着いたら猫と触れ合って

徐々に気持ちの整理がつき、心身ともに安定してきたら猫と触れ合う機会を持つことも良いでしょう。これは、もちろん強制ではありません。悲しみがあまりにも大きすぎて、もう二度と猫と触れ合えない場合もあると思います。そのときは無理をしなくても大丈夫です。ただ、心のどこかでまた猫と触れ合いたいという気持ちが芽生えてきたら、少し猫に触れてみましょう。

写真や動画など、最初は刺激の少ないものからスタートし、その後猫と触れ合える環境へと足を運んでみましょう。そして、ご縁があればまた猫と暮らしてもいいと思います。亡くなった愛猫への罪悪感を感じてしまうかもしれませんが、愛猫が願うことは飼い主さんの幸せです。再び猫と暮らすことが幸せに繋がることであれば、愛猫も応援してくれるでしょう。

まとめ

人を見る子猫

現代人を取り巻く環境から、猫を特別な存在として認識せずにはいられません。猫という動物を、自分自身の求めるかたちで受け入れることで幸せになれるのであれば、日々の活力になるでしょう。その分、別れによる悲しみは大きいかもしれません。止めどなくあふれる涙がいつまで流れるのか、複雑な感情に整理がつくのか、いざ別れを経験すると終わりのない悲しみが永遠に続くような感覚に陥るものです。こればかりは、経験の多さが回復に繋がるものではありません。

何度経験しても、悲しいことには変わりません。ここで、大切なことを忘れないでください。愛猫は、あなたが悲しみ続けることを望んではいないこと。そして、人は誰もが健康的な面を持っていること。その健康的な部分を引き出し、伸ばしていくことで壁を乗り越えていけること。その可能性をまずは自分自身が信じることがスタート地点へと導く一歩になります。

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