猫は鏡の中にいる自分を理解しているのか
認識はしているが理解はしていない
猫は鏡に映った何かを認識することはできます。なんなら鏡の中に映った何かに反応して威嚇してみたり、話かけてみたり、一緒に遊ぶような素振りを見せたりします。しかし、鏡の中に映るのが自分だと猫は理解することができません。
というのも動物の世界では、自分という存在を認識できるのはある程度の知能が必要です。たとえばチンパンジー、ゾウ、ブタ、イルカといった動物は自分という存在を認識しているため、鏡の中に映るのが自分だと理解することができます。
しかし猫やほかの動物といった動物には鏡の中に映っているのが何かだとは理解できても、そこに自分という存在が映っているという考えには至らないのです。このことから、猫は鏡の中にいるのが自分だと理解はしていないといえます。
ミラーテスト
鏡の中に映っているのが自分だと理解することを「鏡像認知能力」といいます。この鏡像認知能力を持っているのか調べるテストのことをミラーテストと言います。
その方法は【その動物から見えない場所に、印をつけて鏡に姿を映したときにどのような反応をとるか?】というテストです。このテストをチンパンジーに行ったところ、鏡に映った自分の姿を見てその印がある場所に思わず触れたり直接確かめようとしたのに対して、鏡像認知能力をもっていない動物は自分の体にではなく、無反応だったか鏡の中に映った姿にアクションを起こしました。
この実験の中で犬や猫に鏡像認知能力が備わっている反応は報告されていません。自分の愛猫でもできる簡単な実験なので興味があるかたは是非愛猫でお試しになられてはいかがでしょうか?
猫が鏡を見ても無反応な理由
最初は鏡に映った自分の姿に驚いたり、威嚇してみたり、一緒に遊んでみたり、喧嘩しようとしてみたりと最初は反応を見せていた猫ちゃん、しかし時が経つにつれて鏡を見せても無反応になるどころか特に鏡を見ないという愛猫いませんか?
猫ちゃんは自分自身という存在を理解していませんので、鏡を最初見たとき他の猫がいると思うのです。そのため鏡に映った猫に威嚇をしたり一緒に遊ぼうとするのです。しかし猫は自分を理解できないとは言っても、頭がいい動物です。何度か接することで鏡に映った猫の姿はこの世に存在しないものだと理解するのです。
そのため鏡を何度か見せると、無反応になるどころか興味がなく見向きもしないこが増えるというわけです。そもそも猫にとって自分という存在を認識する必要はないので、人間のように鏡をみて自分の容姿を頻繁に気にする動物のほうがなかなか珍しいのです。
人間は猫と違って嗅覚、聴力で周囲のものや自分という存在を確かめず視覚を重視する動物だからこそ鏡というものが生まれたのかもしれませんね。
鏡をみた猫達のリアクション
それでは最後に猫達の鏡を見たリアクション動画をご紹介します。とっても可愛い反応の数々に癒されてください。
↑声も上げずに静かに驚く姿が笑えます。表情だけで驚いているのが伝わるので本当におもしろいですね。
↑鏡の中に映る自分の姿と戦う猫ちゃん。飛びついたり手で攻撃してみたり、とっても可愛い反応に癒されます。
↑鏡の向こうに違う猫ちゃんがいると思って一生懸命鏡の反対側をみては不思議そうにしています。
↑鏡の中に映った自分に威嚇する子猫ちゃん。初めてみた姿が怖かったのかとにかく威嚇しています。それでもやっぱり可愛いですよね。
猫飼いさんの中には、”ウチの子は鏡に反応するけどな―”と思った方がいらっしゃると思います。
過去に行われた研究から、「猫は、本物ではない猫の『シルエット』に対して、本物の猫と同じように反応する」ということが知られています。このことから、「猫は鏡に映った自分を『他個体』と認識し、それに対してリアクションをしている」という可能性は大いにあるといえます。
また、実験の方法自体に問題があることも指摘されています。そもそも猫は、「細かい物、動いていない物を識別するための視覚的能力が低い」といわれています。つまり、鏡を用いた実験自体、猫にとって不適切な条件だともいえます。
さらに言えば、猫は嗅覚や聴覚によるコミュニケーションの方を頻繁に行います。したがって、鏡を用いる方法ではなく、違った方法で実験をすることで「猫は自分という存在を認識している」ということを証明することは、可能かもしれません。
『猫はシルエットを他個体と認識する』
ameron-Beaumont, C. L. (1997) Visual and tactile communication in the domestic cat (Felis silvestris catus) and undomesticated small-felids. Ph.D. thesis, University of Southampton.
『猫は視覚よりも嗅覚や聴覚でのコミュニケーションが主流』
Shreve, K. R. & Udell, M. A. R. (2015) What’s inside your cat’s head? A review of cat (Felis silvestris catus) cognition research past, present and future. Anim Cogn, 18, 1195–1206
まとめ
今回は猫ちゃんと鏡の関係についてご説明しました。鏡に映った姿が猫だと理解はできても自分だとは理解していない猫ちゃん。
しかし猫ちゃんが本当に鏡の中の自分を理解していないかはわかりません。
だって猫ちゃんはしゃべることはできず、人間はテストによる結果を見ているだけだからです。猫ちゃんは自分に関係の無いこと、興味の無いことには無反応だという報告もありますのでもしかしたら鏡の中に映る自分の姿を見ても「だからなに?」と思っているだけかもしれません。
すべては猫のみぞしるというやつです。いつか猫ちゃんと言葉を使ってコミュニケーションがとれるようになったら是非、鏡についてどう思っているのか聞いてみたいですね。
「猫が鏡を用いて自己を認識した」ということを証明した研究はありません。 したがって現時点では、「猫は鏡に映った姿を自分だと認識しているかは不明である」といえます。
鏡で自己を認識できる動物は非常に限られており、ゾウやチンパンジー、イルカなどが挙げられます。彼らは群れで集団生活を行う動物であるため、高い社会性を持つことが知られています。 この『高い社会性』が動物の自己認識能力と関係している、ということも考えられます。
猫も社会性を持つ動物ではありますが、彼らほどではないといえます。 したがって、「猫は自己認識能力をもっていない」と考えることもできます。
いずれにせよ、研究が行われてない以上、明確な結論は出せないといえます。
出典:草山ら (2012) 自己鏡映像認知への温故知新, 動物心理学研究