猫の「肥大型心筋症」とは
肥大型心筋症は、猫が患う可能性のある心筋症の中で最も多い疾患です。
ポンプの役割を果たす心臓のはたらきが弱くなると、全身に血液が行き渡らなくなります。(循環不全)そして、完全に動きがストップすると命を落としてしまいます。
猫が肥大型心筋症になる原因は不明
肥大型心筋症は断定できるような原因が明らかになっていません。ただし、次のようなものが関連している可能性が考えられています。
- 遺伝子変異によるもの
- バセドウ病(甲状腺機能亢進症)による心拍数の上昇
- ① 血圧降下剤(血圧をさげる薬)
- ② 抗不整脈薬(脈を正しく整える)
- ③ 血液抗凝固剤(血液をサラサラにする薬)
- メインクーン(大型種)
- ラグドール(大型種)
- ラガマフィン(ラグドールから派生した大型種)
- アメリカンショートヘア
- ペルシャ猫
- ヒマラヤン
- スコティッシュフォールド
- ブリティッシュショートヘア
- バーミーズ
- アビシニアン
- 胸にそっと両手を当て拍動を感じ取る
- 15秒間に拍動した数を覚えておく
- その回数を4倍したものが1分間の心拍数になる
バセドウ病は甲状腺の病気で、過剰に甲状腺ホルモンが分泌されることで起こります。この病気を発症すると、常にジョギングをしているような状況に陥るといわれています。このときの心拍数の上昇と肥大型心筋症の関連が指摘されています。
猫の肥大型心筋症の症状
初期の段階では目立った自覚症状はありません。早期発見に至るケースは、健康診断や不妊手術を受ける際の術前検査によって偶然見つかるというものです。
病状が進むと何となく元気がなかったり、食欲が落ちたり、疲れやすいと感じる些細な変化が見られます。
そして、さらに進行すると息が荒くなる(口を開けて呼吸をする)、明らかに運動量が減少している、意識を失うなどの症状が見られるようになります。
症状が出現するきっかけは、何らかのストレスが背景にある場合があります。つまり、他の病気の発症がきっかけになり発見されることもあります。
急に後ろ足がマヒした場合は要注意!
肥大型心筋症の恐ろしいところは、心疾患にありがちな呼吸器系の症状や、食欲不振だけではないことです。愛猫の歩き方が明らかにおかしい。そう自覚した際、真っ先に疑うのは脳や神経の病気でしょう。それが、心疾患でも見られる可能性があります。
肥大型心筋症が原因で後ろ足を引きずっている場合、その要因は「血栓(血の塊)」にあります。ポンプの役目が果たせなくなった心臓の内部では、血液が渦を巻くように流れ心臓内で血栓ができることもあります。また、血液の流れが悪くなり血流のスピードが落ちることで血管内で血栓が形成されることもあります。
様々な理由で形成された血栓が後ろ足の動脈へと流れ、太い血管と細い血管の分岐点へと到着したときに行き場を失います。そして、結果的に血管を詰まらせてしまうため後肢がマヒした状態になるのです。
猫の肥大型心筋症を治療する方法
肥大型心筋症をはじめとする心筋症そのものを治療する方法はありません。ここでできることは心臓にかかる負担を減らすこと、血栓ができにくい状態を維持することが基本になります。
治療は、飲み薬を飲む内科的治療になります。主に次のようなはたらきの薬を飲みます。
①②の薬は心臓への負担を軽減するもの、③の薬は血栓の予防に使用します。血液をサラサラにする薬は、逆にいえば血が止まりにくくなる作用を持っています。よって、使用にあたっては注意が必要になります。
肥大型心筋症にかかりやすい猫の種類
基本的にはどのような猫種でも、覚えておいてほしい疾患になります。その中で、特にリスクのある猫種は以下の通りです。
これら4種の猫は遺伝的な異常によるリスクがあります。
その他、次に挙げる猫種は報告例があり、注意が必要です。
中でもアビシニアンは、まるでアスリートのように活発に運動することを好む猫種です。激しい運動後や、安静時に不自然な呼吸をしていないかチェックしてみましょう。
猫の肥大型心筋症を予防する方法
心疾患の予防には、まず心拍数の正常値を知っておくことが重要です。猫の正常値はおよそ1分間に100~130回です。
この数値を記憶し、日頃からご自宅で計測してみましょう。方法は次の通りです。
これを安静時に行い、130回を超えるような数字が計測されたら要注意です。日を改めて何度か計測し、変化が見られなければ動物病院を受診しましょう。
先ほど紹介した、リスクのある猫と暮らしている場合は、年齢を問わず定期的に検査を受けることをおすすめします。また、遺伝子検査も視野に入れましょう。
日常の些細な異変にいち早く気づくのはご家族です。違和感を感じたら、動画やメモに記録しておきましょう。これらの行動は、診断するうえでとても大きな手がかりになります。
まとめ
猫は基本的には鼻呼吸をします。犬のように口を開けて「ハァハァ」と呼吸すること(開口呼吸)は、猫では自然な呼吸とはいえません。飼い主さんと遊んだ後や、移動するだけで開口呼吸をする場合は、心肺機能に異常がある可能性があります。
肥大型心筋症では、不自然な呼吸や心拍数の異常がひとつの手がかりりになります。特に注意が必要な猫種では、日頃からよく観察しましょう。
そして、突然足を引きずって歩く行動が見られた場合は迅速な対応が求められます。昼夜を問わず、動物病院を受診しましょう。