1.猫のいない十二支
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今年の干支はイノシシですが、これは十二支の中で一番後。この次はまた一番目に戻るのですが、最初の干支はネズミです。
人間にとって、なじみのある動物が選ばれているはずの十二支に猫がいないのは、このネズミに騙されたからという昔話が有名です。
もともと十二支は古代中国で定められ、それがなじみのある動物に置き換えられたのですが、その中になぜ猫がいないのか?という庶民の素朴な疑問から、後付けのようにできたのが、ネズミが猫に干支を決める競争の日付を一日遅く教えたから、という物語です。
それで干支に選ばれなかった猫は恨みに思い、今でもネズミを追いかけているというのも、猫のふだんの姿を見ている人々にとっては納得のできる話だったのでしょう。
実際のところ、干支が定められた古代中国において、猫は高貴な身分の人間が飼育をすることはあっても、まだ庶民にとってなじみのある動物ではなかった、ということがあったようです。
2.招き猫
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商売繁盛の必須アイテム、というのも言い過ぎではないでしょう。それにしてもなぜ猫なのか?ということに関する主な説としては、穀類をネズミの害から守るのに猫が有用であったためというのがあります。
その他にも養蚕農家にとっては蚕を荒らすネズミから守り、仏教の経典を収めている寺でもそれをかじるネズミから守り、と猫は様々な分野で人間の役に立ってきたので、幸運の象徴とされてきました。さらには井伊藩主を落雷から守った豪徳寺の伝承が招き猫の発祥という説など、全国各地に猫が人間を救い、守り神としてまつられた話は列挙にいとまがありません。
招き猫が挙げている手が右ならお金、左なら人を招くといわれております。両方欲しいという欲張りさんのために、両手を挙げている招き猫も存在しますが、これは「お手上げ」といわれ嫌う人もいるようです。
3.猫又
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猫が年を取ると尻尾が二股にわかれ「猫又」になり、体は犬よりも大きく、人語を解し、時に人を食い殺すこともある、といった伝承が古くから日本各地に残っています。それゆえ日本では、尻尾の長い猫より短い猫の方が、猫又になる危険性が少ないだろうということで可愛がられ、自然に尻尾の短い猫が増えてゆきました。明治以降日本にやってきた西洋人の目には、日本には尻尾の短い猫が多い、と映ったそうです。
その短い尻尾の日本産の猫をかけ合わせてできたのが、ジャパニーズボブテイルという品種です。ジャパニーズと名はついているけど、品種改良がなされたのはアメリカです。猫の品種として正式に登録されたのは1980年頃の話です。
この品種に特徴のポンポンのような短い尻尾は劣性遺伝子に当たり、島国という隔絶された空間と猫又伝説によって淘汰されずに生き残ることができたのです。近代において改良され認定された猫の品種の生みの親が、古くから日本にあった「猫又伝説」だったなんて面白いことです。
4.化け猫
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猫又と同じく、日本で古くから恐れられている猫の化け物ですが、どう違うかというと、長生きして妖怪化したのが猫又なら、人間にひどい殺され方をしたり、飼い主が恨みを残して死んだりするとなるのが化け猫です。
化け猫というと佐賀県の鍋島騒動が有名です。藩主の機嫌を損ねた家臣が理不尽にも切り殺され、それはしばらく隠蔽されますが、やがて母親の耳にも入り、恨みに思った母親は愛猫に復讐を託して自害、その血をなめた猫が化け猫となって復讐をする物語です。
化け猫に取りつかれた人間を見分ける方法としては、その者は行燈の油をなめるので、その姿を見て猫の怨霊が取り付いていると判断して成敗するというのが一般的でした。なぜ行燈の油?と現代の飼い猫の食生活を考えると首をかしげてしまいます。
今と比べて江戸時代は、猫にとっても食糧事情が厳しくたんぱく質不足に陥ることが多く、それを補うため油を盗みなめすることが多かったのです。当時の油は菜種のほかに、鰯など魚からも取られていました。
まとめ
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その他にも猫はエジプトでは神とあがめられていたり、中世のヨーロッパでは魔女の使い魔として嫌われたり、良きにつけ悪しきにつけ様々な伝承が残っています。それらの内容をいろいろ検証してみると、どこかに猫の当時の行動パターンが表れているので面白いです。
良い話だけでなく、まがまがしいものとして恐れられる伝承も残っているのは、猫が決して人間に忠実でなく、単独行動を好み、夜に活発になる夜行性の性質を持っていることも原因なのでしょう。
もっともそれすら猫好きとしては、愛すべき特徴の一つであり、化け猫伝説など悪いのは人間の方じゃないか、いやむしろ飼い主の無念を晴らすため復讐してくれようとするとは、何て健気な、と思ってしまいます。
猫又伝説に至っては、我が家の猫は尻尾の長い品種なので、長生きして本当に猫又にでもなってくれたら、うれしすぎて一緒に踊りたくなってしまうでしょうね。