取り残された老猫
相談
それは1本の電話から始まりました。
「飼い主さんご夫婦が施設に入所されて、取り残された猫がいます。保護していただくことはできないでしょうか?」
そういう電話は保護活動をしているボランティアにとってはけっして珍しい相談ではありません。そのすべてを受け入れるわけにはいきません。
「私たちはシェルターをもっていないので引き取りはできません。猫エイズ、白血病の検査をしてノミダニ寄生虫の駆除をしていただいた上でSNSなどで里親さんを探すことはできますが、見つかるまではそちらで保護していただくことになります。それでよろしければお手伝いさせていただきます。」
いつもそう答えるしかないのが現状。全てを快く受け入れて入たらもうとっくに多頭崩壊しています。
動物ボランティア団体=引き取ってくれる所。そう勘違いされている人の方が多いと思いますが、それはとても悲しくて厳しい現実があります。
命を最優先に考えたいのですが、あまりにも人頼みの人達が多すぎて、少なくとも私達にとっては、それが悩みの種になっております。
この相談者は「またご連絡します」で一旦その電話は終わりました。
ディ・アンクさんの投稿 2018年11月26日月曜日
電話
その日は、センターに捕獲された迷い犬の飼い主さん探しのためのポスティング活動に出かけました。
迷い犬が捕獲された周辺のポスティング、そしてその町の小中学校を訪ねていき、生徒たち全員に迷い犬のチラシを見せてもらい、情報収集を行う、それをいつも迷い犬がセンターに収容されるたびに私達は繰り返しています。
その活動が一通り終わって、家に帰ろうとした時、私の携帯電話が鳴りました。
朝、ご相談があった猫の件でした。
今度は朝かけてきた人の妹さんという方で、ひとり取り残された猫に餌を毎日やっているとのこと。
よく話を聞くと、私がその日ポスティング活動をしていた所から車で30分くらいの場所だったので、ついでに寄ってみようかということになりました。
家からだと1時間以上かかる場所でした。でも、そのポスティング活動で訪れていた町からならその半分以下だったので、ならこのまま行ってみようとかという気持ちになったのです。
本当にそれは偶然でした。その場でその時ポスティング活動をしていなければ、多分遠すぎてとても行く気にはならなかったかもしれません。
それほど、私たちは毎日活動、活動で疲れきっていました。
正直、実際に動けるボランティアの手があまりにも足りていないのです。
ディ・アンクさんの投稿 2018年11月26日月曜日
現場
現場までは思ったより遠かったです。知らない場所ということもあり、余計にそう感じたのかもしれません。
それは広い市内の北のはずれにある集落でした。
電話してきた女性は、ボランティアの餌やりさんでした。
飼い主さんご夫婦が施設に入所入院された後、その家の娘さんも重い病にかかり入院されるというので、その娘さんの幼馴染の女性が、毎日その家の猫のために通いで餌をやり続けて既に三か月が経っていました。
いつからそういう状態だったのか、最初は猫はガリガリの状態だったそうですが、三か月間、その女性が毎日餌を与え続けた結果、かなり健康状態は回復したようです。
なんと猫は15歳の高齢。
生後半年の時に避妊されたというその子は生まれてから一度も家の中に入れられたことはないというのです。それは完全なる外猫でした。
呼びかけ
どうしたものかと正直戸惑いました。
猫は完全に外猫です。
私達は外猫の里親探しはこれまで一度もしたことがありませんでした。
外猫で15歳…その子の条件はけっして良いものではありませんでした。
それでも、フェイスブックで呼びかけてみました。
猫の名前は”ちびちゃん”
★この子を誰か助けて下さい!★本日、ご相談があった案件です。川棚の迷い犬のポスティングに行っていたので、ご相談者の所(豊北町)まで足を延ばしてきました。ご相談内容はこうです。「外猫なのですが、小さい時からずっと餌をやられている...
ディ・アンクさんの投稿 2018年11月26日月曜日
ディ・アンクさんの投稿 2018年11月26日月曜日
保護
投稿を観て、ある女性が電話してくれました。
その女性がすぐに一時預かりの心当たりがあるというのであたってくれたところOKが出たというので翌日、保護しに行くことになりました。
でも、朝、またその女性から電話がかかってきて、一時預かりを昨日OKしてくれたところが一晩冷静に考えて、やっぱり命を預かる責任が重すぎると断ってきたというのです。
ショックでした…保護できると喜んでいたので…
しかし、その女性は諦めませんでした。
「なんとかします。20~30分時間をください。他を探します!」
私達には預かってくれるような人の心当たりはなかったので、その女性の言葉を信じて待つしかありませんでした。
それはとてもとても長い30分でした…
「どうか、見つかりますように…」
その結果…何人にも電話をかけて、とうとう、この電話で最後という人でOKが出たそうです。
そして、その家のご家族全員がOKという了解を念のためとってくださり、私たちはチビちゃんの保護に向かいました。
餌やりの女性が私たちが到着するまでチビちゃんを捕まえて待っていてくれました。
健康優良児
チビちゃんは15年間もお外暮らしだったわりに、何も問題がない健康状態でした。
ノミ、ダニ、寄生虫、一切なし!もうこれは奇跡のような結果でした。
一時預かりさん
チビちゃんを預かって下さったお家は、年配のお父さん、お母さん、そして息子さん夫婦の二世帯4人のご家族でした。ご家族全員動物が大好きという家庭でした。
1年前に、愛犬が亡くなり、お父さんが酷いペットロスになっているとのことでした。
このご家庭は猫は初めて。
チビちゃんが到着するまで、猫の飼い方をネットでいろいろ調べて、楽しみにしてくださっていました。
夕方、病院に連れて行って、ノミダニ駆除や爪切りなどをすませて、一時預かりさんの家にチビちゃんをお届けした時にはもう夜になっていました。
到着したばかりのチビちゃんをこの家のお父さんが抱っこして放さなかったのは印象的でした。
チビちゃんは、あまり人馴れしていないときいていたのですが、抵抗することなく抱かれていました。
一時預かりさんのご家族は二世帯同居で全員が動物好きだという事です。チビちゃんを早々抱っこされたお父様は、愛犬を亡くされてペットロスになられていたそうです。
ディ・アンクさんの投稿 2018年11月28日水曜日
交渉せず
今回のように致し方なく猫を引き取るときは、飼い主さんと飼育費、医療費などの交渉をします。
里親が決まるまでのそれらの費用は飼い主さんにすべて出してもらうのですが、今回は、費用の交渉は一切しませんでした。
チビちゃんの飼い主さんは、ご家族3人とも、かなり体調が悪く、とてもチビちゃんのことで交渉ができるような状態ではなかったからです。
なので、フードと砂などの飼育費と医療費は里親様が決まるまで、私達団体持ちでした。
とりあえずは、寄付でいただいた猫砂と、飼い主さんが買い置きしていたフードを譲り受けていたので、私達で購入したのはチビちゃん用のトイレ容器だけでした。
一時預かりさんを紹介してくださった支援者の女性が猫じゃらし、クッション、毛布、首輪などをチビちゃんへと、プレゼントして下さいました。
チビちゃん用のケージは、一時預かりさんが購入して下さいました。
みんなでチビちゃんをなんとかしようと出し合いました。
ディ・アンクさんの投稿 2018年11月30日金曜日
信頼
チビちゃんは、一時預かりさんの家の中で嘘のように落ち着いていました。
泣くでもなく…暴れるでもなく…15年間ずっとお外生活をしていた子とはとても思えないほど、室内猫として、落ち着いていたのです。
チビちゃんは、一時預かりさんの家で約10日間、経過観察をした後、里親探しを開始することにしました。
ひなたぼっこをしながらのお昼寝がチビちゃんの定番になったみたいです。15年間のお外生活から、突然保護されて室内生活になったわけですが…泣くこともなく、暴れることもなく、順応しているみたいですよ。
ディ・アンクさんの投稿 2018年12月3日月曜日
確認
経過観察がそろそろ終わるというある日、一時預かりさんにどうするかこのご家庭を紹介して下さった女性を通して最終確認をさせていただきました。
「今度の土曜日で経過観察の10日間が終わるので、日曜から里親探しを開始するにあたり、一時預かりさんのお気持ちを確かめたいのですが…」
ソファーの上でお腹丸出しで寝ていたそうです。
ディ・アンクさんの投稿 2018年12月3日月曜日
お返事
一時預かりさんのご家族全員で話し合った結果、「チビちゃんに里親さんが見つかると、またお父さんがペットロスになってしまいかねないので、チビちゃんはこのまま私達家族が引き取ります。」というお返事をいただきました。
チビちゃんも、なついているし…それがこの子にとっては一番幸せだと思いました。
新しい生活
チビちゃんは、『エルザ』と命名されました。
チビちゃんは外猫生活15年にピリオドをうち、エルザとして新しい室内猫生活が始まりました。
あとどのくらいエルザとして元気で過ごせるかは誰にもわかりませんが、もう一人ぼっちでお外に取り残されることは二度とないと思います。
いつの間にか首輪が、凄くゴージャスになってました!迷子札もつけられています。
ディ・アンクさんの投稿 2018年12月3日月曜日
最後に
私達だけですべての市内の猫達を助けるわけにはいきません。
今回は、1匹の猫を巡って複数の市民の善意が集まりました。
野良猫の子として産まれたチビちゃんを15年間、自分の家の猫として飼い続けてくれたご家族。
三か月も通いで餌をやり続けてくれた女性。
相談を受けた私たちの呼びかけに一時預かりさんを必死で探してくれた女性。
そして一時預かりを快く引き受けて下さり最終的に里親様になってくださったご家族。
みんなが1匹の猫のことをなんとかしようと動きました。
最後に、三か月間餌をやり続けてくれた女性のお兄さまからこんなメッセージを頂きました。
「餌をやっていたのは私の妹です。妹は要介護5の親の介護を持病をかかえながらしていて、思い余って、妹の前にそちら様にお電話させていただきました。検査などもできていなかったし諦めかけていました。本当に有り難うございました。」
三か月間、チビちゃんにフードをやるために通い続けて下さった女性にも心から感謝です!この女性が命を繋いでくださったおかげでチビちゃんは幸せ切符を掴むことができました!!
ディ・アンクさんの投稿 2018年12月8日土曜日