多頭飼育崩壊とは
英語では、アニマルホーディング(Animal Hoarding)といいます。動物やペットを多数飼育していくうちに 繫殖を重ね、数が以上に増えて飼育が不可能になることです。過剰多頭飼育者のことをアニマルホーダー(Animal Hoardier)といいます。
猫が40匹以上!通報を受けて駆けつけた
公営の住宅の管理会社からの入電
まだ、春にならない3月の終わり。公営の住宅の管理会社から電話が入りました。入居者の高齢のおばあちゃん宅で、猫が40匹以上になり、臭いや鳴き声に対する周囲からの苦情があるので、見に来てほしいとのことでした。
問題のお宅へ
連絡を受けた夕方 もう薄暗くなってから現場に行くと、まだ玄関にたどり着いていないのに、猫のアンモニア臭がします。部屋に入ると玄関直ぐに1段ケージが置かれておりそこにオス猫・メス猫・生まれて2週間くらいの子猫2匹が入ってました。
「靴で入ってもいいですか?」といいたくなるような惨状。
1歩入ると あちこちから猫が飛び出し、慌てて隠れ、部屋の中は排泄物の匂いで息をするのも苦しく、目がアンモニアでシバシバしてしまいます。幸い(笑)私は、花粉症で マスクをしていたので、それでも臭いは防げていたのだと思います。
飼い主はおばあちゃん
飼い主は80歳近い 少し認知症の入ったおばあちゃんでした。
「最初はね、2匹だったんだよ。そのうち増えちゃったの」
といいます。普通の保護猫活動者ならたぶん怒鳴るところ。でも、ここで怒鳴って委縮させたり、反感を持たれたりしては 猫の保護がやりにくくなる場合が往々にしてあります。
猫が増え続けた理由
「そっか。。。避妊去勢手術してないと増えちゃうよね。そういうのしようとは思わなかった?」
と聞くと
「やろうと思ったよ。1匹外に出してる子はやったの」
といいます。
「お金が高いんだもんね~できなかったんだよ」
確かに普通の獣医で避妊去勢をすれば、1匹30000円近くかかることもあります。聞けばおばあちゃんは生活保護。そして住まいが1階だったので、猫はベランダから自由に行き来できるのです。
外の猫が入ってきたってわからないのです。3部屋ある部屋には どこも猫がたくさん潜んでます。こちらの様子をじっとうかがってる猫。足元にスリスリしてくる猫。
劣悪な環境にいた猫とおばあちゃん
「餌はどうしてたの?」
と聞くと
「食べさせてたよ、ほら、あそこ」
と言って見せてくれた餌箱にはこの数には到底足り無い、それも質の悪い餌が置いてありました。テレビの後ろには猫の排せつ物が山になっていて
「おばあちゃん、どこで寝てるの?」
と聞くと、
「このソファに寝てるの。ここだけしかいれないの。あとは全部猫がおしっこしちゃって。布団もないの」
といいます。確かに部屋の隅に高く積まれたお布団には、おしっこのシミがついています。臭いもすごいです。
まだまだ見つかる産まれたての子猫
冬場だったのでコタツがしてあり、
「この前 ここで子猫が生まれたんだよ」
というので、「えっ?」と思い、おしっこで湿ったコタツ布団をめくると「生まれて2週間くらいの仔猫が2匹。電気もついていないこたつの中で寝ていました。
「ねぇ、おばあちゃん、この子猫、まだ小さいからさ。ここにいると風邪ひいちゃうから、私が連れていって面倒見てもいい?」
と聞くと
「うん、いいよ。あっちの部屋でも昨日、仔猫生まれたの」
というので、隣室に行くとそこには山と積まれたなんだかわからない荷物。「この中で産んだんだよ」と言われても、部屋の電気はないし、この荷物じゃ探すに探せない。
「お母さん猫はいる?」
「うん、いるよ、ほらっ、あの子だよ」
と、指差した先には警戒心の強そうなまだ若い母猫。でも、母猫がいるのなら安心かな?と思い、その時は保護せず。
猫を保護するのにもお金がかかる
一通り説明を聞いた後、おばあちゃんの息子さんにも来てもらい、現状と猫のこれからの話をしました。これがとても不思議なことなのですが、多頭飼育崩壊させてしまう人にはあまり罪悪感というのはないケースがほとんどです。
こうして来てもらっていることもこんなに増えてしまって窮屈な思いをしている猫達に対しても、「悪いなぁ」と思う気持ちが感じられないのです。
保護すると言っても現実問題お金がかかります。40匹以上の猫の避妊去勢・ワクチン・血液検査・便検査・ノミダニ駆除等の医療措置をするには、相当なお金がかかるのです。
国や県から助成金をもらったり、寄付が多額だったりするわけでもなく、まず、お金がかかることを認識してもらわないと、また繰り返すことになります。
息子さんの言葉に愕然
息子さんに話すと「お金かかるなら、保健所に連れていってください」と。
この言葉で、押さえ込んでた怒りに火が付きました。勝手にこんなに増やしておいて、お金を払いたくないから保健所に連れていけとは何事か!と。認知症のおばあちゃんにそんなことを聞いても仕方ないと言われてしまいそうだけど、
「おばあちゃんはどうしたいの?この猫達みんな殺してもいいの?」
と聞くと
「やだよ。かわいそうだもん」
といいました。
「多頭飼育崩壊≒悪」ではない
そうなんです。「多頭飼育崩壊≒悪」と、思ってしまいがちだけど、本来は、動物が好きでかわいそうだと思って飼いはじめ、猫や犬に対しての知識不足・経済的な事で起こることが多いのです。
「そうだよね。じゃあさ。今日はもう夜遅くて見えないし、猫達も捕まらないからさ。明日の朝来てもいい?もう一度」
というと
「うん、来てくれるの?」
と、おばあちゃん。
「うん、明日さ、猫達を連れて帰れる準備してまた来るね。とりあえずさ。子猫はここだと寒くてかわいそうだから、連れて帰るね」
といって、玄関先の子猫2匹も連れて帰りました。
猫の保護を開始
翌日から代表を含めたメンバーで保護を開始しました。代表の一声は、もちろん怒りでした。なんとかなだめて、猫を1匹ずつつかまえてキャリーバックの中に入れて行きます。慣れてる子は抱っこしてつかまえて、中には妊娠している子もいて、一刻を争うような子もいました。
荷物や排泄物に苦戦
ただ、なんといっても邪魔になるのが、山のように積まれた荷物です。その中に隠れられてしまうと、人間は入れない。かといって、荷物をどかす場所もない。おばあちゃんが捕まえる事ができる猫は、ケージに入れておいてもらったり、何度も何度も足を運びました。
テレビの裏に山のようになっていた排泄物を片付けたり、掃除したり、餌を運んだり。(ゴミ屋敷のテレビをよくやってますが、あれを見てられるのは、臭いがないからだとわかりました。)
ほぼ1か月半、通いつめ。数が多すぎてシェルターでは保護しきれず、私ともう一人の家で面倒をみて、獣医に連れて行き、必要な医療措置をとって。
里親募集を開始
健康な子から随時、里親募集を開始しました。幸いなことに、若い猫が多かったので、里親さんは次々決まっていきました。
「この子はさ、私が飼うからね」
と、おばあちゃんは言いましたが、
「手術してさ、いいおうちにもらってもらう方が幸せじゃない?おばあちゃんはさ、時間やお金、自分のために使ったほうがいいんじゃない?病院も行きたいって言ってたじゃない?」
と言って説得しました。
荷物の裏に隠れる猫達
でも、捕獲器をかけても捕まらない猫がいます。山のような荷物の中に隠れてしまう猫達が数匹。最後まで捕まりません。この荷物をどかさない限り、捕獲は難しい。それが結論でした。
「これは全部捨ててもいいんだよ」とおばあちゃんは言いますが、不良品の撤去だってお金がかかること。おばあちゃんには、支払い能力はなく。
協力してください
市との話し合い
そんな中、市とおばあちゃんのケアマネと管理していた会社と私たちと話し合いが持たれました。
犬のボランティアをしていた人がいて、別の市で犬の多頭飼育崩壊が起こったとき、市が協力してくれて、不用品の撤去等を無料で協力してくれるなどがあったことを話しました。
最初は、「協力できない」と頑なに言い張っていましたが、生活保護を受けている人に生活保護を支給するにも毎月、審査があるはず。生活保護で猫40匹以上を飼うのは難しいことを把握していながら、手を打たなかったのは市の責任です。
職員では埒があかず、市長に談判し、ゴミの撤去作業を無料で引き受けてもらいました。
管理会社との話し合い
そして、部屋を貸していた管理会社にも責任があります。聞けば、近所の住民は、何度も管理事務所や会社に苦情を言いに行き、管理会社は5年以上前からこの状況を把握していたと言いました。
普通の不動産会社なら、会社をあげての弁償騒ぎになる話です。なので、管理費をもらいながら見過ごしていたことは、管理会社にも責任があると言いましたが、その場にいた職員は逃げ腰だったので、こちらもせめて、医療費の負担はしてほしいと会社の長に直談判しました。
そして、二度とこんなことが起こらないようきちんと管理してほしいとお願いしました。こちらもなんとか話が通り、必要な医療費の一部を負担してもらいました。
やっと残りの猫を保護したけど・・・
不用品が撤去でき、再び捕獲器をかけ 残りの猫を保護。でも、不用品の山の下からは、いつからそこにあったのかわからない3匹のミイラ化した子猫が見つかりました。
多頭飼育崩壊にならないために
今回のケースのように、飼い主を孤立化させてしまうことで、頑なになり、心を閉ざし、多頭飼育崩壊は起ります。「本当は相談したいけど、言えない」「自分ではどうしていいかわからない」
最近は、一人暮らしの高齢者も多く、寂しさを紛らわすためにペットを飼い、それがどんどん増えてしまい、気づいたときには部屋中に犬や猫。そういうケースも多いのです。
周りの人に相談して欲しい
「めんどくさいことになるから関わりたくない」そう思う気持ちはわかりますが、子供や親戚・友人・近所の人、高齢者の場合はケアマネなどが、数が少ないうちに相談してくれれば大事にはなりません。
保護団体は、通常の値段より安く医療措置を施してくれる獣医を知っていたりします。また、「どうぶつ基金」では、避妊去勢手術を推進するために、協力獣医でのみ受けられる無料チケットをインターネットから申し込むこともできます。
「めんどくさいことに関わりたくない」と思っているうちに、もっと「面倒なこと」になってしまいます。
多頭飼育崩壊してしまう人は、心に何かを抱えていたりする人が多いので、責めるのではなく話を聞いて一緒に解決し、命を救えるように周囲が気を付けるだけで、こういうケースは減っていきます。
ちなみにこの時保護した猫たちは、全員、新しい家族が見つかりました。
50代以上 女性 ポッポちゃん
誰かに助けてもらわないと言っても、大丈夫よなんとかすると
この状況を大変とは思ってない。部屋もボロボロ飼育崩壊です!
誰かに助けてもらは無いと自分達ではどうすることも出来ません。
ちなみに娘36歳。
助けてください!